第27話補足: シンギュラリティとか命名
「SciFiを書いてみよう!」において、「命名によって、それが何なのかを知った気持になれるからだ。」と書きました。それについて補足しておきましょう。
「シンギュラリティー」という言葉があります「特異点」、あるいは「技術的特異点」と日本語では呼ばれます。とくに、宇宙物理学における特異点と、人工知能における特異点を考えてみます。
まず宇宙の方。ブラックホールの中にある特異点です。こっちはブラックホール以外のことについても言えるかな。ビッグバンのまさのその瞬間とか。数学における特異点というのもいろいろありますが、それもまぁこれと同じような感じ。それで、どういう意味かというと、「解析不能」ということです。つまり「ここ、わかんないから、特異点という名前を着けておこう」というようなものです。あるいは、従来の方法の対象外になる場所とかという意味でも使われたりします。要は、「例外」となる条件や場所です。正体不明なところ。
さて、正体不明なところに「特異点」という名前をつけても、その正体がわかるわけではありません。正体不明なままです。ですが、ブラックホールの特異点とかビッグバンの特異点と言うと、ある空間的範囲や時間的範囲を指すものとして、逆にその空間的範囲や時間的範囲を指しているかのように思えるのではないでしょうか。
でも、正体不明なままです。
あるいは人工知能の特異点。「人間並み」というような条件で言われることはありますが、じゃぁそれってどういうことなのかというと、わかりません。どういう機能があって、それがどういう役割を果たすのか。わかりません。
先日GIGAZINEにこういう記事がありました。
「人工知能について今知っておくべき10の事柄」
(http://gigazine.net/news/20160226-artificial-intelligence-ten-things/)
これの「08:スーパー・インテリジェントAIは3つのタイプに分けられる」のところですね。「oracle」「genie」「sovereign」という三つの分類があります。それぞれベクトルが違うという面はあるものの、統合も可能でしょう。だいたい、今の計算機やプログラムだって、どれか一つの特徴しか持っていないわけではなく、割合の違いのようなものです。
あるいは「Oracle」にしても、ではその託宣を人間がどう受取るかによって、いろいろな未来がありえます。
「Genie」にしても、「命令」とはどういう単位なのでしょうか。
「Sovereign」は、まぁ普通に考えられる自律型のAIでしょう。では、現在のOSは、相当しないのかというと、相当します。「計算機を支障なく動かしてくれ」という要請がそもそもあり、メモリの管理や今どきならコアの使いかたとか、いろいろ自分で決めて動いています。
なら、人工知能の特異点は、仮に方向はこの三つとして、どれのどこが相当するのでしょうか。
いやいや、それを言うなら、電卓が出た時点で、もう人間の特定の能力は凌駕していたわけです。
いったい、人工知能の特異点とはどこに存在し、どういうものなのでしょうか。
答えは、「わからない」です。
ですが、それに特異点という名を与えることにより、「何かそういうもの」ということを理解したような気分になります。ですが、おそらくそこで想像するのは、特異点そのものではなく、特異点を越えたどこかでしょう。特異点そのものは、正体不明です。
命名は便利であるとともに、危険でもあります。正体不明のものをわかった気持になってしまうからです。
あるいは、「一般相対性理論」という名前があります。これはちゃんと式が存在するものです。ですが、ではどういう式があるのか、その式はどういう意味なのかを理解したり説明したりできる人は、人間全体の何%いるでしょうか。
にもかかわらず、SF(それが何であれ)においては、「相対性理論」によって不思議現象を描こうとしたり、逆に描くのを省こうとしたりします。
名前というのは、このように、わかったつもりになるという危険なものです。
ところで、理系では名前は結構いいかげんに扱われます。絶対ではないですね。そういう傾向があるという程度。公式とかも人の名前だったりとか。工学系やとくに情報系ではそれが顕著ですが、言葉遊びだったり。「名は体を表わす」のを意図的と言えるほど否定しようというような傾向があります。
まぁ、それが命名の危険性を意識したものなのかどうかは知りません。もう伝統みたいなものだし。
ただ、これによって、わかった気になるというのから距離を置けるとは言えると思います。その分、外からみるとわかりにくくなっているかもしれません。ですが、わかった気になるよりも、「わからないということがわかる」方がはるかにましなのは、言うまでもありません。
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