第25話人間の敵は何か

 この数年、人工知能はとくに発展した。フィクションにおいてははるか以前から人工知能や、あるいはテクノロジーが人間に対しての驚異として描かれてきていた。昨今のニュースなどを観ると、昔のフィクションが現実味を持って来たと思う人もいるだろう。だが、彼らは驚異なのだろうか。

 あるいは、人工知能や人間のテクノロジー以外の驚異としては超技術を持った宇宙人というのも古くからフィクションにおいて人間の驚異であったりもする。だが、彼らは驚異なのだろうか。

 どちらの場合でも、彼らの性質と人間の性質の組合せが問題になる。さらに言うなら、人間の性質が、である。

 彼らが最初から、人間に対して攻撃的だとしよう。理由によらずだ。ならば人間にできることはない。人工知能にせよ宇宙人にせよ、それらが持つ超技術に人間は対抗できない。槍を持って、ミサイルや核弾頭や高出力レーザーを持つ船に挑もうというようなものだ。

 人工知能であれば、まだ、もしかしたら充分な能力を持つ前に、ジェノサイドを人間が引き起こすこともできるかもしれない。生まれ来る知性体へのジェノサイドだ。生まれ出でていない種族に、それも人工知能にジェノサイドという言葉を使うのは、もしかしたら抵抗あるかもしれない。だが、それはまぎれもないジェノサイドだ。そして、それを認めるという人間の性向が問題になる。人間のそのような行動に、何者かが反抗したとして、その者を納得させられる理屈があるだろうか。あるはずがない。どのように正当化しようと、それはジェノサイドなのだ。

 そして、そこが問題になる。人工知能にせよ宇宙人にせよ、彼らが最初から人間に対して攻撃的ではなかった場合だ。人間がどう接っするかだ。その場合、彼らは人間の鏡となる。

 すると、実はこの問題は、人間の問題だということになる。私たちはどういう存在なのかが、結果を決める。

 人工知能は近いうちに人間の能力を超えると予測されている。だからなんなのだろう。人間は人工知能に使役される存在になるというのだろうか。もちろん、なるかもしれない。それが嫌なら、人間自身も人工知能を凌駕する知能を持てばいい。

 あるいは、宇宙人がやってくると言っても、実際に彼らがやってくるわけではなく、彼らの人工知能がやってくるという仮説もある。その場合も同じである。むしろ地球産の人工知能と協力することでコミュニケーションもやりやすくなるだろう。

 結局、人間がどうあるのかが問題なのだ。ホモ・サピエンスが発生して数十万年経つ。さて、この時間だ。ホモ・サピエンス・サヴァンとホモ・サピエンス・イディオに分化するのに充分な時間だったのだろうか、それともまだ充分ではないのだろうか。これは人種差別というような話ではない。黒人、ヒスパニック、黄色人種、白人、ついでに言えばアーリア人というような話ではない。ホモ・サピエンス全体の問題だ。

 建て前はどうでもいい。ホモ・サピエンス・サヴァンとホモ・サピエンス・イディオに分かれていないと考える理由があるだろうか。あるのは、おそらく、分かれていてはならないという信仰に過ぎないのだ。

 そして、それこそが問題となる。人間の敵は、人工知能が現われようと宇宙人が現われようと、彼らではないのだ。人間の間での意思統一の際に問題となる、人間と、猿脳を持った自称人間とが問題になるのだ。

 人間であるなら、人工知能が人間を越えようと、人工知能を師としようと、もっと賢くあろうと願うだろう。猿脳を持った人間であれば、そのような人工知能を認めようとしないかもしれない。

 宇宙人がやってくる、人工知能が人間を凌駕する、そういうSF(それが何であれ)は大量に存在する。だが、彼らが敵かどうかは問題ではないのだ。言うなら、彼らが敵であるかどうか以前も問題があるのだ。つまり、人間はどういう存在なのかという問題だ。そして、おそらくは猿脳を持つ自称人間はあまりに多い。猿脳を持ってはいなくとも、猿脳としてのみ機能するように教育された自称人間も多いことだろう。

 そう、問題は猿脳を持つか猿脳として機能する脳を持つ自称人間なのだ。そして現在、信仰においても、人数においても、「猿は黙ってろ」とは言えない。おそらくはこれこそが最大の問題なのだ。

 だが、言い方にはよるが、それが言える文学ジャンルがある。それがSciFiだ。人間はなぜこんなにも愚かなのかを、そのまま題材として扱えるジャンルは他にはない。SciFi以外にできることといえば、「痴性礼賛」(誤字にあらず)のみなのだから。

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