Ending Phase 2 ~アイリーン・ジャールート~
空港ロビーの二階で営業するカフェテラス――その向かいの到着ターミナルと、リムジンバスの停留所を眺めることが出来る窓際の席で、UGN執行部情報本部情報班第二グループに所属する諜報員の
「……結果として《
「ええ、分かっています。
彼女はデータを受け取ると目礼を返して席を立つ。その背にだけ聞こえる音量で、愛莉は小さく呟いた。
「
女性エージェントは答えない。だが、彼女が頬を緩めたのを愛莉は感じ取っていた。
FHエージェント
S県F市にはUGNの活動拠点がなく、支部を設立しようにも《乱痴気騒ぎ》セルの実働部隊――インシナレイターとその部下たちによって妨害・阻害・被害を受けてきた。
そこで霧谷雄吾は、《乱痴気騒ぎ》セルが傭兵派遣セルの《
だが、FHそのものが滅びたわけではない。奴らは1つのセルが潰れても、すぐさま新たなセルが生まれてくる。イタチごっこだ。FHという組織を倒すには、全てを統括する中心部――全貌が謎に包まれたセントラルドグマと呼ばれるモノを討たなければならない。
どこに居るのか、何者なのか、どんな能力を持っているのか――全てが謎でありながら、絶対支配者として存在するモノ。
それは表には絶対出てこない。闇の奥深くで、日常に生きる人々を嘲笑うモノ。
奴ら陽の下を引きずり出す事が出来れば、犠牲を払う事なくUGNは勝利することが出来るだろう。だからこそ
「すべて世は事も無し。そうであるための
愛莉は人肌に冷めたブレンドコーヒーを飲み干して席を立った。
真賀田愛莉――
『世界』を護るために、『世界の敵』となる
『アイリーン・ジャールート』という仮面を被り、昏き道を歩んでゆく。
その行き着く先が、誰にも顧みられることのない死であったとしても。
「――やっと帰ってきたのかよ、サイコ女」
セーフハウスに戻ったアイリーンを待っていたのは、汚く散らかされたリビングのソファーをベッド代わりにして寝そべる銀髪の少女だった。
「昨日の夜からメシ食ってなくて腹減ってンだよ。なんか買ってきてねえンかよ?」
彼女は機械式のガントレットに覆われた右手で頭を掻きむしりながら、大口を開けて欠伸をした。慢性的に寝不足なのか、目の下にクマが浮かんだ双眸でアイリーンを睨みつける。彼女は、アイリーンがとある任務で知り合った――そして何故かこの部屋に居着いてしまった――FHによって育てられた戦闘員の少女だ。
アイリーンは部屋の惨状もさることながら、絶賛絶食中の少女に眉根を寄せた。
「ハァ? ちゃんと一週間分の食材を冷蔵庫に入れといたでしょ。私、任務で出かけてくるから、冷蔵庫の中の物で適当に食べてって言ったわよ?」
「うっせえな。さすがのアタシだって生肉なんか食わねえよ!」
「誰が生で肉を食えと言った!? 材料はあるから適当に料理しろ――って言ったのよ!」
「……アタシが料理なんて出来るわきゃねえだろ」
「あんたねぇ……」
帰宅して早々に頭の痛い思いをしつつ、アイリーンは飲みかけのペットボトルやブロックタイプの栄養調整食品の空箱や包み紙を避けてキッチンに入る。
せっかく肉類を多めに入れておいてやったというのに恩知らずな小娘め――飲み物と菓子類だけ手を付けられた冷蔵庫の中身を見て毒づき、アイリーンは消費期限を若干超えてしまった鶏肉と、冷えて萎れた青菜を野菜室から取り出した。
この分では米も炊いてないだろう。今から米を研いで炊飯器に入れるのも面倒だ。いっその事、チキンパエリアにでもするか。トマトはカットの缶詰があったはずだ。
「――ってか、お前、どこ行ってたんだよ、一週間も。任務だって言ってたけどさ……いったい、どんな任務だったんだよ?」
調理の用意を始めたアイリーンへ、リビングで寝っ転がっている少女が問いかける。アイリーンはフライパンをコンロにかけながら、唇の端を吊り上げた。
「
ディア・ハント~Deer hunt~ 芳川南海 @ryokuhatudoumei
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