滅入ノレ

 あの日以来、早岐はいきは一度も洗濯をしていない。安い新品の服や下着を長いこと着たきりにして、耐えきれなくなったらまた新しいものに着替えると云う生活を、もう五年近くも続けていた。「あの日」とは勿論、3.11のことだ。

 どうしてそんなことになってしまったのか、早岐にも理由はよく判っていない。ただ「洗濯するのが馬鹿らしくなった」と云う気持ちはある。人に会うことも、外出することさえ稀な毎日を送っているから、何とかなっているようなものだった。不潔で不経済だと頭では理解しているが、クリーニングに出すよりは安上がりだったし、第一洗濯機を修理するのも億劫なのだ。どうせ、そう長くは続かないだろうと思いながら、また一日が過ぎてゆく――。


(2015-06-07)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

旧作0 岸田解 @belacqua

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る