第2話 入学式前の日常!


「ふわぁ~あぁ」


 二人と一反を追い払った後、これと言って何事もなく無事学校にたどり着いた俺は、真っ先に教室に入り机に突っ伏しながら、大あくびをかましていた。

 二年になったからと言ってこの高校は特にクラス替えなどもなく、特にクラスの確認作業などの面倒事もないのだ。実に素晴らしい。

 そんな朝の僅かな至福の時間。声を掛けてくる者が居た。


「おはよう。おまえ、相変わらずねむそうなやる気のねえ顔してんな」

「おう。なんだ不届き者め。俺の至福の時間を邪魔しおって」

「やかましいわ。な~にが不届き者じゃこら。孤独を謳歌してる寂しいお前に、親友である俺がわざわざ声を掛けてやったんじゃないか」


 などとのたまうコイツは俺の古くからの、具体的には小学一年のころからの悪友。名を杉田一色すぎたいっしき。イラつくほど見た目が整っていて、無駄に健康的な小麦色の肌をした何処にでもいるごくふつーの学生……ではなく、この辺の地域限定でそれなりに居なくもない妖怪学生だ。小学一年のころから知り合いと言う事から分かる通り、妖怪学生仲間である。

 ちなみに種族は琵琶牧々びわぼくぼく。妖怪画では頭が琵琶の座頭っぽい姿で描かれている。琵琶の音色で鬼すら魅了する妖怪。琵琶法師の思いが変化した琵琶牧々ではなく、人々の想像や記憶より生まれたタイプ。だからなのか一色コイツの得意な楽器はギターである。本人曰く「琵琶なんざ手に入らん」との事。あと視力が良い。両目2.0ある。


「いらんお世話だ。朝は弱いんだ。低血圧だ」

「吸血鬼が低血圧とか致命的だな」

「やかましいわ。このギター牧々」


 しかし何だかんだ言って基本的に俺は、朝はコイツ以外とはあまり話さない。俺自身あまり自覚は無いのだが、曰く目つきが悪いらしく朝の雰囲気は「人でも殺してきたかのよう」なのだそうだ。そのせいで友人と呼べそうな連中も朝は話しかけてこない。そもそもそんな頻繁に話すような仲の奴が一色コイツと他一名だけなのではあるが。先ほど妖怪学生がそれなりに居るとは言ったが何だかんだで一クラスに2~5人程度。なので古くからの付き合いで仲がいいのもそのくらいと言う事になる。だから、友人が少ないのも仕方が無いのだ……と言う俺独自の言い訳である。


「ヤッホー。今日もやってるねぇお2人さん」


 と噂ではなく、思い浮かべれば影とでもいうべきか。今来たどことなく軽いコイツ。コイツが俺の数少ないもう一人の友人、小宮凪こみやなぎである。当然のように妖怪で、このクラスの魑魅魍魎は俺を除くとこの二人だけである。

 種族はやまびこ。まあ、有名なやつだ。凪とはいわゆる風が吹いていないさまなので、声とは違う物の、何処となく連想させる物事である皮肉めいた名前ではあるが、単純に凪のご両親が特に何も考えずに付けちゃったせいでそうなったらしい。本人も「面白くてイイじゃん」とか言って気に入っているみたいなので問題は無いのだろう。


「おう、凪。聞いてくれよ。直夜がさ、数少ない友人であるこの俺を、邪険にするんだぜ。こういう時はふつー崇め奉るべきだろ?」


 おっと、こいつの頭の中はいったいどうなってやがる。


「おう、ちょっと待てや。お前の中の友人像はいったいどうなってやがる。何処の世の中にそんな関係の奴らが居るんだよ」

「ほへぇ~……。いいねぇ、唯一の友を崇める男の子……。ご主人様とその下僕だねぇ」


 こいつの頭の中もいつの間に腐りやがった?!


「おいそこ。お前も待て。腐るんじゃない。いつそんなイラン知識身に着けやがった。昨日の夜まではそんなそぶり見せもしなかっただろうが」

「ほえ? えっとねーてんちゃんに聞いたよー? とっても仲がいいさまって聞いたけど、なんか変~?」


 ほほう。あの野郎、碌でもない事しかしないな。今夜少しばかりお話が必要なご様子。


「良いか? 凪、仲がいいさまではない。ああ、いや、仲が悪いわけではないが、また別の意味があるんだ。だから、それについては忘れるんだぞ? 良いな?」

「う~ん? そうなの、よくわかんないけど分かった。でもじゃあ本当はどんな意味なの?」

「それはだな、あー、えー? ……よし。一色、パス!」

「うぇえい!? そこで俺に振るんじゃねえよ!」

「あれ? 一色君も知ってるんだ。もしかして、私だけ仲間外れー? ねー教えてー、一色君」

「俺が教える事になってる!? ぐ、ここはなんと説明するべきだ? だいたい、お前が途中で放り投げなければ――」


 そうして朝の俺の休憩時間予定は過ぎていく。


#####


 キーンコーンカーンコー……ン。


 朝礼の始まりを告げる、何故か最後だけ妙に間延びしたチャイムが響く。


「おーし、お前ら座れー、座りやがれー」


 時間と同時に入ってきた女性担任の声が響く。

 結局時間いっぱいまで話してしまった。まったくアイツラ、二年生になっても俺の睡眠時間を奪って行く気か。

 一年の時も、ほぼ毎朝こうして訪れてはくっちゃべって去っていく。全く、寝る時間もないほど……本当に良い奴等だ。


「きりーつ、れーい、ちゃくせーき」


 よし、挨拶も終わったことだし寝るかー。朝礼は寝る時間だしな。初めの立って座るところだけ起きとけば何とかなる。しかも、この担任こと、五十里四季いかりしきは一年のころから変わらない担任である。もう俺の事は分かりきっているのだ。まあ、何故か初めから起こされる事は無かったが。一応、担任曰く「朝なんざ重要な事などほとんどない」とは言っていた。しかし俺は知っている。この担任朝の連絡すらも面倒くさいとか言ってたから確実に働きたくないだけだ。連絡も基本、見せても良い物なら重要なこと以外は軽く話すだけで後は壁に貼る。


「よーし、連絡は~……まず、不審者が居たとか何とかー。まあ、隣町だ。んで、なんだ、この後の入学式が大体育館であるが前の入り口から入って――」


 よし。だいたい十分じゅっぷん。ある意味タイムアタックだな。……zzz。


#####


 キィー……ンコーンカーンコーン。


「んぁ? ふわぁ~」


 目覚まし代わりに響く、初めとは逆に初めが妙に間延びしたチャイム。どうやら、タイムアタックは成功したようだな。きっちり寝れたぜ。


「きりーつ、れーい、ちゃくせーき」

「よーし。この後遅れるなよー絶対だぞー、私の手をわずらわせるなよー」


 さて、この後の入学式でも軽く寝ますかね。こういう時案外寝れないんだけどなーなぜか。


「おはようさん。相変わらずよく寝てたな」


 俺のあくびを聞いてか、すぐ後ろの席に座る一色がそう声を掛けてきた。名前の関係上偶然とはいえ、一色の席の目の前が俺なのだ。因みに俺の席の前が凪である。まあ、そうでもなきゃ時間ぎりぎりまで朝礼前に話してなんかいられんがな。


「まあな。今までからの予測だとこの後の入学式では寝れん」

「そーいえば、あんなに眠がってるのに、そう言う式の時はいっつも起きてるよねぇ?」

「そうだな。何故か寝れん」


 首を傾げながら聞かれたが、俺自身理由なんか分からん不思議現象の一つである。それ以外なら割とどこでも寝れるんだがなぁ……。


「相変わらず、変だねぇ」

「まあ、空気感とかそういうやつじゃないか? 直夜がそんなことに緊張やらなにやらするような人間には見えんが」


 む。まるで俺が不真面目でガサツな吸血鬼みたいじゃないか。取りあえずあ げ足だけ取っておこう。


「人間じゃないしな」

「知ってるよ。例えだ、例え。こんなところで堂々と吸血鬼なんて言えるか」

「言ってるじゃん」

「言ってるねぇ」

「うぐっ……。と、ともかく体育館行くぞ! このままじゃ遅れるからな」


 話を逸らした、と言いたいところだが実際にそこまで時間に余裕があるわけじゃないしこのくらいで許してやろう。凪が乗ってきたおかげでプチ仕返しは完了したしな。


「そうだな。話だけならみんな席が近いから始まるまでの間なら、座ってからでもできるし、行くか」

「そうだね。先生の手を煩わせるとあとが面倒だしねぇ」


 あれ、そういや入学式ってどっちでやるんだっけ。この学校には二つの体育館が、しかもほぼ同じ大きさの物があるため非常にややこしい。何故似たような体育館を二つも用意したのか。そんなに全校生徒数多いわけでもないと思うんだがなぁ。でもまあ、どこの学校もそんなもんなのか?


「ところで一色。入学式って何処でやるんだっけ?」

「大体育館だよ。さっき言って……って、そういや寝てたなお前」


 流石一色。こういう時は頼もしいな。

 ついでに、この流れはいつも通りだし、多分、方向音痴の凪も――


「ところで一色君。大体育館ってどっちだっけ?」

「……校庭側だ。分かった。安心しろ。いつも通り二人は俺が案内してってやる」

「いつもすまんな」

「いつもすまないねぇ」


 凪はなんで一年もたつのに学校の建物の場所覚えられないんだろうな?

 だがなんにせよ、一色は本当に頼もしいぜ。やはり持つべきものは良い友だな。

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一歩向こうの非日常! @misura

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