一歩向こうの非日常!
@misura
第1話 登校中の日常!
この世界はなんと生きにくいのだろうか。
……え? 厨二病? 違う違う。本当に生きにくいんだって。
だって俺、吸血鬼だもん。
一般的に見れば、ポカポカ陽気の小春日和。でも、俺からすれば、カンカン照りの、茹だるような、は言い過ぎだが、それなりの暑さ。
俺は、十六歳になった。現在高校2年生。正しくは、今日から高校2年生。今日は高校の入学式なのである。
つまり四月。にも関わらず何だというのだこの暑さは。いや、分ってるよ。俺が吸血鬼だからだろ?
マジ太陽キツイっすわ~……。
######
吸血鬼は居る。いや正しくは、吸血鬼並びにその類の
そして、それら裏の住人達に関する表の情報は大概中途半端だ。実際とは大きく異なるのだ。
例えば、俺こと吸血鬼は、まず、にんにくやら十字架やらは平気。流れる水も問題ない。強いて言えば、俺は泳ぎが下手なくらい。蝙蝠やねずみには変化(か)われない。
ただ、当然と言えば当然だが近しい情報もある。たとえば吸血。コレはできなくはない。まあ、吸わなくても問題は無いけど。よく、食事みたいに言われるが、別にそんな事は無い。ならどんな役割があるのかと言えば、強いて言えばポ〇イのほうれん草みたいなものだ。ドーピング的な意味の方。
そして、一番有名な物、日光。これも、あながち間違ってはいない。が、灰になる様な事は無い。ではどうなるのか。実は別にどうもならない。しかし、日焼けしやすくなったり、そこまで暑くもない日の光が無駄に暑く感じるのだ。だから日光は嫌いである。
ちなみに、夜になると身体能力が上がる。コレは、月とかは関係なく、夜になれば強くなる。
さて、今。高校へ向かうため通学路を歩行中。
あ、遅れたが、俺の名前は
俺が住んでいるこの街も、両親が、俺がそれなりに成長した段階で、持っていた家に放り込んだから、たまたまこの街になったのだ。
まあ、今じゃあ、たまたまだなって思っちゃいないが。
あ、こんな両親が持っていた家だが、ごくごく普通の一般住宅である。目立たなくて素晴らしい。
と、どうでもいいことを考えて、猛暑の中を何とか歩いては来たが、今、俺はレアな光景を目撃している。
何と、木に風船をひっかけてしまい、泣いている子供を発見してしまったのだ。
おお。アニメや、ラノベでたまに見る光景だな。初めて見た。
今は俺は家から少し歩いた所、ぎりぎり近所と言ってよさそうな場所にある公園にいる。
この公園は緑豊か、と言う訳ではなく、かといって遊具が多いと言う訳でもない、至って目立つところのない普通の公園なのだが、子供や近所の奥様方にはそれなりに人気がある。日除け風よけの施されたベンチがあり、休憩にはもってこいのシンプルな公園だからな。
そんな公園に、響く泣き声。居たのは子供。
俺は、面倒事が嫌いだ。いや、だいたいの人が面倒事は嫌いであろう。まあ、だからと言って子供の泣き声を放置しようとする奴がどのくらいいるのかは知らないが。
兎も角。だから今回も、本当は放置しようとした。しかし、冷静に考えて、ここで放置するのもそれはそれで面倒なな事になるのではないかと、結局はそう考えてしまったのだ。
ということで、覗くくらいなら、と公園に入ってみればそこには何と、木に黄色い風船をひっかけてしまって泣いている男女一組の子供が居たという訳だ。
「うえぇーん! えーん!」
そのうちの女の子の方が泣いているようだ。恐らく風船の持ち主だな。
そんでもって、男の子の方は何をしているのかと思えば、どうすればいいのか分からずに右往左往しているようだ。
まったく、男なら、ビシッと木に登ってでも取るくらいの気概を見せつつも実際には登らず、大人を呼びに行くくらいの事はしてみやがれ。そして、俺の手間を減らせ。あ、ちなみに、直接取りにいかないと言う選択自体は正しい。下手に怪我をされても困るのだ。
とはいっても、俺の目に移る二人組は幼稚園児の中間あたりの年齢に見える。きっと近くに父親か母親が居るのだろう。今は親が何かしらの用事から帰ってくるまで同じ境遇の友達と待っていると言ったところか。
「うえ゛ぇぇん! あ゛ぁーん!」
だんだん鳴き声が大きくなっている。流石に、此処で見続けているわけにもいかんしな。ちゃちゃっと片付けてさっさと学校に行って日陰でゆっくりしよう。
「おい、そこのお2人さん。何があったのか、お兄さんに軽く話してみる気はないかい?」
と、声を掛けたのだが、泣いていた筈の女の子にすら、泣き止んだ上で警戒されてしまった。
「お、お兄ちゃん、誰?」
勇気を出して何とか、と言った様子で話しかけてくる男の子。
仕方が無いので、それなりに丁寧に話して聞かせて、不審者の疑いを解いた。
と言うか、その子は、俺の事を見た事があるらしく、それなりに簡単に誤解は解けた。
あまり、見た事があるからと、警戒を緩めるのは感心しないが、今言っても仕方が無い。むしろ今だけは有り難い。
で、結局、誤解を解けばあっという間。引っかかっていた木の位置も俺から見ればそれほど高いわけでもなく、それなりに気合を入れたジャンプで手が届いた。
「ほれ。もう簡単に手を放すんじゃないぞ」
「うん! おじちゃん、ありがとー!」
俺がとった風船を手渡すと、笑顔で女の子はそういった。
そうかー。この年齢でもおじちゃんていわれるんだなー。フィクション中だけかと思ったよ……。
「またねー!」
俺が、ちょっと感傷的になっていると、二人は走って去って行ってしまった。
「……学校行くか」
######
さて現在。時は戦国――とかではなく、普通に現代。ってか、さっきの公園風船事件からおよそ五分。ここは閑静な住宅街の、何処にでもある一軒家のちょいと背が高い生け垣の真ん前。
とってもレアケースに遭遇した。
「うわーん! うわぁーん!」
目の前には白い風船が生け垣の上の方に引っ掛かり泣いている二人組の女の子。
ええ。二件目です。風船が木に引っかかってしまった子供。
しかも。
ちらっ。ちらっ。
(まだ、声掛けてこないね)
ちらっ、ちらっ。
(そうだね。いつ声掛けて来るんだろうね。取りあえずもう一回泣いとくね)
「うわぁぁーん! うわぁぁぁん!」
こ、こいつら完全にこっちの様子を窺ってやがる……。
遠目では気が付かなかったが、ここまでくれば流石にこいつらが誰なのか認識できる。
こいつらは、俺の知り合いである。幼女の知り合いなどと言えば通報されそうなものだが、それはこいつらが見た目通りのものであれば、だ。
こいつらは、二人そろって『妖怪』である。
俺と同じ、裏の住人だ。当たり前だが、この裏の住人は何も外国の怪物だけではない。当然日本の妖怪たちも含まれるのだ。むしろ、此処が日本であることを考えれば、こちらの方が多いと言える。
妖怪は、居なくなった訳ではない。単純に人の世の中に溶け込むように紛れただけだ。今も、夜の路地裏や、田舎では活動をしているのだ。
よく言われるような、感情を食べるだとかそういう事もないから、驚かしたりだとかをする必要もない。大事なのは、記憶。俺達、裏の住人はその存在が非常にあやふやなのだ。それを実体化させるのが、すべての生命の記憶。なお、実体化できるようになるだけで、その姿で固定されるわけではない。あくまで、『存在』なのだ。
昔は、その記憶を尽かさないためにも、それなりに必死に活動していた。しかし、今は――いや、少し昔から、だいぶ事情が変わったのだ。
鳥山石燕。妖怪画の第一人者。この人が、日本の妖怪事情を変えた。代表作、図画百鬼夜行により、人々の妖怪に出会った事が無い者の記憶にすらその姿を刻み付けたのだ。
しかもそれに続くように妖怪画は、
結果、それらの存在は人の社会に紛れた。ちなみに海外の連中は、結構大胆に行動していたり、そこの人々のさがゆえかちょっと大げさに広まったりとで結果現代まで残った。
それはさておき、今目の前にいる二人だ。こいつらは、泣いている方が『うわん』。本来はお歯黒を付けた妖怪が両手を上げ、怒鳴りつけるような見た目で書かれているが、そもそも裏の住人に姿など関係が無い。一応、大本となる骨組みというべきか、基礎ともいうべきものはある。俺で言えば、人としての姿は、あくまでも子供から大人といったような変化で、別人になることはできず、そこに加え、裏の住人としての姿になれるといった具合だ。
もともとがあやふやな存在なのだ。変えようと思えばいくらでも、人間と裏の姿を行き来できる。今では大概人の姿となっているが、基本的にどのような姿になろうとも、意縮知ったものであれば、裏の住人ならば問題なくわかる。そういう存在なのだ。
そして、泣いていない方。名を『タンタンコロリン』。詳しくは省くが柿の木の妖怪だそうだ。特技は柿の種(お菓子ではない)を蒔いて咲かすこと。
さて、この二人。この街の住人なのである。普段はもう少し大きい見た目をしているはずだ。だいたい、うわんの方が中学生から高校生くらい。タンタンコロリンに至っては大人の姿でいる事もある。そしてこの二人はこのあたりではそれなりに有名ないたずら二人組である。
なので通報される事は無い。普通の人間が見ればどうなるか知らないが、このあたりの住宅街はそこまで普通の人間はいないはずだ。
そう、此処は人と共に、妖怪の――いや、それのみならず様々な裏の住人の住む町なのだ。
######
「さーて、お前ら。何か申し開きはあるかー? 少しくらいなら聞いてやるぞ?」
「「な゛い゛でず」」
二人は、俺のそれなりに力こめたげんこつによって泣いている。
だがこれも、仕方が無い事なのだ。そう……俺の大事な日陰にての休憩時間を奪った罪は重い。
「次は、もっと目立たないところで、俺以外にやれ。夜ならばいつでも受けてたとう」
当然夜ならば問題ない。俺も全力が出せる。
「で、でもぅ、直夜兄ちゃん、夜だと
うわんがそんな事を言うが、自業自得だ。夜ならば受けて立つとは言ったが、その内容が、うわん本来の声のデカさで耳元で叫ぶ、とか、タンタンコロリンの柿の種を口の中に放って成長させるとかやばいんだもん。なお、木は噛み砕いた。
だからこそ全力で殴る。ちなみに昼でも、そこら辺の人間より力は強い。
「にしても、今回はなんでまたこんな事を?」
さっきの内容から分かると思うが、こいつらのいたずらは相手次第ではあるが結構過激だ。にもかかわらず今回はそれなりに大人しい。
「だって、さっき同じような事は普通に付き合ってたから、少し発展させた奴なら大丈夫だと思って……」
タンタンコロリンが答える。はて、さっきのって公園のあれだよな? なぜあれが関係するんだ?
俺が不思議そうな顔をしているの気付いたのかうわんが聞いてきた。
「何だぁ? もしかして直夜兄ちゃん気付いてないのか?」
……まさか。
「さっきの二人組、座敷童と、
「……そうか。前、話してた新入りか」
「おう。だからぁ、俺達も少し手ぇ加えたくらいなら大丈夫だと思ったんだ、なぁ、タンコロ」
「うん。一反にも手伝ってもらってね。ね、うわん」
にかっ、と笑う二人。どうやら、新入りに影響されてだったらしい。
ん? 一反?
そっと視線を上げる。そこには未だに木に引っかかったままの白い風船があった。
がしっ。
「ひ、ひぃえぇぇ! お助けをぉぉ……」
解けて布のようになった奴にも見えるように注意して、俺は、わざとらしくにっこりと笑う。
「お前ら、今日の夜、公園な?」
「「「……はい」」」
今夜の公園は、魑魅魍魎の巣窟になりそうだ。
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