第27話 相も変わらず引きこもり?
その他にもやらなくてはならないことは山積みである。
それなのに女王が時折「愛しき方はもういらっしゃらないのか」と引きこもろうとするため、女性鍵に懇願され、憲治は城の一室を賜っている。
要は、女王が仕事するための脅しだ。
そして鍵がもたらす素材でせっせといろんなものを作っている。
時折城下でお針子教室も開催したりもする。
結構忙しいのだ。
適正能力というものが廃れて久しいが、それを浸透させるのは城にいる連中の役目。
ところがどっこい、現在まで保身に走ってた大臣たち一同ではどうしようもなく、昔の書物を読み漁り何とかこなしているのが現状だ。
それから数年後。
憲治のスパルタのおかげで女王の我が侭も少なくなり、縮んでいた身体も十代半ばまで回復したという。
異世界同士の行き来は昔ほどではないというが、それなりに進み始めだいぶ活性化してきた。
「鍵との約束は果たしたよな?」
憲治は呟く。
「果たしたわね。
メジャーたちも喜んでいた。
憲治の中で残念なのは、裁縫チートの能力がなくなるかもしれないこと。ここで知り合った金槌たちと別れること。それ以上にメジャーたちと会話できなくなるということだ。
「これ以上この国の我が侭に付き合う前に帰るとするか!」
思わず口に出して宣言した。
こっちの方がかなり重要だったりする。何せ、今までそれに振り回され続けていたのだ。
チシャ猫的ケットシーが「この鍵持ってけ」と自分の首についていた鍵を渡した。
「簡易鍵だが、こっちから布を送ったりは出来ると思う。好きなだけ使え」
「……いいのか?」
「餞別。いい服もらったからな!」
その言葉に金槌たちも頷く。
そして、鍵に以前いた場所に戻してもらうことにした。
……のだが。
「何で戻れない!?」
鍵がどんなに扉を開こうとも、憲治は渡れない。つまり、
『ほっほっほ。だからその工具箱を私が預かろうとしたでしょう?』
いきなり鏡が憲治の荷物から出てきて、老爺の声がした。
『あなたにとって何よりも大事なのはその工具箱に入った道具。つまり、こちらの世界への未練というわけです』
「家族だって大事だぞ!」
『仕方ないでしょう。イキモノは、その世界にいないと記憶というものが薄れる。まだ若い鍵では仕方のないことです』
その言葉にじろりと鍵を睨む。
「俺が悪いわけじゃねぇだろ!!」
最近では憲治の悪人面に慣れた鍵は、怖がることがなくなった。
「……ってことは?」
『あなたは命綱のない状態でバンジージャンプをした。そしてそちらの世界に見事着陸。
そちらの世界を楽しんでくださいね、と老執事が笑う。
『お嬢様が他界しましたらそちらの世界に渡ります。苦情はそのあと受け付けますので』
そう言って通信をぶちんと切った。
その後、鏡は一切向こうとつながらなくなってしまった。
「……どうすりゃいいんんだよ」
落ち込む憲治に、首に巻き付いていたメジャーが微笑む。
「ここで好きな服たくさん作ればいいじゃない! アクセサリーだって作り放題よ! 残りの人生楽しみましょ!」
「……それしかないかぁ」
諦めの境地で憲治は呟く。
こうなったらこの先もずっとものを作り続けてやる!
そして、今日も不気味な鼻歌が町中に響くのであった
不思議の国で引きこもり!? 神無 乃愛 @Noa-Kannna
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