第26話 憲治の説教2
話し合いが半日以上経過した頃、ピンクッションはため息をついた。
「女王の我が侭を許した時点で全員同罪だと思わないあたりが凄いと思うの」
あえて憲治が言わなかったことを突いた。
正直、ピンクッションたちは憲治が裁縫関係で暴走した場合、止めることはない。そして、憲治が作る方にばかり目が行くようになったとき、わざとらしく素材採取を持ち掛けたりもした。……完全に引きこもらせないためだ。
作る方ばかりに専念した憲治を止めようとは思わなかった。それが憲治の生き様だからだ。
自分から「現状維持のため」とはいえ旅立つことを決めた時、驚いたくらいである。
「それに気づかないあたり、あなたたちはお馬鹿なの」
全員に目つぶし出来る状態でピンクッションは宣言する。
自分たちの罪から目をそらすなと。
「早くサインして頂戴。私があなたたちの目を潰す前に、ね」
<シュッ>
どうやらアラクネも参戦するつもりらしい。
そんな時だった。
一人の衛兵が憲治に斬りかかった。
それを止めたのはアラクネ。今まで使わなかった毒を盛大に使い、動けなくした。
<シュ、シュシュー?>
「止めとけ、アラクネ。食ったら腹壊すぞ」
<シューー>
残念そうにアラクネが音を出し、そのまま憲治の肩に乗った。
殺される! そう思った大臣たちがいきなりサインを始めた。最初からこうすればよかった。それが全員の一致した感想だったりする。
「で、こっちとしては女王に責任もって、、、、、きっちりと不思議の国を管理してもらえれば助かるんだが」
「……しかし……」
「俺がこんなでかい国管理できるとでも?」
「我々が協力……」
「断る! あんたらの思い通りになんて動きたくないし」
「……わ……妾は……」
「だから責任もって管理しろって言ってるだろ?管理を忘れた場合は、今度はあの塔の最上階からアラクネに吊るしてもらう」
「嫌じゃぁぁぁぁ!」
子供相手に酷いかも、そう思いながらも憲治はきっぱりと言う。
「だったら、責任もってやれよ。最初は出来たんだろ?」
「……皆、妾ののことを持ち上げる傍らで、嫌っておる。あの方だけが妾を見てくれたのじゃ」
だからこそ監禁してでも一緒にいたかったと言うが、憲治はドン引きである。
「あんた、やっぱりガキだな。そんなことされて嬉しい奴なんてそうそういないぞ。嬉しがるのは変態だけだ」
「あの方と一緒にいたかったのじゃ!」
「……あのなぁ、俺の国では人生八十年なんて言われてるが、その昔は『人間五十年 下天のうちをくらぶれば 夢幻のごとくなり 一度生を受け 滅せぬもののあるべきか』とうたわれたくらいでな」
「い……意味は」
「人間は五十年しか生きられない。長生きする奴に付き合わず好きに生きろという意味だ」
意味が違う! そう突っ込みを入れたくなるピンクッションたちを無視して憲治は話を進める。
余談だが。
本来の意味は「人間の人生は五十年。天上世界の時間に比べたらはかない夢や幻のようなもの。命あるものは全て滅びる」といった感じなのだ。
「つまり、愛しき方は亡くなっているというのか!?」
「お前みたいに我が侭ガキに惰性で短い人生付き合う馬鹿もいないだろ」
ショックを受けている女王を無視して、女性鍵に向かう。
「昔みたいなって、どんな感じだ?」
「ほとんどの鍵が女王と契約していますが、本来は爵位持ちの家で一つずつ管理しておりました」
今では爵位持ちも家もだいぶ少なくなったらしい。
「そこで昔みたいに分けることは可能か?」
「可能でしょうね。何せ女王に刃向かって当主交代した家も多いですし。長生きしている、、、、、、、当主のところは大丈夫でしょうね」
そう言って宰相たちを睨んでいた。
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