第25話 憲治の説教

 書類にするとなると、鍵が俄然張り切りだした。

 逆に女王側の鍵は嫌がっている。


 理由は明らかだ。

 書面にし、それを表だって残す際は鍵が複数立ち合って魔法をかける。そうすることで、効力を発揮するという。

 鍵はそれをしたい。相手側はしたくない。


 そんな魔法があるなら使う、憲治が言い張れば大臣にあたる者たちが難色を示した。

「別にそんなことしなくていいだろ。鍵、我が侭ガキをお前の空間に放り込め」

「だからイキモノは……」

「イキモノじゃなきゃいいんだろ?」

 にやり、と憲治が笑う。


 殺される!! 全員がそう思った。

「とりあえずガキの裸なんて見たって欲情しないし。真っ裸にして城壁にぶら下げる! 引っぺがした服並びに女王の持ち物をお前の空間にしまえばいいだろうが」

「鬼畜だぞ! お前!!」

「こいつにはそれで十分だ。反省したら大臣にでも命じて書類を用意させるだろ」

 こともなげに憲治が言い、アラクネと鋏が殺る気になっている。

「服は切り刻んでもいいよな? 憲治が作った服と同じくらいには」

<シューー>

 それが終わったら私が縛り上げるわ、そう言わんばかりのアラクネである。

「城壁からどれくらいの高さがいいかは、私に任せて!」

「じゃあ私はこの地域にある針という針を集めちゃうわ!」

 メジャーとピンクッションまでが乗り気である。


 そんなことをしている間にも、じゃきん、という音をたてて鋏が女王に寄って来る。

「皆の者! こ奴らの言う通りにするのじゃ!!」

 一度大人になったことのある女王はすぐさま命じていた。



 かくして、女王は裸で城壁に吊るされることはなくなったが、ある程度(、、、、)片付くまではドレスのままバルコニーから吊るされることになった。



 すでに泣きわめく力も、叫ぶ力もなくなった女王はいまだバルコニーに吊るされたままだった。

 利き手である右手だけは、一応自由に使える仕様になってはいるが、吊っている糸がアラクネの糸なだけあって、つかんで上に行こうとすれば揺れるだけなのだ。

「怖いのじゃ。喉乾いたのじゃ。お腹すいたのじゃ」

「仕方ないでしょ。あなたも大臣たちもこちらの要望に応えるつもりがないんだもの」

 しゅるしゅると蛇のようにメジャーが糸を伝って女王のそばに行く。

「はい。脱水症状になると悪いから生理食塩水とパン」

「うぅぅぅ。いつまで続くのじゃ?」

「だからあなた方が私たちの話し合いにしっかり応じるとサインするまでよ」

「だから妾はすると言ったし、サインも……」

「文句は大臣たちに言いなさい。それから今までの我が侭で部下たちもあなたに対する信用度がないの。だからいっそ滅んでもらって憲治に玉座についてもらうことを検討している馬鹿もいるくらいよ」

 あえて追い打ちをかける。


 何も言えなくなった女王を無視してメジャーはバルコニーに戻る。そのときうっかり(、、、、)糸を揺らしてしまい、女王が振り子のようになったのは見なかったことにした。

「メジャー、お疲れ」

「憲治も甘いんだから。絶食でいいのよあんな子」

 戻ってきたメジャーに、憲治がすぐさま労いの言葉をかけてきた。根っこは優しくチキンな憲治が、メジャーたちは大好きなのだ。だからこそ、悪態をつきたくもなる。

「いや。逆に長引いて怖いだけだと思うぞ。存外空腹だったりすると思考は鈍るから」

「なるほど! さすが憲治ね!」

 鋏の言葉にピンクッションがわざとらしく同意し、鋏もうっかり(、、、、)糸を切りそうになり、女王たちに謝っていた。

「で、これにサインしてもらえるのか?」

 憲治はわずかに傷つきながらも、大臣たちへの交渉を忘れない。

「で……ですから。あなたが女王から玉座簒奪後ならそれにサインいたしますと……」

 宰相と呼ばれていた男が怯えながら返答してきた。

「嫌だって言ってるだろ」

 ……実はこれが平行線をたどる理由なのだ。


 憲治は玉座になどつきたくない。宰相たち一部の大臣は女王を始末出来るくらいの力を持った憲治に玉座について欲しい。

 これ以外にも言い分は三つある。

 女王をここまで脅した憲治を許すものか、という言い分。これは憲治たち全員が納得している。

 憲治の要望通りサインをすべきだ、という言い分。これが通って欲しいと切に願っている。

 そして、憲治を女王の配偶者に、という言い分。お断りである。

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