番外第3話 効果的なCMとは
「イイヨ!」
異世界。
こちらの世界との境界を越えた先にある、もうひとつの現実。
中世ヨーロッパに似た文明レベルのそこは、俺達が知らない文化がたくさんある。
そんな異世界を案内するガイドのアミューさん。
「マジでいいのか?」
「ウン! そのカメラで撮るんでしょ?」
頭の上から動物のような耳を生やした、褐色の女の子。
彼女は俺やKADOKAWAが一番信頼している異世界ガイドだ。
何度も命を助けられたし、気持ち的にも安心できる。
異世界に来たら、まず彼女に会った。
俺もJKも再会を喜び、町で乾杯した。
その席で、申し訳なさそうに頼んでみたら、これだ。
「アミューさん、やけに慣れてるみたいだけど、経験あるの?」
一緒についてきたJKが尋ねると、アミューさんは得意げに頷いた。
「今までガイドしたのはラノベ書く人だけじゃないカラ。ゲーム作る人トカ、マンガ描く人トカ。あと、ユーチューバーもいたヨ!」
「へー、ユーチューバーも異世界に来るんだー」
最近では企業が主体になって動画を配信する事も増えてきた。
素人が異世界に来ると危険だが、企業のバックアップがあれば話は別だ。
特にKADOKAWAはドワンゴと提携を結んでいるから、異世界へ行く実況者などが増えているのだろう。
もっとも、最近はそれで死亡事故も増えていると聞く――
まぁ自己責任なんだけどな!
「じゃあ、アミューさんはカメラに映るの平気なのか?」
「大丈夫だヨ! 変な風に撮らなければ!」
「アミューさんならどんな格好だって変じゃないさ」
俺はさっそくカメラを彼女に向ける。
フレーム越しに見える風景は、酒場の喧噪。
笑顔のアミューさんの後ろで、楽しそうに酒を酌み交わす冒険者。ゲームなどとは違い、武器を持っている者は少ない。仕事帰りの労働者が多いようだ。
「それで、どんな感じに撮るノ?」
フレームの中のアミューさんが尋ねる。
「どんな……感じ……?」
「宣伝なんでショ? どういう宣伝にするノ?」
しまった、考えていなかった。
ただ異世界をカメラに映せばいいというわけではない。
これは小さな番組なのだ。
俺の本を買ってもらうために、魅力的な宣伝をしなければならない。
テレビCMは十五秒で起承転結のある内容にしている。
つまり宣伝にもストーリーがあるという事だ。
「ちょっと待ってくれ、今考える」
俺はメモ帳を取り出し、一時間かけて話を組み始めた。
*
町を一望できる丘の上。
額を手で押さえながら歩いてくるアミューさん。
「Oh……困ったわ。これじゃあ取材なんてできない」
そこへ登場する、笑顔の俺。
「ハーイ、アミュー! そんなしょぼくれた顔をして、どうしたんだい!?」
「聞いてよ、この異世界は複雑すぎて、何をしたらいいのか分からないわ! これならスーパーマーケットの缶詰コーナーの方がまだマシよ!」
「HAHAHA! いつも買いに行くのはボクだけどね!」
「これじゃあ、面白いライトノベルなんて書けないわ!」
「そんなアミューのために、今日はいいものをご紹介しよう! コレさ!」
懐から文庫本を取り出す俺。
「富士見ファンタジア文庫が出版している『異世界取材記 ~ライトノベルができるまで~』があれば大丈夫! 危険な旅もこの一冊で安全なピクニックに早変わり!」
「まぁ、なんて便利なのかしら!」
「これさえあれば、君も異世界で必要な情報をゲットできるって寸法だ!」
「まるでニンジャね! こんなに簡単に手に入ってしまうなんて!」
「だけどママの秘密は盗んじゃダメだぞ!」
「これを読めばライトノベル作家になれるのね! とってもお手軽!」
「今ならあさのハジメ先生の『編集さんとJK作家の正しいつきあい方』と二冊セットで、1296円! お求めはお近くの書店まで!」
「ステキ!」
俺の腕に抱きついてくるアミューさん。
二人で爽やかな笑顔を見せて――
「はいカット。どうだったJK?」
「ダサいね」
カメラを持つJKに、一言で切って捨てられた。
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