第42話 対決と呼ぶには
トスターの町の中心部に降臨したナミオカさんの絶叫。
それは破壊を伴う衝撃波となって町全体を襲った。
周囲の建物は吹き飛び、地面にクレーターが空き、天からは槍のような雷が降る。
逃げ惑う作家が何人か殺され、ホームポイント送りになる。
ただの音波でこうなるはずがない。あきらかにGMとしての権限を使った破壊行為。
なぜそんな事をするのか。
簡単だ。ムカついたからである。
そういう人間なのだ、彼女は。
「おいやめろ、てめぇで作ったゲーム内で何やってんだ」
俺は酒場から出ると、ナミオカさんがいる中央広場に出向いた。
ポケットに手を突っ込んで悠々と話しかけるのは、わざとだ。
今までさんざんバカにしてくれた分、煽りまくってやる。
「アンタァ……! ふざけた事してんじゃないわよ!」
般若の面をつけた編集者は、その憎悪を俺だけに向け始める。
周囲への攻撃が収まった代わりに、俺への攻撃が始まろうとしている。
彼女の周囲にいくつもの武器が出現し、その全てが俺に向く。ああ、あの武器、見た目からしてこのゲームの最強武器なんだろうな。
「なんでカクヨムで書かないのよ! KADOKAWAが運営してるカクヨムでやりなさいよ! そうすれば私が出版させてあげるっていうのに!」
「どこで書こうが別にいいだろうが。どうせ拾いたい作品があればKADOKAWAが拾うつもりなんだろう?」
「宣伝効果ってもんがあるでしょーーーっ!」
槍が飛んでくるのを、慌てて避ける。
これで俺が死んだら会話が止まるが、いいのかナミオカさん。
「……まぁいいや。じゃあ、拾ってあげる。今人気のある作品全部、ウチで出版してあげるから。ありがたく思いなさい」
「残念だが、そいつはできない」
「はぁ!?」
「悪いなぁ、ナミオカさん。もう大抵の作品は他の出版社から声がかかってるんだわ」
「なっ……!?」
おそらく般若の面の下では、見た事もないような歪んだ顔をしているのだろう。
もしも見る事ができたなら、きっと爆笑していたはずだ。
「ヌルハチやロックさんはもちろん、アバラヤマもダルト王国のみんなも、ぜーんぶ他の出版社から出すってよ。ああ、なんて言ったかな……レドンダン文庫っつったっけな」
「レ、レドンダン文庫ですって!?」
「そこの――ギンジョウさんって編集者から何人かに打診が言ったよ」
「……アンタァァァァァッ!」
レドンダン文庫のギンジョウ――
その名前を聞いた瞬間、ナミオカさんは本気でキレた。
何本もの武器が俺に向かって飛来する。
その全てが俺に突き刺さり、勢いで俺は壁まで吹き飛ばされる。
武器が全身に刺さり、壁に磔にされても俺は死ななかった。減り続けるHPだが、1から減らないのだ。きっとナミオカさんがチートしているのだろう。
「アンタ! 知ってるんでしょ! ソイツが誰なのか!?」
「ああ、業界では有名だ。とんでもないクソ野郎ってな」
「……!」
「他人のプロットを奪うなんてのは序の口だ。有名ライターを自分のレーベルで書かせるために、『原稿はこちらで用意するから名前だけ貸してくれ』とか言い放ったくらいのクソ編集だ。プロットなんてメじゃないぜ」
「そうよ。だからKADOKAWAから追放されて――そこまで知ってて、なんで売り渡すのよ!?」
ナミオカさんから放たれる激しい怒気。
だが、その怒りの原因は――
「売り渡したらどうなると思う?」
「決まってるでしょ! そのタイトルだけ使ってテキトーに客を集めたらポイよ。その作家が今後どうなろうと知ったことじゃない。レドンダンのやり口はいつもそうよ」
「アンタはそうなって欲しくないのか」
「当たり前でしょーがっ!」
ナミオカさんのパンチが俺の腹部に届く。
武器で磔にされた痛みはないのに、このパンチだけは妙に重く痛みを感じる。
「私はね、金のなる木は絶対に切らないわよ! だって儲けられなくなるじゃない! そのためには作家自身にも育ってもらわないと困るのよ! 作家が成長して、自分で生きられるくらい稼げるようにね!」
「……他人のプロットを押しつけるのも、そのためか」
「だってそうしないと儲けられないじゃない! 売れないラノベを書いて稼げないより、少しでも稼げる方がいいでしょ!? みんな生活かかってんのよ!」
そこがレドンダン文庫との違いだ。
KADOKAWAはそう簡単に作家を切り捨てたりはしない。
出版社も作家も儲けられる道があるなら、その手段を選ぶ。
その結果生まれたのが、このPOKという作家牧場なわけだが。
手段は最悪だが、一応、作家としての自立を促す場所ではあるのだ。
それが彼女のやり方。
作家と出版社、どちらも生かすための強引な手段なのだ。
それは前から知っていたんだが――
けど、まぁ、作家から見ればムカつく事に変わりはない。
「――じゃあ、どうする? ナミオカさん」
「くっ……!」
俺に剣を突き刺したまま悩むナミオカさん。
すでに彼女の中では何通りもの解決法があるのだろう。
その中でどれを選択するか――
さっきから俺の腹から剣を抜いたり刺したりしながら考えている。
「あの、ナミオカさん、やめてくんないかな、それ。痛くはないけど気持ち悪い」
「ちょっと黙っててよ。今考えてるんだから」
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