第41話 そいつが俺のやり方

 てっきり殴り合いの大ゲンカになっているかと思いきや、意外と平和だった。


「で、アカウント作ったら、“マイページ”って所に飛ぶんだよ~」

「ふむふむ。で、この“投稿”という欄から貼り付ければいいわけか」

「そうそう、それで~……」


 酒場の奥の席では、ヌルハチとアバラヤマがいた。

 彼ら二人ではなく、クランの人間も集まって真剣な顔で何かを見ている。

 メニュー画面を開いて教えているのは、ヌルハチだ。


「ここを、こうして……ああ、できてるよ~」

「おお、これでもうアップロードされているのか。もうみんな読める状態なんだな」

「いけるいける~」


 アバラヤマが教わっているのは、小説の投稿だ。

 脱出不可能であるこのPOKというクソゲー、なんと抜け穴がある。

 それがネット小説の投稿である。


 外界への連絡手段は全て断っているのに、なぜネット小説はOKなのか。

 それは我々が作家だからだ。

 ヌルハチに限らず、ネット小説に投稿している作家は多数いる。

 ネット小説はスピードが命。毎日更新して当たり前。

 更新が途切れる事は、小説の終わりを意味する。

 いつか育つかもしれない金のなる木に対して、出版社がわざわざ養分の供給を止めるわけがない。


「しっかし、アバラヤマがネット小説に興味を持つとはね~。意外や意外。ずっと紙の世界で埋もれて死んでいくんだと思ってたよ~」

「ほざけ。別に俺はネット小説そのものが嫌いなわけじゃない。異世界転生ものしか書けない単純バカどもが嫌いなだけだ」

「ま、そういう事にしといてやるよ~」


 悪態をつきながらも、二人のアップロード作業は進む。

 彼らのレクチャーを見ながら、ダルト帝国のおっさん作家達も真似をして次々に投稿作業をする。


「おお、ちゃんと投稿されてるな。ほうほう、こんな風になるのか」


 メニュー画面を見て頷くアバラヤマ。

 まるで初めて閲覧画面を見たような態度だが、嘘だと俺は知っている。

 前にダルト帝国で会った時、あいつは俺の投稿小説を批判した。

 つまり読んでたってわけだ。

 さっき言った通り、ネット小説そのものには興味があったのだろう。


「おっ、もう閲覧数が増えているじゃないか。こんな短時間で読む人がいるのか」

「新作を必ずチェックする読者もいるからね~」

「なるほど。書店の新刊コーナーみたいなものか」

「そんな感じ~。それじゃ、次々アップロードしていこう~」


 ヌルハチ達の教えにより、彼らはネット小説をアップロードしていく。

 小説家になろう、ハーメルン、星空文庫――

 有名な投稿サイトにガンガン増えていく、新規のタイトル。

 そのほとんどは、このPOKから投稿されたものだ。

 俺達は投稿者名に「POK」という合い言葉をつけ、投稿サイトを賑わせたのだ。


               *


 反響はすぐにあった。

 投稿してから二日も経たないうちに、話題騒然となったらしい。

 異世界ファンタジーはもとより、アバラヤマが書くような一世代前の雰囲気を持つラノベも多く好まれ、次々に閲覧数が増えていく。


 ダルト帝国の古い作家達の投稿は、かつてライトノベルを読んでいた世代に直撃したらしい。

 俺達が子供の頃に読んでいたラノベ作家の作品が、また読めると――

 さらに異世界ファンタジーに飽きてきた若者も別の味を求めて閲覧していく。


 ちなみにアバラヤマの投稿作品は、普通の現代の読者にウケた。

 学園モノのファンタジー作品という数年前の雰囲気を醸し出すラノベなのだが、結局のところ“強い主人公がヒロインを守って強大な力で活躍する”という基本理念は何十年前から同じなので、当然のごとく面白いのだ。

 読者にスカッとした読後感を与えるのは、現代も昔も同じ。

 そうでないラノベは今も昔もマニア向け。

 本質的な人気は何も変わっていないのだ。


 そうしてPOKの住民によるネット小説投稿が始まると――

 世界に異変が起きた。


 トスターの町の上空に、突如現れる暗雲。

 雷と共に降臨するのは神様――ではなく、般若の面を付けた女編集者。


「なろう、エブリスタ、ハーメルン……どいつもこいつも活躍しちゃって……!」


 ナミオカさんはドス黒いオーラを纏わせながら、ゆっくりと地上に降りてきた。

 そして異変に驚く住民達のど真ん中で、天を裂くような絶叫をする。


「なんでアンタ達、で書かないのよぉーーーーーーーーっ!!」

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