第27話 ダンジョンが待っている

 クエスト。

 ゲーム側が用意したイベント。

 MMO黎明期ならともかく、今時のゲームなら必ず実装されている。

 特定のNPCから依頼を受け、目標を達成する事で報酬を得る。それは金だったりアイテムだったり経験値だったり――とにかくプレイヤーが得をするものだ。

 特にだだっ広い空間にいきなり放り込まれるMMOなどは、これの有無でゲームの快適性がまるで変わってくる。

 なにしろ「次に何をやればいいか」の道標になるのだから。


 そういう意味では、このPOKのクエストは多くのプレイヤーを助けるはずだ。

 行き詰まった作家達に道を示してくれるのは、編集者の仕事。

 その精神がゲームにも反映されている――のか?


「せんせー! なんか町の外がすごい事になってるよ!」

「びっくりしました……」


 トスターの町の門で、JKとアルチュールと合流――

 するつもりだったのだが、同じように待ち合わせをしている集団が多く、見つけるのにも一苦労だった。

 狭い門を何人ものプレイヤーが駆け抜けていき、目的地へと走っている。


「なに、どうしたのコレ? イベント?」

「イベント……的なクエストだな。突発クエストって奴か」


 ゲームにおけるクエストの基本は、受注、行動、達成、報告。

 冒険者ギルドで依頼を受けて、その依頼をこなして、またギルドに帰ってくる。

 最近では異世界転生ラノベでも、この形式のクエストをよく見る。

 ところが最近のMMOでは、それ以外のクエスト形式もある。

 そのへんを歩いていたら、いきなり始まるのだ。

 道を歩いていた行商人がモンスターに襲われたり、落とした書類を回収したり、または巨大モンスターが現れたり――そんな唐突に始まるクエストを、複数のプレイヤーがこなす形式が流行なのだ。


「突発クエストはいいが、どこで、どんなクエストなんだ……?」


 俺はメニュー画面を呼び出し、マップとクエスト一覧を開く。

 こういうのは、マップに表示されるものだが――


「なんだこりゃ……? 探索クエストだと?」

「クエストメニューに『未知のお宝を探せ!』ってのがあるね」

「ああ、これですか」


 アルチュールは慣れた対応だ。

 彼女にとってはよく見るクエストなのだろう。


「これは世界各地の至る所にダンジョンが出現して、その最奥にある宝を手に入れるというクエストです」

「それだけ聞くとまっとうなクエストに思えるが」


 もちろんKADOKAWAがタダでお宝をくれるわけがないだろう。

 絶対に怪しい罠が仕掛けてあるに違いない。


「難易度自体はそれほど難しいクエストではないそうです。ただ――宝の数が限られていまして。ダンジョンも複数用意されているのですが、ひとつのダンジョンにつき、ひとつしか用意されていないらしく――」

「やっぱり、そうきたか!」


 KADOKAWAめ!

 俺達に取り合いさせるつもりだ!

 プレイヤー同士で争わせて楽しんでやがる!

 限られた宝を奪い合う姿をどこかでモニターして、笑ってるに違いない!


「ねぇ、アルチュール」


 ふとJKが尋ねる。


「さっきから“そうです”とか“らしい”とか、伝聞系ばっかりなんだけど、アルチュールはクエスト行ってないの?」

「はい、私達は行きませんでした」


 私達――というのは、シュマール王国の連中の事だろう。

 ヌルハチは興味がないのか……?

 宝を目指してダンジョン探索なんて、異世界ファンタジーもののラノベじゃ鉄板だ。取材するには絶好のチャンスじゃないのか。


「アルチュールさん。ヌルハチが行かない理由はなんだ?」

「……それが私にも分からないんです。陛下は『あんなもの、クリエイターがやるもんじゃない』って激怒されて……」

「激怒……? いったいなんだってんだ」

「それからアバラヤマ様も同じ意見をお持ちで、クエストには参加しないと」

「アバラヤマも?」


 二人とも国に篭もって遊んでいた方が得って事なのか?

 それともプレイヤーとの争いを好まないって事なのか……?

 あの二人はどちらかと言えば緩くゲームをプレイしている。

人間関係に関してもそうだ。人が集まる以上、何かしら問題は起きるが、それでもアイテムを巡って醜い争いを繰り広げたりはしないだろう。

 アイテムに限らず、人だって。


「そういやアルチュールさんって、オタサーの姫扱いはされないのかな?」

「あ、それあたしも気になってた。“王国”じゃどういう扱いだったの?」


 俺とJKはアルチュールに顔を近づける。

 あの若いオタク集団の中で、どう振る舞っていたのか。

 むしろそっちの方がネタになりそうだが……。


「それは――言い寄ってくる殿方はいたのですが」

「ですが?」

「私は自分より強い方としかお付き合いするつもりはありませんので」

「それは……大変そうですね」


 アルチュールに合う相手を見つける事も、その相手自身も。

 なにしろ元ホンモノの騎士だ。

 ゲーム内でのパラメータはアテにならない。


「それでみんな、どーするノ?」


 アミューさんが尋ねる。

 ガイドとして、目標設定はきちんとしておきたいのだろう。


「そりゃ決まってる。今日はダンジョンの取材だ」


 俺がこのゲームに来た目的は、取材。

 そして燻っている作家達から、なんとかして面白い小説を引き出す事。

 その燻っていた連中が、こんなにも熱狂するようなクエスト――

 作家として、調べないわけにはいかないだろう。


「よーし、それじゃダンジョンに行コー!」

「待て待てアミューさん、どこのダンジョンに行くか決めてないだろ」

「あ、そっカ。でも、とりあえずアッチに行ってみたラ?」

「あっち……?」


 アミューさんが指で示すのは、町から一番近いダンジョンだ。

 なぜそこにダンジョンがあるのか分かるのかと言うと、すでに大量のプレイヤーが殴り合っているからだ。

 スキルのエフェクトがバンバン飛び交い、同じくらいの罵声が響いてくる。

 すでに取り合いが始まっているのだ。

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