第26話 二つの国と、ひとつの町

 シュマール王国と、ダルト帝国。

 二つの巨大クランを見てきて、分かった事がひとつある。

 奴らは、このクソゲーを楽しんでやがる。

 一作書き上げないと出られないというクソみたいなルールなど軽く超越して、このゲームを自分達の遊び場にしているんだ。

 遊び場だから、当然楽しい。

 楽しいから人が集まってくる。

 単純な話である。


「はぁー……」


 二つのクランを見てきた後、俺達はトスターの町――最初の町に戻ってきた。

 王国も帝国も自作の町なので、異世界をモチーフにしたこのゲームとは微妙に合わず、やはり最初から用意されているマップの方が落ち着く。

 というか、どっちのクランもいわば他人の家なので、そこに定住する気はない。

 だったら誰でも泊まれる居住区があるトスターの町が一番だ。

 そもそもこの町は“拠点”として作られているようで、あらゆる設備が揃っている。

 外で冒険してネタを仕入れたら、町に篭もって書く――それがKADOKAWAが想定していたゲームプレイなのだろう。


「んん~……」


 そんなトスターの町の酒場で、俺はモヤモヤを抱えていた。


「どしたノ、センセ」

「なぁアミューさん。この町の人間、どう思う?」


 俺の隣にはアミューさん。JKとアルチュールは、取材に行くと言って冒険に出てしまった。まともに異世界ゲームを取材する機会はあまりなかったから。

 俺はそんな気になれず、ずっと酒場で考え事をしていた。


「センセーはどう思ってるの?」

「んー……なんだろな。上手く言えないんだが……ヌルハチやアバラヤマとは決定的に違うんだ。あいつらや、あのクランの住民とは違って……」


 あまり言いたくないが、あえて言語化してみる。


「目が死んでる。何かに追い立てられるように生きてる」

「それって、みんな同じじゃないノ?」

「俺だって早くこのゲームから出たいし、面白い小説を書きたいと思ってる。それはヌルハチやアバラヤマだって同じなんだ。でも、こいつらは――」


 本気でこのゲームから脱出したいと思ってるんだろうか?

 ヌルハチやアバラヤマ達も出ようと思えば出られるのに、脱出する気がない。

 だがこのトスターの町にいる連中は、別の意味で出る気がない。

 つまり――小説を書く気がないんだ。


「半分、諦めてるのかもしれないな」

「出たくないノ?」

「出たくないんじゃなくて、『自分にはもう書けない』と思い込んでるんだ」

「そうなのカナ?」

「そもそも、この町に篭もってる事が何よりの証拠だ」


 二大クラン――ラノベのシチュエーションを楽しんでいる連中。

 そんな奴らを、この町の連中はどう思っているのか。

 おそらく、自分とは別世界の人間だと思っているのだろう。

 自分とは関係ない、独りよがりな国を作って集まっている、自分だけのシチュエーションに酔っている馬鹿な連中だと――そう笑っている。


「それってセンセーの思い込みじゃないノ? この町の作家さんも、みんないい人だヨ」

「いい人かどうかは関係ないんだ、アミューさん。問題は、書く気があるかどうかだ」

「うーん、でもそれ、センセーと関係ないよね」

「ああ、関係ないな」


 そう、言ってしまえば他人事だ。

 このゲームの最終目的は、俺自身が小説を書き上げる事。

 他人なんて知ったこっちゃないんだ。


「でもなぁー、なんかモヤモヤするんだよ。ここにいる作家全員、本気出せばきっと面白い小説書けるはずなのに、なんでこんな場所でくすぶってるのか……」

「なんだか編集さんみたいだネ」

「いや、違うな。読者目線だ。俺だって面白いラノベが読みたいんだよ」


 ああ、なんとなく自分がやりたい事が見えてきた。


「そうか――俺は、お節介がしたいんだ」

「どゆコト?」

「この町で“自分はダメだ”と燻ってる連中に、ヌルハチやアバラヤマと同じような気持ちを味わって欲しいんだ」

「みんなに書いて欲しいんだネ」

「ああ、きっとそうだ。俺は前に進まない作家を見てイライラしてたんだ」


 そうだ。

 俺はラノベを書く楽しさを知っている。

 だけどこの町の住人は、みんな泣きそうな顔でラノベを書いている。

 そんなんじゃダメだ。

 ラノベはもっと楽しく書くべきなんだ。

 あいつらのように――


「よし、俺も目標ができたぞ……! 必ずこの町の奴ら全員に、面白い作品を書かせてやるんだ」

「なんだかソレ、とっても壮大な目標だネ……でも、センセーらしいヨ!」


 微笑むアミューさんを見ていると、背中を押されている感じがする。

 アミューさんの笑顔は本当に癒されるなぁ……。

 などと思っていると――


「来たぞ! みんな、急げ!」

「本当か!?」


 周囲の席に座っていた作家達がいきなり立ち上がる。

 外へ向かって全力ダッシュする彼ら――


「なぁ、おい、何があるんだ?」


 適当な人を呼び止めると、彼は希望に満ちた顔でこう答えた。


「クエストだよ! 突発クエストが始まるんだ! KADOKAWAの施しだよ!」

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