第28話 突入

 突発的に出現したダンジョン前は、醜い戦場と化していた。

 大勢のプレイヤーが殴り合い、斬り合い、魔法を撃ち合っている。

 その戦いをすり抜けて我先にとダンジョン内に入ろうとする者を掴み、引きずり出し、熾烈な攻撃を加え続ける。

 やがてHPがゼロになったプレイヤーは、死ぬ。

 もちろんゲーム内での死だ。

 死んだプレイヤーはホームポイントと呼ばれる蘇生地点で復活する。経験値ロストなどのペナルティはないので、ガンガン死ねるようだ。

 そしてここは町から一番近いダンジョンなので、死んでは蘇ってまたここまで走ってくるプレイヤーが大勢いる。

 つまり、戦いはいつまでも終わらないのだ。


「どーしよう、せんせー? これいつまで経っても入れないよ?」

「ていうか、もうすでにクリアされてるんじゃねーのか?」


 戦場から離れた場所で、戦いを眺めている俺達。

 止める事も参加する事もできやしない。


「そうまでして手に入れたい宝って、何なんだ? チートでも使えるのか?」

「ああ、そっか……宝って、モノとは限らないんだ。スキルとか魔法って場合もあるね」


 クエストの報酬として、新たなスキルを得る事もある。

 金銀財宝よりも価値のあるものが入ってるわけだから――


「素直に“脱出権”かもしれませんね」

「あ、そういう事もあるのか!」


 アルチュールの意見が一番近いかもしれない。

 ヌルハチやアバラヤマが欲しがらず、ここにいるプレイヤーが血眼になって探すもの。

 それなら合点がいく。


「だったら俺は……うーん」


 欲しいか、と言われれば、まぁ欲しい。

 だが俺がここから出るなら、きちんと小説を書き上げたい。

 あのクソ編集の顔面に叩きつけて、大手を振って悠々と出てやるのだ。

 そのために今ここで争いを眺めているのだが――


「……すみません、ちょっと失礼します」


 視線を彷徨わせるアルチュール。

 どうやら誰かと個人的な会話をしているようだ。


「……はい、はい……ええ? あ、はい……分かりました、一応、先生方にもお伝えした方がいいですか? はい……はい」

「なんだアルチュールさん、何か問題があったのか?」

「ええ、国王陛下から通信がありまして」

「ヌルハチの所で何かあったのか?」

「はい……あの」


 アルチュールは少し悩んでいるような顔を見せた後、俺に教えてくれた。


「このクエストのダンジョンが“王国”の敷地内にも生まれたようなんです」

「ああ、そっか、ランダムに発生するなら、そういう事もあるよな」


 だがヌルハチ達は攻略に興味がない。

 という事は、そのダンジョンはどうなるんだろう。


「ヌルハチ達が行かないなら、他のプレイヤーが攻略するのか?」

「……それが」


 言いにくそうなアルチュール。

 少しの間を置いて、彼女は教えてくれた。


「アバラヤマ様がダンジョンに入ろうとして、陛下と言い争いになったと」


                     *


 アバラヤマもヌルハチと同じように、クエスト攻略には否定的だと言っていた。

 興味がない――とは違う。

 普通、何かしらのイベントがあれば、興味がなくても覗いたり対策を立てたりするものだ。それこそ“王国”だの“帝国”だの大きなクランともなれば、誰かしら攻略してみようという気になるのがゲームというもの。

 そういう連中が“毛嫌い”するような財宝――

 なんとなく、俺には想像がつき始めている。


『答えろ。このクソみたいなイベントを企画したのは誰だ?』


 俺は担当編集宛てにメールを送った後、ヌルハチの“王国”に向かった。

 JKのスキルによって、一番早い乗り物を用意してもらった。いつもの走るジャガイモではなく、コンドルのような巨大な鳥だ。八人まで乗れるモンスターである。

 このゲームで最大の速度を誇るが、非常に大量のスキルポイントを使う。

 だがJKのチート能力があれば、あっさり取得できてしまうのだ。


「センセー! あそこ!」


 コンドルにしがみついているアミューさんが指さす先――

 壁の正面門から突入して、すぐ先。

 俺達が以前キメラに襲われた場所に、ぽっかりと生まれたピラミッドのような建物。

 入口は大きく、数メートル四方の門がこちらを向いていた。

 その手前で、二つの集団が睨み合っている。

 集団のボスは、ヌルハチとアバラヤマ。


「よしJK、ありがとな! 降ろしてくれ――」

「うん!」

「あ、いや、待ってくれ、やっぱり降ろさないでくれ」

「へ!?」

「このままダンジョンに入っちまおう。アバラヤマより先に攻略してやろうぜ」

「えええっ!?」


 あいつらの問答に混ざる必要はない。

 ケンカになるくらいなら、その元から絶ってやろう。

 ついでに、ダンジョンの取材もしてやろうじゃないか。


「プレイヤーが躍起になって求めるお宝――ま、多分クソみたいなモンだろうが、先に奪ってやろうぜ」

「先生は宝の正体にお気づきなのですか?」

「ああ、だいたいな。アルチュールさんも大方分かってるんじゃないか?」

「それは――」

「ヌルハチもアバラヤマも分かってる。だからこそ――なおさら渡したくない」

「……分かりました」


 頷くアルチュール。

 ちょうどその時、俺達が乗ったコンドルはヌルハチとアバラヤマ達の集団の真上を通り過ぎた。


「あっ、ちょっ、オマエ~!?」

「貴様!? 俺を差し置いて先に行くつもりか!?」


 奴らが驚き、激怒するがもう遅い。

 巨大な鳥が悠々と入れるほどの入口に、俺達は突入する。

 さて、どんなダンジョンが待ち受けているのか――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます