第22話 帝国の脅威

 ダルト帝国がどんな国なのか。

 それは国境を越えた瞬間に理解する事ができた。

 一流のラノべは一ページ目からどんな話か理解させる必要がある。下手すりゃ口絵の段階で読者に分からせる。

 それでいったら、この国は分かりやすい。

 シュマール王国よりずっと単純かもしれない。


 国境を越えると、そこは海だった。

 その中に大きな島があり、様々な施設を内包しているようだ。

 で、現在、その島はドラゴンによって攻撃されている。

 無数のワイバーンが島めがけて突撃しているが、全てレーザーのような防衛施設が撃ち落としているのだ。


 絶海の孤島にある、人類防衛施設。


 それがダルト帝国。

 ライトノベルの島だ。


                 ※


「よく来たな。久しぶりに会えて嬉しいぞ」


 船で島まで辿り着いた俺達は、まずこのクランのボスであるアバラヤマに会いに行った。

 奴もヌルハチと同じく、俺と年代が近い作家だ。

 そんな奴の部屋には『学院長室』と書かれてあり、奴の机の上には『学院長』と書かれたプレートが乗っていた。


「アバラヤマ。お前いつから教師になったんだ?」

「もとから教員免許は持ってたよ」


 そう語る彼は、小柄なオッサンだ。

 薄い髪の毛は手入れもせず、大きなメガネと小さな瞳が印象的だ。

 いつもはダサい服装だったが、今は黒いスーツを着ている。学院長として振る舞っているからだろうか。


「で、何しに来たんだ? お前、ヌルハチのところに行ったそうじゃないか。スパイでもするつもりか?」

「調べるって意味じゃ同じだがな。単純に俺のラノべに生かすための取材旅行だよ。色んなクランを回って、面白いものを見て回ってるのさ」

「ほう、じゃあお前はこのゲームに住む気はないのか」

「アバラヤマ……お前もこのゲームに住む気なのか」


 そんなに居心地いいのか、この世界は。


「このゲーム、一見するとひどいクソゲーだがな。遊び方が分かると、途端に楽しくなるんだ。なにしろ自分自身がゲームの住人だからな。フフ、好きな国を作って遊ぶっていうのは楽しいぞぉ?」

「そのへんはヌルハチと一緒なんだな」

「フン、そこだけはな。だが俺はあんななろう作家とは違う。ラノべの破壊者どもの集団なぞ、必ず滅ぼしてやるからな……!」

「おい、お前……」

「何が異世界だ。何が俺TUEEEだ。あんなものラノべと呼べるか!」


 だんだん発言が過激になっていくアバラヤマ。


「お前も最近はカクヨムなんてつまらないサイトでつまらないエッセイもどき小説を投稿してるようだが、結局はなろうみたいな異世界チートものに過ぎないじゃないか」

「いや、カクヨムのアレは見たままを正直に書いただけなんだが……お前だってあのくらいの取材はしただろう?」

「もちろんさ。“ヴォイド”との戦いを取材することで、俺は今の地位を築く事ができたんだ。あの死にかけたバトルと仲間たちとの恋愛がなければ、とっくに作家として死んでいた」

「なら俺の取材に文句つけんなよ」

「取材場所と方法が気に入らんのだ。お前ほどのベテランがヌルハチみたいなネット小説など……あんな……業界のクズが……!」


 ブツブツと呟くアバラヤマ。

 こいつもこいつで歪んでるなぁ……。

 そうして歪んだ結果が、このダルト帝国ってわけだ。


「まぁいい、来たからには見ていくといい。本当のラノべとは何か、お前に思い出させてやろうじゃないか」


アバラヤマはそう言って、メガネの奥に暗い光を讃えるのだった。


「ただし――」


                  ※


「ただし、この国のルールに従ってもらう――」


 アバラヤマが作り上げたこの海上学院は、まるで要塞のように堅牢だった。

 バリアだけでなく、学院全体が空母のような役割を持つらしく、こちらから打って出るための仕掛けがいくつも施されているという。

 加えて敷地内には娯楽施設や運動場、プールや教室など、学校として必要なものは全て揃っているらしい。

 ここの住民はプレイヤーもNPCも生徒として、学院の一部となるのだ。


「って、なにこの格好は!?」


 用意された服装に着替えたJKがさっそく文句を言う。

 白いブレザーに青色のネクタイ、そして白のプリーツスカート。

 汚れが目立ちそうな制服である。


「なんでゲームの中でも学校に通わなくちゃならないわけ!?」

「しょーがないだろ、そういうルールなんだから」


 JKの後ろでは、アミューさんとアルチュールが同じ制服を着て喜んでいる。

 アルチュールはともかく、アミューさんは……年齢的に大丈夫なのか。

 いや、可愛いから許す!


「あと、この部屋!」


 JKが見回す、俺達の部屋。

 ベッドが四つに、二〇畳ほどのリビング。キッチンやトイレもある。シャワーも備え付けられている。しばらく滞在するにはとても良い部屋だが……。


「なんでせんせーも同じ部屋なの? 他にもいっぱい空き部屋ありそうだったじゃん!」


 JKが主張するのも分かる。

 普通は男女の部屋は別々にするものだ。

 それが世間の常識――だが。


「これも“ルール”なんだろうな」

「ルール?」

「ああ……“ライトノベル”のルールだ」


 アバラヤマの代表作、“精霊装置の回転帝国ギャッツビー”では、女子ばかりの学院に転校してきた男子生徒が主役の活劇だ。

 彼はヒロインと同じ部屋で生活する事になる。

 理由はない。学院長の気まぐれだ。

 そういうラノベなのだ。


 このダルト帝国は、おそらくそういう“ルール”が山ほどあるのだろう。

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