第23話 要塞学院

 “精霊装置の回転帝国ギャッツビー”とは、二〇〇〇年初期に発売されたラノベである。

 謎の敵性生物“ヴォイド”によって人類の半数が死滅した世界。

 それに対抗するために少年少女が集められた、孤島の学院。

 唯一“ヴォイド”に対抗できる力、“聖剣血液”を持って生まれる新人類。

 その中でも特に“女性のみ”に発現する事が多い、特殊能力群。

 女性の立場が強いその学院において、なぜか“聖剣血液”のパワーが色濃く表れた主人公が転入する所から物語が始まる――


 そんな学園ハーレムものの再現をしているのだ、この“ダルト帝国”は。

 そもそも“ダルト”というのも、作中での学院の名前だ。“ダルト学院”という舞台で女性キャラとイチャイチャするのが作品の主な内容である。戦闘はほぼない。

 いや、一巻に一度くらいヴォイドとの戦いはあるのだが、添え物というか、主人公にいいところを見せるためのギミックというか、その程度である。

 しかしキャッチコピーは「ハードコア美少女バトルアクション」となっているから、読者の気を引いたモノ勝ちなところはあった。


「センセー、見て見て!」


 制服を着たアミューさんの左手には、腕輪が装着されている。

 その腕輪のスイッチを押すと、彼女の姿が光り輝く。

 一瞬後、アミューさんの服装が変化していた。


「ジャーン! 変身だヨ!」


 肩と両手足にゴツゴツした鎧が。

 それと反対に、胸から腰にかけてはレオタードのように薄い膜のような衣装に。

むっちりとした身体のラインがあらわになって、非常にエロい。

 これも“精霊装置の回転帝国”に登場した“バルキリーアーマー”というやつだ。


「ちょっ、アミューさん! 何やってるんですか!?」

「JKも変身してみようヨ! ホラ!」


 有無を言わさずJKの腕輪のスイッチも起動するアミューさん。

 光と共にJKにも同じ衣装が装着される。

 うん、アミューさんに比べれば出るとこ出てないが、それでも小柄でスリムな分、身体のラインがハッキリ出ると可愛くスマートに見える。これはこれで良い。


「うむ……JK、お前もなかなかやるじゃないか」

「どこ見てんだぁぁぁっ!」


 JKのパンチが俺の顔面に炸裂。

 手甲に仕込まれたブースターが噴射し、俺の身体は背後に思いっきり吹っ飛んだ。

 窓ガラスを突き破り、窓枠を破壊しながら外に飛び出す。


「のぉぉおおおおおっ!?」


 とっさにベランダの柵を掴んで落下を防いだ。

 ひしゃげた柵に寄りかかりながら、俺はゆっくり立ち上がる。


「嘘、ごめんせんせー! そんなに吹っ飛ばされるなんて……!」

「いや、その鎧のパワーだろう。気にすんな」

「まさか、これも“原作通り”……?」

「ああ」


 当時のラノベは、ヒロインの攻撃に晒される主人公が多かった。

 いわゆる暴力系ヒロインというやつで、主人公に対するツッコミとして機能していた。

 最近ではヒロインは守られる側に立つ事が多いので、めっきり減ったが。


「先生は痛くないんですか?」


 バルキリーアーマーを身につけたまま、アルチュールはスケッチブックに絵を描いている。この鎧の詳細と、先ほど全力パンチしていたJKの姿を。

 好きなだけあって、アルチュールのデッサン力は確かなものだ。

 目がいいのだろうか、瞬間の出来事をスケッチするのが上手い。


「俺もスーツのおかげで痛くないんだわ。それよりアルチュール、いいイラストレーターになりそうだな」

「いえ……これはただのデッサンです。もっと私が描きたいものが見つかるまで、色々なものを見ようと思います」

「それじゃ、ここの体験は若者にとって新鮮かもな」

「はい。私の世代にとっては、何もかもが新鮮です」


 アルチュールやアミューさんにとっては、こういう学院は馴染みがないだろう。

 しかしJKは……。


「JKはこういうタイプのラノベ、どう思うんだ?」

「なんか“懐かしい”って思う。あたしが小学生くらいの時に流行ったラノベだ」


 実際、その通りだ。

 今から五年くらい前に流行したラノベの傾向。

 言い換えれば、たった五年でこういうラノベは減少した。

 いわゆる学園ハーレムもの――ラノベがまだ売れていた時代の流行。

 アバラヤマは、まだその頃の栄光に縋りたいのか。

 それとも――?


『緊急警報、緊急警報。大規模の“ヴォイド”が学院に向けて進行中。総員、ただちの出撃準備をしてください。繰り返します――』


 突如、警報と共にアナウンスが鳴り響く。

 さっき島に来る時に見た、あのドラゴン達の事か?


「せんせー、これってあたし達も参加しなきゃならないのかな?」

「自由参加だと思うが、どうする?」

「私はやります」


 立ち上がったのは、アルチュール。


「取材にもなりますが、なにより滞在する身としては恩返しをしなければ」


 彼女はすでに剣を取りだしている。

 スキルによって生み出された剣だ。見た目は無骨な長剣だが、スキルレベルはかなり高いとJKが言っていた。


「それにアバラヤマ氏以外の作家とも出会っていません。彼らにもご挨拶をしないと」

「確かにそうだな。よしっ、行くか」

「よっしゃー!」


 アルチュールの言葉に頷く俺とJK。

 あとはアミューさんだが……。


「んー……?」

「どした、アミューさん?」

「んー、今、本部から通信が来たんだけど……ちょっとコレ、私は戦っちゃダメみたい」

「なんだそれ……?」


 アミューさん、いや、GMが干渉してはいけない戦い?

 どういう事だろう……?

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