第21話 もうひとつのクラン
移動手段は変わらず、JKが召喚したジャガイモだった。
速度はともかく、乗り心地が一番いいのだ。
スキルで他の乗り物も出せるのだが、この気色悪いバケモノが一番快適というのが皮肉なものである。
「じゃあアルチュールさんは、イラストレーターを目指したのは最近なの?」
「はい。それまで私はライトノベルというものに触れた事がありませんでした」
ジャガイモの上でJKと楽しそうに会話しているアルチュール。
年齢が近いせいか、JKの方が懐いている印象だ。
「それまではどんな事して過ごしてたの?」
「私は剣しか知りませんでした。王を守る剣として育てられ、戦い以外の喜びを知らなかったのです」
「……?」
「あれ、言ってませんでしたか? 私の出身はダイアラン大陸です」
「アンタ、異世界人だったのか!?」
俺も驚いて振り向いてしまった。
JKもアミューさんも言葉も出せずに驚いていた。
「私はダイアラン大陸のヴェルゴット王国という国の騎士でした。つい最近になってヴェルゴットでは異世界の本、つまりライトノベルが輸入されるようになったのです」
「あ……それってアミューさんがこっちの世界に来た頃か?」
「そうだネ。その頃からKADOKAWAの本が輸入されるようになったんだヨ」
「新しい娯楽に人は熱狂し、自分から筆をとる者も増えました。私のそのひとりです」
「おぉ……そういうパターンか」
異世界人のイラストレーターか。
日本のアニメに影響を受けて、声優やアニメーターになりたがる外国人がいる。
異世界だってそういう事があっても不思議じゃないわけか。
「あ、そういや異世界人のラノベ作家も増えてるって聞いたな」
「そんなに多いの、異世界人?」
「今なろうやカクヨムで書いてる作家の一割が異世界人だって、編集から聞いたぞ。ネット小説なら異世界からでも投稿できるし、合ってるんだ」
最近の異世界小説ブームの理由の一端だと言われている。
そりゃ異世界人が書くんだからリアリティがあるに決まっている。
ただ、それでもラノベのノウハウを知っている昔ながらの作家の方が、総合的な面白さは上だと思っている。それは経験やストーリテリング技術のせいだ。
しかしそれもいつ逆転されるか――
「ですから私は色々なものを勉強したい。色々な世界の色々なものを絵にしたいと思ったのです」
「いいね、それ! 素敵じゃん!」
夢を語るアルチュールも、それに同意するJKもいい表情をしている。
どちらも若い才能だ。
ここで伸ばしておけば、俺も将来面白いものが見られるかもしれない。
「フフ、なんだか楽しいネー。センセーがいっぱい増えたみたいだネ」
アミューさんも気楽に言うが、そんな事はない。
「アミューさんだって今から何かを始めてもいいんだぜ? 人間、遅すぎるって事はないもんだ。老人になってからもラノベは書ける」
「ウーン、私は今はいいカナ? こうやってセンセーの案内をするのが一番好きだヨ」
それもそれでいいと思う。
クリエイターだけが人生じゃない。
むしろそれを助けてくれる人がいるからこそ、ダメ人間集団のクリエイターが生き長らえているのだから。
実際、アミューさんがいないと何度死んでいたか……。
「あ――壁」
JKの声に、進行方向を見る。
また壁か。
シュマール王国のように巨大な壁が――
「ありゃ壁か……? いや、壁か……」
ちょっと違った。
四方を覆うようなブロックの壁ではない。
うっすらと透明な――ドーム状のバリアのような障壁。
光子力研究所みたいな奴だ。
国として国境を遮るというよりは、何かから守っているような印象。
「今度は何が待ち構えてんだか……!」
シュマール王国と別れてるって事は、二つのクランには決定的な違いがあるはず。
それが何なのか、見極める必要がありそうだ。
障壁の向こうに広がる、作家が作ったもうひとつの国――
“ダルト帝国”という名のそれは、何の抵抗もなく俺達を出迎えてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます