第20話 旅立ちの朝
翌日、俺たちは早朝から“王国”を出た。
歓迎してくれるのはありがたかったが、どーにも居心地が悪かった。
ヌルハチの野郎が作った国ってのもあるけど、住むにしても小説を書くにしても、どーも合わないというか、不自然な印象を受けてしまうのだ。
ここに住んでいる作家達にとっては快適なんだろうけど、俺はダメだ。
JKも同じ意見だったらしく、快く旅立つ事となった。
もとよりここに住む気なんてなかったけどな。
俺達はとっとと小説を書いて、このクソゲーからオサラバしたいんだよ!
「じゃあ、短い間だったけど、世話になったなヌルハチ」
「別にそんな堅苦しい挨拶いらないよ~」
マンションの出口で、俺達はヌルハチに見送られる事になった。
「来ようと思ったら、すぐに来られるし。転移のスキル取った?」
「まだレベル一だからな。スキルポイントたまったら取るわ」
「名刺交換もしたし、これからはいつでも会話できるからさ」
「……結局、ここの若手作家達とはほとんど名刺交換できなかったな」
遠巻きに見たり、当たり障りのない会話はした。
けど名刺交換までは至らず。
随分と距離感がある連中だったが――
「ところで、次の行き先は決まってるのかい~?」
「ああ、二大クランって言うくらいだから、次は“帝国”って呼ばれてる方に行く」
「なるほど……あぁ……そうか……“帝国”ねぇ……」
困ったような顔をするヌルハチ。
「あの、ヌルハチさん。“帝国”ってどんな所なんですか?」
俺が訪ねたかった事を尋ねるJK。
「そうだなぁ……JKちゃんはあまり居心地が良くないかも」
「私は? せんせーは?」
「この男は波長が合うかもしれないねぇ。いや、でも、どうだろうなぁ……」
やはり考えてしまうヌルハチ。
「でも、君は一度行った方がいい。それでアバラヤマに会ってくるんだ」
「アバラヤマ? アイツが“帝国”にいるのか?」
「アバラヤマって、アバラヤマ・ホクセツさんですよね? “精霊装置の
JKが挙げた名前は、数年前に一世を風靡したラノベである。
アニメにもなって、DVDも数万枚売れたと聞いた。
彼も俺やヌルハチとデビューが近く、売れる前はよく飲みに行ってたりしたが……。
「あいつも姿を見せないと思ってたら……なんだ、アバラヤマもここでネット小説書いてたのか?」
「いや……そうじゃない」
「違うのか? なら、何やってんだあいつ……」
旅の目的が少し明確になってきたぞ。
まずは“帝国”に行き、アバラヤマと会おう。
久々の再会だ、どんな風になっているだろうか――
「それから、ちょっと頼みがあるんだ~」
「お、どうしたヌルハチ」
「彼女も連れていってやってくれないかな~?」
ヌルハチが示すのは、彼の隣に立っている騎士アルチュール。
先ほどから従者のように微動だにせず立っていたが、ヌルハチに促されると一歩前に出て一礼した。
「ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
「ええええーっ!」
一番驚いたのは、何故かアミューさん。
「なんでアミューさんが嫌がるの」
「だ、だってガイドは私だヨ! この人もガイドなんでショ?」
「仕事取られるのが嫌だったのか……」
「だって、センセーのガイドは私だカラ……」
拗ねたようにこちらを見るアミューさん。
可愛い!
「心配しなくても、俺のガイドはずっとアミューさんだよ」
「ホント?」
「あー、イチャつくのは結構だけどさ、アルチュールは別にガイドじゃないから。騎士だからね」
ヌルハチがツッコミを入れるまで、俺はずっとアミューさんの笑顔にデレデレしっぱなしだった。いかんいかん。
「ていうか、アルチュールさんってNPCじゃないのか? この国の?」
「え?」
驚いて俺を見る騎士アルチュール。
「私は――プレイヤーですが」
「そうだったの!? だって王国の住民とか言うから!」
「はい、このシュマール王国というクランの一員です」
「そういう意味かよ!」
騎士の格好して従者みたいな事してくれるから、てっきりNPCかと!
だったら最初からそう言ってくれよ!
「あれ、でも、だったらどうしてこんな下働きみたいな真似……?」
「それがこの子の困ったところでさ~」
ヌルハチが頭を掻く。
「彼女、イラストレーター志望なんだけどさ、まだデビューしてないんだ。で、ここの作家達との生活で色々学んでるんだけど、限界がきててね。ここでひとつ、新しい刺激を入れてみようか~って話になったんだ~」
「なるほどね、つまり俺達と取材旅行に行きたいってわけか」
アルチュールは無言で頷く。
そういう事なら話は早い。
ヌルハチはこの国の運営で忙しいだろうし、他の住民も外に出たがらないし。
かといって一人旅は危険だもんな。
「よし、じゃあ行こうぜ。みんなもいいよな」
「いいよ!」
「センセーが言うなら、仕方ないネ!」
そう言いつつも、ガイドのライバルではないと分かったのでアミューさんも嬉しそう。
心配しなくても大丈夫なんだけどなぁ。
「至らない私ですが、どうぞよろしくお願いします」
「よろしくね!」
一番嬉しそうなのは、JKだった。
まだデビューしていない子と一緒に旅をする、というのが昔の自分の姿と重なるからだろうか。
二人とも、何かしら得るものがあれば良いのだが――
こうして俺とJK、アミューさん、そしてアルチュールはシュマール王国を出た。
巨大な壁の外は、やはりあの時の異世界と変わらない広大な自然が広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます