第19話 幕間2


「すまないけど~……なるべく早く出ていって欲しいんだ~」

「ええーっ!?」


 ヌルハチに呼び出されたJKは、いきなり頭を下げられて困惑している。


「わ、私、何かしました!? それとも、やっぱり作家経験が少ないから……?」

「いやいやいや、君は何も悪くないんだよ~! それに作家経験で言うなら、かなり実戦でもまれてる方だと思うよ~。ていうか、そんな理由で追い出したりしないって~」


 ヌルハチも困惑しているのが手に取るように分かる。

 全自動ハプニング装置を作れる彼でも、予想外の事態に戸惑っているのだ。


「じゃあ、どうして」

「うーん、ぶっちゃけて言うとね、君、目の毒なんだ~」

「何言ってるんですかヌルハチさん。目の毒っていうのは、アミューさんみたいな巨乳の事を言うんですよ。くっ……あんなのせんせーの前にぶらさげたら……!」

「ああ、そういう意味じゃないんだ~。いや、そういう意味かな~……? とにかく、君の存在のせいで、今、作家たちがおかしいんだ」

「おかしい……? どうしちゃったんですか?」

「若手の作家がこぞって、君にいいところを見せようとしてね。君だけのネット小説講座を開こうとしたり、スキルでカッコつけようとして建物破壊したりね……」

「なっ……」


 なぜそんな事をする必要があるのか、JKには分かっていない。

 ネット小説の書き方が知りたければ、あの人やその周囲の作家、それに編集者に聞けばいいし、スキルだってすでに大量のバトルスキルを取得している。


「それで競争みたいなのが始まっちゃって。めっちゃギスギスしてるんだ」

「……? なんで……でしょうか?」

「そりゃ……」


 言いかけて、ヌルハチは口をつぐむ。


「確かに君は可愛いと思うよ~。アイツが側に置いときたがるのも分かる」

「別にあたしとせんせー、そーゆーんじゃないですよ」

「うん、可愛いってのは理由のひとつだね~。でも、もっと大きい理由がある。それは君が別の方法でデビューしたラノベ作家だから」


 JKは新人賞に応募して、賞を取った。

 それまでも投稿やツテで編集者の世話になっていたが、昔ながらのまっとうな手段で作家デビューを果たした女子高生である。


「ウチの“王国”の連中は、みんなネット小説からスカウトされた奴らばかりでさ~。それ以外のデビュー方法を知らないのさ~。だから――なんというか……違う手段で同じステージに上がってきた同年代の子が珍しいんだよ~」

「どっちみち同じじゃないですか」

「でも、彼らにとっては色々な感情があるらしい。劣等感や優越感、珍しさや差別感、一言では言い表せない感情が、君に向けられている」

「……なんだか、怖いです」

「ま、一番大きいのはやっかみだと思うよ。ほら君、今売れてるからさ」


 ロビーで少し会話をした時も、そんな事を言われた。

 口では売れている事を褒めつつも、言外で舌打ちしているのが分かるのだ。

 これがあの人だったら「俺より売れやがって! 今に見てろ!」とひとりで勝手に燃え上がって突っ走るのだが。


「いやぁ、この国にも女性作家はいるんだけどね。どうしてこうなったんだか……」

「ヌルハチさんって、せんせーが言ってた通り、いい人なんですね」

「え? なんだよいきなり~?」

「いえ、せんせーが言ってたんです。『アイツは変態でドスケベ野郎の変態だけど、仲間との和を重んじる奴だ。だからいい奴すぎて売れなかった』って」

「ったく、あの野郎~……変態って二回も言いやがって。大事な事だけどさぁ!」


 笑うヌルハチは、まったく嫌そうな顔をしていない。

 古い付き合いだ、あの人とはわかり合える部分が多いのだろう。

 そういう意味では、JKと対等の付き合いができる友人はいない。


「分かりましたヌルハチさん。明日、この国を出ますね」

「ほんっとーにゴメンね……」


 つまり、この“王国”の住民はJKとの対等の付き合いを拒否したのだ。あくまで別の生き物として、遠巻きに見る事を選んだわけだ。

 同じラノベ作家だというのに。


「そんな連中、こっちからお断りだよっ!」

「……!」

「……って、あの人なら言いますかね?」


 頭を掻いて照れるJKに、ヌルハチはこう答える。


「いいや、アイツなら『おいなんで避けるんだ、ちょっと今の心境を語れ。メモするから待ってろ』とか言うね」

「あー、言いそう……」

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