第18話 幕間
「――次はこ――のプロットを――」
「これは――――凡庸だが――――」
「――――すが――――は――」
長い長い時間。
紫煙と血の匂いが充満する会議室。
イスに座る強面の編集者達は、全員書類に目を通しながら険しい顔をしている。
彼らも仕事だ。
自分の飯の種を引っ張ってくるためなら、どんな業界でも修羅となる。
「おし、じゃあ今日のプロット会議はこれにて仕舞いじゃ。おつかれさん!」
「っした!」
両膝に手をついて頭を下げる編集者たち。
そう、たとえ泣く子も黙る編集者とはいっても、会議の終了における開放感は何者にも代えられない。
ヤクザだろうが編集者だろうが大統領だろうが、長い会議を好む者など存在しない。
そう、だからこそ――
「ちょっといいですかい」
皆が立ち上がりかけた瞬間を狙って手をあげたひとりの編集者に、全員からの憎悪の視線が注ぎ込まれる。
「なんじゃお前は! プロットは全部検討したろうが!」
「いえ、その事じゃあないんです。まぁ、プロットにも関係する事なんですがね」
撫でつけた髪の毛に触れ、眼鏡を正す編集者。
「最近――ウチのゲームで妙な事をやってる奴がいるって聞きましてねぇ。なんですか、オンラインゲームって言うんですか? 脳を繋いで、直接異世界に行くって奴」
「それに関しちゃアリマが詳しいだろう、おいアリマ」
「へい。でもねぇ、ゲームに関しちゃ兄さんだって詳しいはずだぜ」
「別に詳しい話が聞きたいわけじゃないんですわ。ただ、ありゃ効率的にどうなのかと思いましてね。成果、ちゃんと出てるんですか」
「なんじゃお前は。姐さんの仕事にケチつもりかコラ」
姐さんという単語が出て、全員の視線が会議室の一角に集まる。
ガタイの大きな編集達に囲まれるように、そこにひとりの女性がいた。
男ばりのスーツを着ている、長い黒髪の女。
年齢は分からない。美人かどうかも分からない。
なぜなら、彼女の顔は般若の面で覆い隠されているからだ。
「なーにー? アンタも“ゲーム”の事グチグチ言うわけー?」
彼女は仮面の下で笑い声をあげる。
「あ、そうだ、今は“POK”って名前になったんだよ。ウチの作家さんが名付けたんだけど、面白いから使わせてもらってるんだよー」
「……言わせてもらいますがね、姐さん。そのナンチャラってゲーム、本当に“取材兼カンヅメ”の効果があるんですか? こないだモニターさせてもらいましたけどね、遊んでる奴らばっかりでしたよ」
「別にいいじゃーん。どうせリアルでも遊んでるだけでしょ」
「じゃあ、なぜ放り込んだんです?」
「その中から、少しでも見込みのある奴を拾い上げるためだよー。別にあのゲーム、出ようと思えばいつでも出られるんだから。面白い作品を書けばいいだけ。簡単よ」
「……その簡単すらも出来ない作家は、どうするんです?」
「死ねばいいんじゃなーい?」
般若の女は、あっさりと告げる。
「仮想現実だけど、異世界ファンタジーという取材旅行につれていってもらって、書く環境も手段も用意して、それでも書けないんだったら、生きてる価値なんてないよ」
「姐さん……!」
「そんな連中を生かしたところで、どうせツイッターで知識人ぶった偉そうな言葉を並べるだけのオタクのままよ。ならウチで責任をもって隔離した方が世の中のためでしょ?」
般若の言葉に、編集達は反論できない。
非人道的な隔離施設だという事は承知している。
だが――書かない作家は人間扱いされない、という事実が彼らを納得させる。
「アンタ……!」
何人かの編集者が立ち上がる。
そして彼女に詰め寄ると、こう言うのだ。
「ちょっとウチで担当してる作家も放り込みたいんだけど、やり方教えてくれ!」
「ウチもだ! イラストレーターをブチ込みてぇ!」
「俺も俺も!」
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