第15話 酒場はサービスもいっぱい

 酒場で一悶着あった後は、普通に食事をした。

 役者だったNPC達には自宅に帰ってもらい、一気に空いた店内でゆっくりと夕食を食べる事になった。

 製作のスキルで食事も作る事ができるが、NPCが販売する食べ物もある。スキルで作った食事は失敗する事があるが、店で買った食事は常に一定だ。自炊と外食の違い、そのままである。


「じゃ、せんせー。あたし達、先に宿に行ってるね」

「私もJK送ってくるヨ! また後でネ!」


 ゲーム内時間で、夜の十時。

まだ未成年のJKはそろそろ戻る時間だ。

 ゲームの世界で治安も何もあったものではないが、習慣は大切にしないといかん。それに食事も大体済んだので、あとは各自ゆっくりと過ごせばいい。

 俺はこの酒場で少し飲んでから宿に行くつもりだ。


 ちなみに酒もある。

 脳をいじるゲームなので、酩酊状態もちゃんと再現される。

 ひどく酔うとデバフ状態になるので、飲み過ぎはゲーム内でも禁物である。


「さて、と」


 海外産のビールを再現したものを飲み比べながら、俺はメニュー画面を呼び出す。

 今日一日で色々な事があった。

 覚えている事をメモっておこう。


「あん? なんだこりゃ」


 メールのアイコンに数字がついている。

 これは「メールが一件届いています」というメッセージか。

 フレンド同士ならメールのやり取りができるが、電話のように直接会話をする事もできる。わざわざメールをよこしたって事は、記録する必要がある内容か――


『富士見ファンタジア編集部 アリマ』


 差出人はそう書かれてあった。

 あの男、人をゲームに叩き込んでおいて、今さらメールかよ!


『よう、騙して悪かったな。オメーはケツに火がつかないと書かない作家だって教えてもらってたからよ、こうして“POK”に放り込ませてもらったぜ。編集部からずっとモニターしてるからな』


 だと思ったよ。

 あの野郎、俺達が右往左往してる姿を見て笑ってやがるのか。

 デスゲームを観戦するとか、どこの金持ちの悪役だよ。

 謝罪があるだけまだマシと思おうか。


『アミューさんの事に関しては、開発部もスルーしてた。まぁ、俺達としちゃ面白い展開が望めるなら多少のチートはオッケーって方針だから。一般向けサービスもしてないし、そもそもテストサーバーだしな!』


 なるほど、だからアミューさんが自由に行動できたのか。

 許可をもらうというか、お咎めがないならいいんだ。

 俺達の旅に付き合わせたせいで、アミューさんの仕事がなくなったら困る。

 そうなったら、あっちの世界に帰ってしまうかもしれないからな。


『けどオメー、そろそろなんかラノベ的なサービスシーンよこせよ。読者はそんな生温い展開なんて期待してねーんだよ。一話に一回くらいサービスしたってバチは当たらねーからな』


 サービスなんて狙ってできるわけねーだろ!

 俺はラノベ作家であってラノベ主人公じゃねーんだ!

 あくまでこれは取材であって、俺自身が主人公じゃ――


「ん、待てよ」


 この町はNPCが自分をラノベ主人公として持て囃してくれる。

 つまり今の俺はラノベの主人公として歓待されてるって事なのか?

 望めばサービスシーンも提供してくれるんだろうか。


「あのー、すいませーん!」

「はい、おかわりですか?」


 ジョッキを持って歩いていたウェイトレスを呼ぶ。

 短いスカートを履いた美人の女の子。胸も太股もムチムチで非常に良い。


「注文っていうか、その、ラノベ的なサービスって、お願いしたら……その、やってくれるのか……?」

「アハハハハハ! 何言ってるんですかお客さん!」

「だ、だよな!? そう簡単に、そういうのは、ちょっとな!」

「女性をお求めなら、そういうお店もありますよ? 自力で女の子を捕まえたいなら、そこで飲んでるお客さんもいますし」

「あ、ああ、その通りだよ! 自分からサービスシーンを要求するなんて、なぁ!」

「そうですよー!」


 ケラケラと屈託なく笑うウェイトレス。

 ところが――


「きゃあっ!」


 なぜか彼女がバランスを崩した。

 こっちに倒れてきたので、俺はその身体を抱き止める。


「大丈夫か!?」

「は、はい……!」


 俺は彼女の身体をがっちりとキャッチしているのだが――この時、俺はイスに座っており、彼女は立っていた。

その身体がこちらに倒れてきたので、ちょうど俺の顔面に彼女の胸が埋まる形になってしまった。

 柔らかく、温かい感触が顔面から脳天に突き刺さるようだ。


「お、おう……その、本当にサービスしてくれるんだな……演技でも嬉しい……」

「ち、違うの、私演技なんかしてない!」

「え?」


 胸から顔を離し、ウェイトレスの足下を見る。

 すると何故かそこにはバナナの皮が。

 今までは確かになかった。こんな場所にバナナの皮があれば、俺が気づく。


「そういう事もあるのよ。プレイヤーが望むと、誰かがギミックを置いていくの」

「誰がやってんだ、そんなの……?」

「さぁ……国王陛下だと思うんだけど……」


 ヌルハチが直接、手動でやってんのか?

 だとしたら相当な暇人だぞ!


「待てよ、誰かが望めばサービスシーンが生まれるんだとしたら……」


 それってプレイヤーにも適用されるのか?

 特に女性プレイヤーはどうなる?

 JKとアミューさん、大丈夫なのか!?


「悪い、俺行くわ! あと、これお詫びな!」


 俺は味を確かめるために買ったチョコレートをウェイトレスに握らせると、急いで酒場を飛び出した。

 時刻は夜なのに、空はうっすら暗く見える程度だった。

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