第14話 酒場は危険がいっぱい
ヌルハチと別れ、城を出る。
改めてアルチュールに案内されて城下町に出た。
元からあの野郎のツラは長く見ていたいものではないが、その本人が「町を見てくればだいたいの事は分かる」と言うのだ。
このシュマール王国の存在理由――
二大クランと呼ばれるまでに成長するために必要なものがあるのだ。
「まずは皆様、お疲れでしょう。陛下のご命令で宿の手配はしてあります。その前に、お食事でもいかがですか?」
女騎士アルチュールが町を先導する。
石で舗装された道に、レンガ造りの建物。屋根が四角い建物が多いが、教会など意匠を凝らした特殊な建物は瓦の屋根がある。区別するためだろうか。
こうして見ると、ダイアランにいた時の事を思い出す。
モデルにしたっていうくらいだから、そっくりだ。
とはいえ人間が住む家なんだから、あまり奇抜な形にもできないだろうし、大抵の家は似たようなデザインに落ち着くのだろう。
「ハーイ! 私ゲームのご飯食べたいヨ!」
真っ先に手を上げたのはアミューさんだった。
「そういえば夜はいなかったけど、GMもメシ食えんのか? どうやってんだ?」
「私も一応、“繋いで”いるんだヨ。GM専用のスペシャルな奴だヨ!」
俺達は脳を直接マシンに接続している。
そのため食べ物の味や匂いも分かる。
水を飲めば水の味がするし、屁をこけば臭い。
ただし死臭や腐敗臭など、刺激的な匂いは意図的に抑えられているふしがある。
サバイバルにおいては重要な匂いなのだが、これはゲームだ。
ユーザーが気持ち良くプレイするために不必要な情報はいらないって事か。
「私GMだからネ、味もちゃんとテストしたんだヨ! ダイアランやディルアランの料理の味、再現できてるはずだヨ!」
「ちゃんと再現できてるから、そんなに楽しみなのか」
「コック次第だけどネ!」
NPCならともかく、意図的にゲテモノ料理を作る奴もいるって事か。
食べ物を再現できるとしたら、色々な料理を作るプレイヤーもいそうだしな。
「……考えてみればJKもアミューさんも、二人ともチート能力者なんだよな」
俺だけが凡人だった。
そんな二人に囲まれて、何をやっているんだか俺は。
「どうぞ、こちらです」
そんな俺達の会話を聞きつつ、アルチュールが案内した一軒の酒場。
両開きの扉に、大量に置かれた酒樽。それからジョッキの描かれた看板。
うん、どう見ても酒場だ。
とりあえず、何かハラに入れるか――
「ちーっす」
そう考えながら店内に入った途端、空気が変わった。
店の外にまで聞こえてきた喧噪が一瞬で止まったのだ。
まるでスピーカーのボリュームをゼロにしたように静まりかえる店内。
「な、なに……? あたし達、何かした……?」
俺の服にしがみつくJK。
「JK、アミューさんから離れるな。アミューさん、先に俺が行く」
「分かったヨ」
不穏な空気を感じ取ったアミューさんは、JKの前に立って周囲を警戒。
GMだから万が一の事があっても大丈夫だろう――っていうか、仮に問題が起きたとしてGMに助けてもらっていいのか?
アルチュールは――店の外に立っている。
そして、俺をじっと見ている。
……そういう事かよ。
この女騎士、俺を試そうとしてやがる。
「邪魔するぞ」
俺は静かな酒場に入り、四人がけの席を探す。
いくつか空いている席の中で、俺は店の中央に近い場所に陣取る。
イスに座った瞬間、来た。
「おい兄ちゃん。何しに来たんだ?」
革のジャケットを来た、冒険者っぽい男。
プレイヤーか……? いや、NPCかもしれない。
少なくとも弱くはない。
俺には鑑定眼のスキルがないからコイツの詳しいステータスが良く分からないが、少なくともレベル二〇以上はある。
「あ? メシ食いに来たんだよ」
「メシだってよ! ギャハハハハハ!」
「ハハハハハ!」
「おもしれー奴だ、アハハハハ……ハッ!」
男が笑うと、周りも釣られて笑う。
「何がおかしいんだ?」
「ここはお前みてーな雑魚の場所じゃねーんだ。メシ食いたかったら他へ行け」
「お前にそう言う権利があるのか? ここの店主なのか?」
「んなもんどーだっていいだろ? あ?」
ガンを飛ばしてくるジャケットの男。
明らかにケンカを売っている。
というか、俺がどう反応するのか待っているようにすら見える。
けど――
「悪い、ちょっといいか」
「あぁ!? シカトすんのかテメェ!」
さらに凄む男。
手から巨大なククリナイフを召喚し、俺の喉元に突きつける。
「この俺様を無視しようたぁいい度胸だ。ブッ殺してやる。その次はそこの女どもだ。さんざん嬲ったあげくに首を――」
「いや、今それどころじゃないんだ」
「あ?」
俺は男の後ろ、テーブル席にいる集団のひとりを指さす。
「おい、そこのお前。大丈夫か?」
「あぁ!?」
四人がけテーブルの一番奥に座っている、ゴツイ戦士。
体育教師みたいな赤いジャージっぽいジャケットの上に革鎧を着ているが――
さっきから瞬きの数が異様に多く、顔が青ざめている。
「お前、腹痛いんじゃないのか? 汗すごいぞ?」
「んなの、テメーに関係……関係……! ぐっ……!」
顔を引きつらせて呻く戦士。
「おいしっかりしろ! ほらお前ら全員何やってんだ! 治癒魔法とかあるだろ!」
「あ、ああ……!」
俺が促すと、すぐに周りの席の連中が立ち上がり、腹痛の戦士の面倒を見る。
治癒魔法や薬草が飛び交い、床に寝かされた戦士を看病し始めた。
後で聞いた所によると、この戦士はここに来る前に釣った魚を草で包んで焼いたものを食べたそうだ。その草が毒草か何かだったのだろう。
「いやー、手遅れになる前で良かった」
「お、おぉ……その……」
最初に因縁を付けた男は、ずっと俺を見て何か言いたそうにしている。
まぁ、あんだけ恫喝しておいて、今さらって感じだよな。
「大変だなお前らも。いちいち最初の客に対して“演技”しなけりゃならないんだから」
「アンタ……知ってたのか!?」
「知ってたっつーか、分かるわ。だって腹が痛いのにわざわざ酒場でメシ食って、俺に対して笑ったり凄んだりして……無理してるに決まってるだろ」
「その……すいません……俺達、そういう仕事なもんで……」
頭を下げる男。
「え、何、どういう事なの? あの人、大丈夫なの? せんせーが何かしたの?」
入口で見守っていたJK達も入店してくる。
「何かするっつーか、何かさせたかったみたいなんだ、コイツら」
最初とは打って変わってペコペコ謝る男の肩を抱く。
「すいません……この酒場のしきたりで。酒場に来た人に因縁をつけて、やられる役なんです、俺達」
「わざとやられるんですか!?」
驚くJK。
「はい、俺はそうです。それで、今治療されているアイツは、やられた俺を見て驚く役なんです。その隣が技の解説をする役で、後ろに控えているのが拍手をする係です」
「え……つまり、段取りが決まってるんですか?」
「因縁をつけた俺を、いかに華麗に倒すかっていう演技でして……」
ヌルハチが言っていた細工ってのは、そういう事か。
本来、俺がこの男をブッとばす予定だった。
それもラノベ主人公的に、華麗に鮮やかに。
周囲に実力を示し、「な、なんだ今の技は!?」と主人公を賞賛する。
ここはそういう酒場なんだ。
「ラノベ主人公を持て囃すための役者――それがこの町の住人なのか」
「ご明察です」
店の入口に立つアルチュールが、無表情で頷いた。
「……いえ、これは演技ではなく本心からの言葉ですよ?」
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