第11話 壁の向こうにあるものは

「シュマール王国?」


 それがこのゲームの二大クランのひとつの名らしい。

 つまり俺達がこれから向かおうとしている場所だ。


「はい。プレイヤーの皆様なら歓迎してくれるはずです」

「まぁ、別に戦いに来たわけじゃないしな。取材のためだから」

「ええ……そうである事を願います」


 動くジャガイモの上で所在なさそうにしている騎士アルチュール。

 彼女はいつも馬に乗っているらしく、こういう召喚獣に乗った事がないそうだ。

 ちなみにこのゲームでは馬などの乗り物もスキルで呼び出せる。ドラゴンなどのファンタジー的なものもあれば、バイクや自動車のような近代的な乗り物も存在するそうだ。


「で、あんたはそこで働いてるわけか」

「はい。私だけではありません。この地方に住んでいるほとんどのNPCが“王国”にお仕えしております」

「それはスキルで?」

「ええ、そうです」


 スキルの一覧を見ると「交渉」というスキルがある。

 他にも「魅了」や「調停」など、会話に関するスキルは多々見受けられる。

 こういうスキルを駆使してNPCを操っているのだろう。

 ……まさかプレイヤーには効かないよな?


「じゃあ、“王国”はあんたらを支配してるのか?」

「支配といっても、理不尽な扱いは受けておりません。むしろ魔物から守ってくれるので助かっているのです」

「健全な支配ってところか。けどスキルで操っているわけだから、健全でもないか」

「NPCは“王国”にとって必要な存在ですので、無下に扱う事もありません」

「労働力って事か? けど、ゲームのプレイヤーにそんなの必要あるのか?」

「労働は労働ですが……“王国”のNPCには重要な役割があるのです。それは“王国”の住民を褒め称える事です」

「……それ、さっきも言ってたな」


 大げさに驚いて褒めそやさないと“王国”の住人は不機嫌になるという。

 太鼓持ちって事か?

 いや、それとはまた違うな……努力に対する報酬が承認欲求の充足なのか。

 褒められるために行動する。それが“王国”の原動力なのか。

 なるほど、“王国”の性質が読めてきたぞ。


「あんたも褒める係なのか? ただの村人って感じじゃなさそうだけど」

「……私は“王国”に仕える騎士てす。ある程度の実力を持った人間が認める事によって彼らの承認欲求がさらに満たされるそうです」

「なるほどねぇ」


 それにしてもこのアルチュールという騎士。

 結んだ金髪に、青い服。広がったスカート。

 これまた良く見る騎士だな。


「あんた、前に取材された事ないか?」

「取材……ですか? さぁ、特には……あの、そんなに珍しいですか、私?」

「珍しいっつーか、よく見かけるっつーか……」


 色々な作品でこういう女騎士は見てきたからな。

 勇者と同じで、彼女が原典じゃないかと思ったんだが……。


「これはネ、ダイアランの女性騎士の正装に似てるネ」

「あ、やっぱり異世界に元ネタあったんだ!」


 アミューさんの補足で合点がいった。

 このゲームはアミューさんの世界をモデルにしてたんだっけ。

 そうか、あっちの女騎士はみんなそーゆー格好なのか……。


「あの、アルチュールさん! 質問なんですけど!」


 JKが手を上げる。


「スキルで操られるって、どんな感じなんですか? 気持ち悪いんですか?」

「それは……なんとも言えません」


 複雑な表情のアルチュール。

 もしかして操られると気持ちいいんだろうか。


「あ……じゃあ、操られている感覚って分かります?」

「それは分かると思うヨ」

「アミューさん、知ってるの?」

「スキルを人に使うと、エフェクトが出るんだヨ。コッソリ使うのは無理だヨ」

「へー、じゃあ不意打ちとかはできないんだね」

「姿を消すスキルとかはあるケド、消えた状態で魔法使ったらバレるヨ」


 てことは、知らないうちに洗脳されるって事はないわけか。

 考えてみたら恐ろしいスキルだな。

 いやしかし洗脳とは行かなくても、睡眠とかマヒも充分ヤバいよな。


「アルチュールさん、“王国”のリーダーはそういう洗脳スキルが得意なのか?」

「いえ、あの、皆さん勘違いなさっているようですが、国王陛下はNPCを洗脳して私物化しているわけではないのです。あくまで王国で役割を果たすためです。ほとんどのNPCは安全と賃金と引き替えに働いているんですよ」

「強制しているわけじゃないのか。じゃあ、何が得意なんだ」

「それは、アレです」


 アルチュールが指し示すのは、目の前にそびえ立つ城壁。

 視界が全て、それで染まっている。

 世界の果てのような、高く分厚い壁。


「この壁は、国王陛下がひとりでお作りになったのです」


 どれだけの労力と時間を割いたのだろうか。

 そんな事を考えつつ、俺達はシュマール王国への扉をくぐった。

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