第10話 若きベテラン
「行くぞっ! “カロリック・ドミネーション”!!」
「これで終わりだぁっ! “TYPE:ENDE”!」
トラックほどの大きさのキメラが、瞬く間に解体されてゆく。
向こうから誰かが走ってくるなー、って思った次の瞬間にはこれだ。
派手なエフェクトがキメラの身体に突き刺さり、バシバシと音を立てている。
ダメージエフェクトは見えないが、この明滅する光だけでどれほど強い技なのかなんとなく感じ取る事はできた。
「グォォォォォォォォォッ!」
獅子の顔が少しだけ苦しそうな顔をすると、すぐにキメラは消滅した。
光のエフェクトに包まれて、パッとその場からいなくなる。
血の匂いもしないし、内臓がその場に残ったりもしない。
これがこの世界の生き物の死だ。
死体をバクテリアが食べて分解する必要がないから、楽な星である。
「はぁー……強いねぇ」
「あの人達、レベル八〇超えてるネー」
遠巻きに見ているJKとアミューさん。
俺達のレベルは一のままだから、実質八〇倍強いわけだな。
その八〇倍強い奴ら――どうやら三人組は、こちらを見るとすぐに駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!?」
男が二人に、女がひとり。
先頭に立っているのは若い青年。JKよりは年上だ。
ジャージのような服に革の鎧を着込んでいる若者。茶髪の平凡な顔立ち。
もうひとりの男はライダースーツのようなものに身を包んでいる。
「お二方、さすがです。ますます剣の腕が冴え渡っていますね」
最後の女性は金髪で、青い洋服に青いフレアスカート。その上に銀の鎧を身につけており、どこからどう見ても女騎士といった外見だった。
「おう、助けてくれてありがとな!」
俺はジャガイモから降りて礼を言う。
あのままキメラと戦っていたらどうなったのか分からない。
三人の若者に気さくに感謝の言葉を述べたのだが――
「あの……大丈夫ですか?」
「え? だから、ありがとな」
「いえ、そうじゃなくて、ほら」
手のひらを上に向けて何かを要求するようなジェスチャー。
こっちに来い、という事か?
なんでオーライオーライの動きをしているんだろう?
「……???」
「???」
お互いに首をかしげる俺達。
「あ、もしかしてあなた達、プレイヤーですか!?」
「そうだけど……」
「すみません、失礼しました! レベル一だからてっきりNPCかと! 見たところ作家さんか何かかとお見受けしますが……?」
「一応ラノベ作家だよ」
そう言って俺は名刺を差し出す。
向こうも名刺を渡してきたので、名前を見る。
「うわわわ、本当にすみません! まさかこんなベテラン作家さんだとは!」
「いや、そんなに恐縮するほどベテランってわけじゃないぞ?」
「あの、どうしてこちらに? “王国”に入りに来たんですか?」
「とてもすごい作家がいるって聞いてたから、どんなもんかと思って取材に来たんだ」
「すごい作家……そうですよねそうですよね! それならリーダーも歓迎してくれますよ! ぜひいらしてください!」
そう言って若者は城壁の方角を見る。
歓迎してくれているようだが――すまない、俺は君の事を知らない。
名刺を見ても漢字二文字の何て読むのか分からない名前だった。代表作も知らない。
申し訳ないと思いつつ、そこは愛想笑いでごまかす。
「では我々はリーダーにその事を伝えてきます! 道中の案内は彼女にさせますので!」
若者が示したのは、金髪の女騎士。
「おい、この人達を城まで案内しろよ」
「……かしこまりました」
横柄に命令された騎士は、従順に一礼する。
それを見て頷くと、男の若者二人はこちらに向かって会釈した。
「それではお待ちしています! また!」
手を振ると、彼らは高速で走り去っていく。
まるでバイクのようなスピードで走るのはスキルのせいかレベルのせいか。
「なんか凄腕プレイヤーって感じだね」
「若い作家なのかあいつら。このゲームに馴染んでたな」
装備も態度もベテランプレイヤーという感じだったが、こちらがプレイヤーだと分かると途端に紳士的になったな。
MMOでも大半の人間がそうだ。
相手が生身の人間だと分かると、礼節を保つ。
画面の向こうに生きた人間がいると分かっているから。
たまーにそれが分からない馬鹿が問題を起こしたりするわけだが。
「それでは参りましょう。ついてきてください」
我々の動くジャガイモの前に立って歩き出す女騎士。
――では、横柄な態度を取られた彼女は?
「あの、あなたは……?」
「私は“王国”の住民です。あなたがたのために働くのが使命です」
NPCなのか。
彼女のステータスは――レベル四〇。
名前はアルチュール。
いかにも王国を守る騎士といった風貌だが。
「命令された以上、皆様の安全を約束しましょう」
「あ、ありがとう」
こっちには有能なガイドがいるとは、今さら言えない。
振り向くと、アミューさんはニコニコしている。
どう思っているのか、なんだか訊きづらいぞ。
「あ、そうだ。アルチュールさん、ちょっと教えて欲しいんだけど」
「私に答えられる事でしたら」
「さっきの兄ちゃん達。俺に何か要求してたみたいだけど、何なんだ?」
まさか金を払えって事ではないだろう。
高レベルプレイヤーが金をたかる必要なんてないはずだ。
「――その、“王国”では決まりがありまして」
「決まり?」
騎士アルチュールは頷くと、困ったような顔をしてこう答えた。
「勇者様が活躍した時には、大げさに驚愕し、褒めてあげないといけないのです」
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