第4話 チートはほどほどに
スライムがあらわれた!
緑色のゲル状の生き物――ドロッとしているくせに表面は硬い。
そしてその硬い表面を生かしたボディを狙うタックルはめちゃくちゃ痛い。
なんで知ってるかって?
実際に喰らったからだよ!
「よしJK、お前の実力を見せる時が来た。あのスライム程度なら楽勝だろ」
「だったらせんせーが行きなよ!」
問答する俺達の前で、スライムはぶよぶよと揺れている。
異世界で見た本物のスライムとは違い、こちらから攻撃しない限り襲ってくる事はないようだ。
パッシブ属性とかアクティブ属性とかもあるのだろうか。MMOだし。
「さぁ、チュートリアルバトルだヨ! 倒さないと進めないヨ!」
アミューさんは後ろで応援してくれている。
その黄色い声援はとってもありがたいんだが……。
このゲームを作る時にアドバイザーになったって言ってたよな。てことはあのスライムも異世界の時に戦ったアレと同じ性質と考えていいんだろう。
「なぁアミューさん、武器とかないのか? 最近のゲームって、初期装備くらいもらえるはずだろ?」
「あ、センセーちゃんと見てなかったネ! 武器もスキルのウチなんだヨ!」
「なんだと……?」
慌ててスキル一覧を見る。
本当だ、スキルの中に「剣召喚レベル1」とか「槍召喚レベル1」とかある。中には「素手攻撃力アップ」なんてのもあるが、これも武器の一部と考えていいのか。
そうか、ゲームではあまり重要視されていないが、実際に武器を携帯し続けるってのは非常にジャマなんだ。
異世界でも勇者が持っていた聖剣は木の枝みたいに軽かったが、剣も鎧も着けて歩くとなると、実際は自衛隊の装備くらい重い。15キロ弱だったかな。
だから戦闘の時だけ武器を呼び出せるシステムなのか。
「拳でスライムを殴った痛みはもう取材した。次からは武器で行くぞ!」
俺はスキル一覧から武器召喚を選ぶ。
うーん、剣、弓、槍、斧……銃なんてのもあるのか。
どれを選ぶか悩ましい所だが――ここはひとつ、コレでいってみよう。
俺は持っていたスキルポイントを1使い、初期スキルを習得する。
「よしっ、スキル習得! いくぜぇっ!」
手のひらを上に向けると、炎の玉が浮かび上がる。
出た出た、これが魔法って奴だ!
武器も良かったが、やっぱりRPGっつったら魔法だろ!
「オラァァァァァッ! くらえっ、スーパーファイアーボール!」
大きく振りかぶると、俺は火の玉をスライムに投げつける。
火柱が上がり、スライムの身体がドロドロに溶けていき――そしてフッと消えた。
頭の中のメニュー画面に、経験値が入った事を知らせるアナウンスが。
レベルアップは……まだしないか。
「おー、やるじゃんせんせー! 魔法使いだ!」
「カッコイイよ、センセ!」
「おう、もっと褒めろ褒めろ!」
やはりこれからの時代は魔法だ。
作家たるもの魔法くらい使えなくてはいけない。
よーし、俺は魔法使いとして生きるぞ!
これからもっともっと色んな魔法を習得して、チート魔術師と呼ばれるんだ!
「じゃあ次はJKの番だネ!」
「えっ、あたしも戦わなきゃいけないの!?」
「チュートリアルだからネ」
言うが早いか、JKの前にスライムが出現する。
さっきと同じ個体だ。新規プレイヤーに反応して出てくる仕組みなのだろうか。
「んー、あたしもスキル覚えないとなぁ……うーん」
「JKはどんなスキルを取るんだ?」
「それがまだ決められなくて……どうしよっかなぁ……あ、そうだ」
JKは手のひらを上に向ける。
すると彼女の手にも炎の玉が浮かび上がったではないか。
「そぉ~れっ、と!」
辿々しいフォームでファイアーボールを投げつけるJK。
俺がやった時と同じようにスライムが炎上して、そして消滅する。
「やった! 倒せた!」
「ナイスJK! チュートリアル終了だヨ!」
ガッツポーズをするJKとアミューさん。
これで全員、ようやく第一歩を踏み出せるってわけだ。
「それにしてもJK、なんで俺と同じスキル取ったんだ? 近接武器とかにすれば、役割分担とかできるだろう。それに取材としても、なんつーか面白みっつーか」
「ああ、これ? あたしスキルまだ習得してないよ?」
「ん?」
「今の炎の玉、せんせーがやってたのを真似したんだよ」
「はぁ!?」
そうだった!
コイツ、異世界に転生した時に「一度見た魔法はなんでもコピーできる能力」を手に入れてたんだよ!
それってVRMMOにも適用されんのか!
「だって、あれは現実の話じゃないのかよ! なんでゲームの中なのに!?」
「脳と直接繋いでるせいかもネー。JKラッキーだったネ」
あっさりと済ませるアミューさん。
いいのかよ、それで!
だってこれ――
「完全なチート能力じゃねぇかっ!」
数々のラノベ主人公が欲しがっていた力が、今こうしてあっさり生まれてしまう。
てことは、俺が苦労して習得したスキルも、アイツはポイントなしで簡単に覚える事ができるってわけだ。しかも俺だけじゃなく、他人のスキルまで……。
「JK、お前メインタンクでメインアタッカーでメインヒーラーな」
「なんでよ!?」
「当たり前だろうがこのチート野郎!」
チュートリアルが終わったというのに、俺たちはいまだに一歩を踏み出せずにいた。
結局、最初の町に辿り着くまでずっと言い争う事になったのである。
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