第3話 説明書を読むタイプ
作家なんだからポンポン書けるものが浮かんでくるはずだろう?
異世界みたいなゲームに入り込んで何が不満なんだ?
そうは言うがな、いざここで小説を書けって言われてもけっこう困るぞ。
ここで適当に取材して、自宅でゆっくり作品に仕上げるつもりだったんだ。
なのに取材先で小説を書けという。
「編集の無茶ブリもここまで来たか……」
「それだけ期待されてるんだよ、せんせー。あたしなんて、アリマさんから何も言われてないよ?」
「そりゃお前は黙ってても小説がポンポン出てくるからだ。現に今、もうアイデア湧いてるだろ?」
「うん。もともと異世界ものでデビューしたから、次は二巻の構想に入ってるんだ。だからここで経験する全てを二巻に生かすよ」
やる気を見せるJK。
彼女の書いたラノベは、新人にしては珍しいほど売れているそうだ。
とはいえブームを起こせるほどでもない、という不安定な位置。
ならば二巻目で盤石な立場を築かせるべきだろう。
ラノベ作家は、まず一巻目が売れなければならない。
これはもうどうしようもないほど困難な壁になった。
俺もここでつまずいている。
打開策は、分からない。
それは作家も編集も、読者ですらあーだこーだ言い合うくらいに先が見えない。
ところが一巻が売れたら、次は二巻を売らなくてはならない。
壁の先に、また壁。
しかも前の壁と登り方が違うという面倒さ。
俺とJKは、今は違う壁と向き合っているのだ。
「ま、書きたいものにはいずれ出会うだろう。そのための取材だしな。面白い奴がいたら、そいつ主人公にするのもアリだし」
「それじゃ、ゲーム再開だネ!」
俺達の会話を聞いていたアミューさんが背中を押す。
「そうだな、いつまでもチュートリアルの町で止まってちゃダメだ。さっさとゲームを始めようぜ」
「へ? 何言ってるノ、センセ?」
「ん?」
「まだチュートリアル終わってないヨ! 私はガイドだからネ! ちゃんと導くおシゴトするヨ!」
「え! まだ終わってないのか!? だって操作は理解したぞ!?」
このゲームは操作もクソもなく、自分がそのまま動いてプレイする。
脳に繫いでるんだから、そうじゃなくては困る。
メニュー画面の使い方も分かった。これは考えるだけで動かせる。
あとは……?
「バトルとスキルの説明があるんだヨ」
「スキル! ああ、そうか!」
異世界ファンタジーにつきもののヤツ来た!
あれだろ、主人公がチートスキルで無双する奴だ!
そのくらい俺でも知ってる。
「こうしてスキル一覧を見てみると――割と普通だな。力アップとか炎の魔法とか」
「そりゃチートスキルが一覧にあるわけないじゃん」
「そもそもチートってどうやるんだよ。ツールでも使うのか?」
チート――データを改ざんする違法行為。
ステータスの改変や、位置情報の変更、それ以外にも様々なズルができる。というかどんなズルでもできる。
それ故に、そのくらい強力なプレイヤーを指してチートと呼ぶ事もある。
まぁ、こっちは完全に負け惜しみなわけだが……。
「チートはダメだヨ!」
アミューさんが手でバッテンを作って叫ぶ。
「チートしたらバンだよ、バン! 消えちゃうヨ!」
BANとは弾く、つまりそのサービスを使えなくされる行為。
アカウント利用停止されたプレイヤーは、運営のお許しが出るまで、あるいは永遠にそのサービスを受けられなくなる。
この世界でのBANって、どういう意味なんだろう?
穏便にゲームから出られるってわけじゃないよな。
消えるって事は、つまり本当の死刑って事か……?
「いきなりチートはやめとくか。ていうかチートのやり方なんて知らないし」
「そだね。とりあえず普通のスキルから取ればいいのかな」
俺もJKも少し震えながらスキル一覧を見る。
どうやら個人にはスキルポイントというものが存在し、それを使用してスキルを取得するシステムらしい。わりとどこのゲームでも見るやり方だ。
となると、スキルの振り方が勝敗を分ける事になるが……。
「ねーアミューさん。スキルって今すぐに振らなくても平気?」
「平気だヨ! いっぱい溜めてからジャーンと使うのもアリだヨ!」
ふむ、ならこのゲームの事をもう少し知るまで保留にしておくか。
遊んでいるうちに欲しいスキルが出てくるかもしれないしな。
「よし、じゃあ次は戦闘だ。MMOっていったら戦闘が面白さのキモだろ」
「戦いかぁ……あたしにもできるかな?」
「やり方はレクチャーするヨ! 大丈夫、最初は弱い敵だカラ!」
弱い敵……それを聞いて、俺は嫌な予感がした。
なんかそういう経験、前にもした気がするんだよなぁ……。
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