第2話 会いたかった!


 青い空、白い雲。

 立ち並ぶ中世ヨーロッパ風の建物。

 自在に動く俺の身体、そして目の前でキョロキョロしているJKの笑顔。

 どれをとっても現実にしか感じられない。

 メニュー画面もすでに見慣れてしまった。現実世界の中に仮想現実を生み出すMRMixed Realityという技術があるが、それに近いものを感じる。


「せんせー、まだボーッとしてんの? いい加減動こうよ」

「そうは言ってもな、ちゃんとゲームのシステムを理解しないとダメだろ」

「そんなの身体で覚えればいいじゃん」


 確かにJKの言う通りかもしれない。

 実際に行動してみて、現実との齟齬を感じるべきだ。その上でライトノベル執筆のネタにすればいい。

 ここはもうすでに取材先なのだ。


「にしても……クソッ、やっぱり腹が立つ。なんだよラノベ一本書くまで出られないって。下手すりゃ一生出られない作家もいるだろ」

「えっ、そうなの? なんで?」

「なんでって……そりゃ、書けない奴もいるだろ」

「だってこのゲームに入ってるの、みんなプロのラノベ作家なんでしょ? プロのラノベ作家なら、一本くらい余裕で書けるっしょ」

「……お、おう、そうだな」


 若いっていいなチクショウ!

 なんの疑いもなく書けるとか抜かしやがる。

 だが、それでいい。JKのような才能があるラノベ作家は、その才能をフルに生かしてラノベを書き続けるべきだ。

 だが俺のような才能のない作家はそうじゃない。足掻いて、足掻きまくる。

 このVRゲームの世界を体験しようと思ったのも、そういう理由があったからだ。


「よし、俺も少しやる気出てきた。取材すっか」

「おっ、いつものせんせーに戻ったね」


 そうだ、こんな所で立ち止まっている場合じゃない。

 俺はこの場に取材に来たんだ。

 ――と、ここまで進んで、また立ち止まる。


「さて、ラノベを書くために何を取材しようか」


 問題はそこだ。

 前回は異世界モノを書くという目的があったから異世界に取材旅行に行った。

 だが今回は違う。編集によってムリヤリ放り込まれた世界だ。


「VRMMOモノを書けって事じゃないの? アリマさん、そういうシリーズ担当してたよね? だからあたし達も連れてこられたと思ってたよ」

「うーん、それもいいんだが……ありきたなVRMMOモノ書いても仕方がない。別にMMOモノを書かなくたっていいわけだ」

「ま、それもそうか。取材を生かせばいいわけだし」


 そう、今回はかなり自由が効く。

 言ってしまえば「何を書いてもOK」という状況。

 真っ白い紙を渡されたようなものだ。


「せんせーは、次どんなの書こうとしてたの?」

「俺か? 俺はロボットと人間の熱い友情と恋愛のバトルものをだな」

「うわっ、売れなさそー……」

「うるせぇな! 書くのは自由だろうが!」


 しかしここは異世界風のゲームだ。ロボットものの取材はできそうにない。

 ならば他のものを取材するべきだが――


「こうしてみると、自由すぎて困るな」

「そだね。チュートリアルが終わったら、いきなり放り出されたもんね」

「普通のゲームだったら、もう少しメインストーリーの導線が出るもんだぞ。クエストやったり、ガイドに案内してもらったり」

「あー、ガイドさんかー」


 ガイドという単語を口にして思い出す。

 前回は頼もしいガイドがいたんだ。


「アミューさん、元気にしてっかな」


 褐色ネコミミの、笑顔が素敵な異世界ガイド。

 強くて頼もしくて、でも優しくて――

 こちらの世界のガイドも初めたおかげで、会う機会は増えた。

 けど、今は閉じ込められているからなぁ。


「なにセンセー、アミューさんがいなくて寂しい?」

「……なんだよJK、イヤミったらしく言いやがって」

「べーつーにー」


 少し不機嫌そうなJK。

 なんだよ、お前もアミューさんの事好きだろうが。


「けど、アミューさんみたいな現地ガイドがいれば助かるんだけどな」

「ま、それはそうだね。アミューさん頼りになるし」

「おーい、アミューさーん! 助けておくれー!」


 叫んでみるが、空しいだけだ。

 神殿の外には俺達以外、誰もいない。チュートリアル用の町は必要最低限の機能しかないようで、他のプレイヤーの姿も見当たらない。

 と思ったのに――


「呼んダ?」


 そこにアミューさんが、いた。

 俺達の目の前に、いきなり瞬間移動で姿を現わしたのだ。


「え、ええええええっ!?」


 いつもの軽装ではなく、こちらの世界の洋服でもない。

 赤く燃えるようなオーラを纏った鎧を身につけているではないか。


「な、ええ、アミューさん!?」

「そだヨー」


 この脳天気な喋り方――間違いない、本人だ。


「なんで? ていうか、さっきまでいなかったよな?」

「ふふーん、その通りだヨ! ワープして来たノ!」

「ど、どういう事?」


 俺もJKもポカーンと口を開けるしかない。

 一体何が起きているのだ。


「私、KADOKAWAのガイドだからね! 今回は異世界風ゲームのガイドをする事になったんだヨ! ジーエムって奴だヨ! 角川ゲームスからおカネもらってるヨ!」

「ジーエム……GMゲームマスターか!」


 GMとはオンラインゲーム中のトラブルを解決するスタッフの事である。

 一般的には悪質なプレイヤーを裁く者というイメージがあるが、他にもバグによってプレイが困難になった人を助けたり、課金やシステムなど、ゲームのサービス全般のトラブルを解決する仕事である。

 たまにイベントなどで姿を現わし、ユーザーを案内する事もあるが――


「このゲーム、私が住んでたダイアラン大陸をモデルにしてるんだヨ! だから私も色々お手伝いできるんだヨ!」

「あー、見覚えがあると思ったら、それか!」


 なるほど、実際の異世界をモデルにしたゲームか。

 実在の世界を舞台にすれば、設定とかも破綻しないだろうし、自然や生態系も描きやすいだろう。ライトノベル以外にも異世界での経験が役立つ事ってあるんだなぁ。


「で、アミューさんはこっちの世界でもガイドなわけか」

「ウン! お給料イイんだヨー」


 どこに行ってもアミューさんはガイドとしての仕事をまっとうしている。

 なんだか安心した。


「じゃあアミューさん、さっそく俺達を案内してくれよ。新しい世界をな!」

「オッケー任せて! センセーとJK、また三人で旅ができるネ!」

「ああ!」

「そうだね!」


 アミューさんは俺とJKの間に入り、肩を組む。

 JKだけでもアミューさんだけでもダメだ。

 やっぱりこの三人が揃って、初めて安心できるんだよな。


「よーし、いつものメンツで、いつもと違う取材をするぞっ!」

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