第5話 ここは最初の町だよ!

 なんだかんだあったが、町に辿り着く事ができた。

 チュートリアルエリアから歩いて一時間。

 街道をまっすぐ歩くと、そこには城壁に囲まれた町が。

 城壁といっても、それほど高くない。前に取材に行った城下町は十メートル以上の壁に守られていたのだが、システムで守られているゲーム内の町は景観が大事なのだろう。


 城門の前まで行くと、門番が立っている。

 白い軽鎧と顔まですっぽりと覆った兜。そしてまっすぐ天に伸びる槍。

 どっからどう見ても門番だ。


「あのネ、この鎧を着ている人はみんなNPCなんだヨ」


 アミューさんが説明してくれる。

 NPCとはつまりゲーム内の住民だ。機械によって制御された架空の人間。

MMORPGにおいては割と重要な位置づけである。クエストの受注やアイテムの売買だけでなく、道案内や周辺の情報など、およそゲームに必要な情報を必ずくれる。


「話しかける時は、ニホンゴで『こんにちは』って言って」

「それが会話フラグなのか。どれどれ、こんにちはー」


 鎧で覆われた門番に手を振ると、彼は首だけこちらを向き、


「ここはトスターの町だ! 冒険者よ、門をくぐるが良い!」


 ニカッと笑ってそう言った。

 なるほど、このセリフを言うためだけに存在するNPCなのか。


「こんにちは」

「ここはトスターの町だ! 冒険者よ、門をくぐるが良い!」

「こんにちは」

「ここはトスターの町だ! 冒険」

「こんにちは」

「ここはトスタ」

「遊んでないでいくよせんせー!」

「おおい、待てよ! フラグ管理の取材がだな!」


 俺を置いてさっさと門をくぐってしまうJKとアミューさん。

 急いで後を追うと、そこは――うん、町だ。

 正面の門をくぐるとまっすぐ中央広場に伸びる広い道。

 噴水のある中央広場から、四方八方に道が延びている。道によって区分けされた場所はそれぞれ役割を持っているようだ。買い物エリアだったり、クエスト受注エリアだったり、居住エリアだったり――


 なんでそれらが分かるのかと言うと、町に入った瞬間マップが見えた。

 視界の端にあるメニュー画面から、意識するだけで呼び出せる。

 最近のMMOどころか、RPGですらマップ機能は標準装備だ。

 マップに関するスキルもあるようだが、取得するともっと詳しい状況が分かるようになるかもしれない。取材に来ている身としては、情報は何よりの宝なので選択肢に入れておこう。


「さて、町に来たけど、どうするの?」


 先に入ったくせに、JKが俺に話を投げる。


「俺に訊くのかよ。お前も自由に行動していいんだぞ? 俺みたいなオッサンにいつまでもくっついてても楽しくないだろ」

「そんなことないよ! 別にあたしは、せんせーと一緒だって……」


 言い淀んでから、JKはハッと気づいて言い直す。


「ていうか、危険なのはせんせーの方じゃん! ほっといたらどこで何するか分からないし! あたしは書く題材決まってるけど、せんせーは決まってないんでしょ?」

「ううっ……!」

「あたしもアミューさんも、せんせーの命を守るために付き合ってやってんの! そこんとこちゃんと理解しときなよ!」

「……くぅ、小説の事なら言い返せるんだが、行動の事だと何も言えねぇ」


 そもそもラノベ作家がたったひとりで生きていけるわけないだろうが。

 いい年こいてラノベ書いてるような大人が自立できるわけがないんだ。

 そう、俺は誰かに助けてもらわないと生きていけない!


「ま、せんせーのダメ人間っぷりは置いといても、リーダーは必要でしょ。何かあった時、決定権を持つ人がいた方がいいよ」

「おー、さすがJK。頭良さそうな事言うじゃねーか」

「それこそラノベの受け売りだけどね。ほら、主人公がリーダーになる時、だいたいこんな感じで決まるでしょ?」

「確かに」


 決定権は重要だ。

 例えば作家と編集の関係。

 最終的な決定権は編集者、さらに編集長にあるので、どれだけ作家が無理を言っても編集側がノーと言ったら覆る事はない。

 だからこそ互いが納得できるまで殴り合い、斬り合い、撃ち合いながら意見をすり合わせていくのだ。


「私はガイドでGMだから、ついていくだけだヨ! GMが決定しちゃダメだカラ!」

「アミューさんはいつも通りだな。助けが必要になったら頼むぜ」

「任せテ! リーダーがセンセーで、私がガイドで、JKが一番槍!」

「指令と参謀と戦闘員か。そう考えるとバランスのいいパーティじゃねーの?」

「それ、あたしの労働力だけおかしい事にならない?」

「お前はチートスキル持ってるから特別だ。スタミナアップのスキルとか覚えてみたらどうだ?」

「あー……そうか、疲れないスキルとかもあるかもしれないんだね」


 指を鳴らすJK。

 どうやら彼女の中で、何か方針が決まったようだ。


「よし決めた。あたし、他のプレイヤーから色んなスキルをパクッてみる。そしたら本当に必要なスキルだけ自前で振れるでしょ?」

「いいねぇ。じゃあ俺はJKじゃどうにもならないスキルだけ取捨選択するか」

「ウーン、なんだか盗賊みたいだネ」


 みたい、というか実際にそうだろう。

 JKはこの世界では一流のスキルハンターになるぞ。

 そのチートスキルを駆使する姿を見て、俺もラノベの参考にさせてもらおう。


「じゃあプレイヤーがいる場所に行ってみようか。アミューさん、他のプレイヤーが集まる場所とか分かるか?」

「歓楽街だネ! 案内するヨ!」


 軽快に歩き出すアミューさん。

 ステップに合わせて揺れる尻を追いかけながら、俺達は町中を歩き出す。


「ところでアミューさん。このゲーム、他に何人くらいプレイヤーいるんだ? テストだって言ってたから、そんなに多くないだろ」

「そだネー、だいたい一〇〇〇人くらいかナ」

「一〇〇〇……って多くね!?」

「プレイしてるの、ラノベ作家だけじゃないからネ」


 KADOKAWAに縁のあるクリエイターなら誰でもOKって事か。

 つまりここは――KADOKAWAが作り上げた巨大な牢獄。

 プリズンオブ角川、略して“POK”とでも名付けようじゃないか。

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