第27話 再会と再開
なんとか間に合ったぜ。
キノシタの野郎、あんだけ派手にケガしてんのに元気だなー。
「アミューさん、降りるぞ」
「ウン!」
俺は急降下すると、アミューさんを落下の衝撃から守るように抱きかかえながらゆっくりと着地した。
ディルアラン大陸から、自分の力で二時間。
異世界最速の生物という触れ込みは本当だった。
「な……!?」
「えっ、誰? せんせー!?」
キノシタもJKも俺を見て驚いている。
そりゃそうだよな。今の俺の身体はドラゴンなんだ。
二足歩行で立ってはいるが、髪の毛から爪先まで全身化け物だ。鱗がびっしり生えて、手足の爪は鋭く伸びている。顔つきは前より精悍になったかもしれないが、爬虫類独特の青白い表情は不気味に見えただろう。
「アミューさん、どこも痛くないか?」
「平気だヨ。せんせーの後ろだと、すごく快適だったヨ!」
「そっか。ならいいんだ」
今、俺の身体は通常よりも巨大化しているっぽい。
身長二メートル三〇センチくらいかな。さらに筋肉も膨張しており、肌も冷たい色になっているので超人ハルクのような体型だ。
そんな俺の背中に乗って、アミューさんを連れてきた。
いや、俺もびっくりした。
誰かをおんぶした事はあるが、背中に乗せて飛ぶなんて初めてだったから。
しかも全然辛くないんだこれが。
普通、人間が生身で上空を飛んだら死ぬ。
空気抵抗や気圧や温度やらで、人間が耐えられる環境ではない。
ところがドラゴンの身体だと、それを全て無視できる。
俺の身体から発せられる魔力のフィールドが、背中のアミューさんにまで保護してくれたおかげで、まったく痛くも苦しくもなかった。
つまり、ドラゴンが空を飛べる理由は、魔法なのだ。航空力学なんて関係ない。
おそらくこの世界の空気中に漂う魔力も関係しているのだろう。
「あ、あなたは……!? えっ、先生ですか?」
「おう、勇者ミュータス! あんたがキノシタを足止めしてくれたのか! サンキュー! おかげで捕まえる事ができたよ!」
「いやいや、それどころじゃないでしょう! 何ですかその身体は!?」
「ああこれ? ドラゴンになってみた」
「なってみたって、あなた……」
「最近流行ってるんだよ、こっちの世界でも。化け物に転生すんの」
最近じゃ人間が主人公じゃないラノベもちらほら増え始めてきた。
いや、人外主人公のラノベは皆無ってわけじゃないんだが、「売れない」と言われ続けてきたんだ。そういや昔、石像が主人公のラノベなんてあったな。
今の時代は、割となんでもアリだ。
だから俺もなんでもアリの精神でやっていこうと思う。
「そ、そんなドラゴンになって、一体何をしに……?」
「ああ、コイツを連れ戻しにな。それからJKを送り届ける」
俺は顔色の悪いキノシタを指さす。
どこでケガをしたのか、大量に出血している。それを機械のようなモンスターが必死に治療しているようだ。
「てなわけで、悪いな勇者さん。コイツらもらってくから」
「ま、待ってください! そうはいきません!」
「ん?」
「魔王はここで殺します。それが僕の使命ですから」
勇者の持つ剣は、彼の目と同じようにギラギラと光っている。
「そこをなんとか見逃してもらうわけには」
「いきません。あなたがどんな手段を使ってでも小説を書きたいと思うように、僕も魔王を殺すために今まで戦ってきたんです」
職業的な使命と、個人の感情、どちらも捨てられない。
ミュータスの生き甲斐は魔王を殺す事なのだ。
そのために今まで積み重ねてきたものがある。
そりゃそうだよなー。
「そもそもあなたは、どうして魔王をかばうのですか?」
「魔王な、俺の後輩なんだ」
「えっ!?」
「だから先輩として落とし前をつけさせて――」
「そうか……そうだったんですね。あなたもそうなのか」
どうしたんだ勇者は。「少年の日の思い出」のエーミールみたいな事言って。
何事か尋ねようとしたが、その前に俺に剣を向ける。
「つまりあなたも魔王とグルだったんですね」
「いや、違う、俺は関係――いや、関係はあるが、魔王に協力したわけじゃない!」
「だったらその姿はなんです。あなたも人間の姿を捨て、モンスターになるために向こうの大陸に渡ったんじゃないんですか?」
「だから違うっての! これはJKが危ないから――」
するとぐったりしていたはずのキノシタ、いきなり身体を起こし、俺の肩をぽんぽんと叩く。
その笑い方は、明らかに俺をハメようとしていた。
「先輩! 僕を助けに来てくれたんですね! やっぱり魔王軍は先輩がいないとダメなんですよ! 帰ってきてくれてありがとうございます!」
「お前ふざけんなよ! いつ俺が魔王軍になったんだよ!」
「そのドラゴンの姿が何よりの証拠じゃないですか」
「このクズ野郎が!」
俺はキノシタの首を掴んで地面に叩きつける。
が、次の瞬間、俺の翼を剣が掠めた。
勇者の一太刀がすぐそこに迫っていた。俺が反応しなかったら、キノシタごと真っ二つにされていただろう。
「やはりそうだったんだ……君たち全員、僕を騙していたのか!」
「ぜ、全員!? 違う、ハメられたのはせんせーだけだよ!」
「私なんてただのガイドだヨ!」
完全にとばっちりJKとアミューさん。
キノシタの野郎、ちゃっかり全員巻き込みやがったな!
「ならば迷う事はない! このミュータス・ランダー、魔王軍を打ち払い、ダイアラン大陸に平穏をもたらすため、いざ参る!」
「迷えよ! 参るなよ!」
「はぁぁぁあああああっ!」
飛びかかってくる勇者ミュータスに対し、俺にできる事はひとつだけだ。
逃げ――
俺の後ろにJKとアミューさんがいる。
「おおおおおおおおおっ!」
生えたばかりの爪を振りかざし、俺は勇者に突撃する。
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