第11話 迷惑という名の取材
一番最初に勇者が殺したモンスターの死体を調べる――
そういう名目で戦場に飛び出していったものの、意外と死体の数が少ない。
なぜかというと、勇者が殺したモンスターのほとんどが光の粒子になって消滅してしまったからだ。血も皮膚も残さず、まるで最初から存在しなかったかのように。
「うー、血の匂い……」
鼻をつまんでいるJKを尻目に、俺は新鮮な死体を探す。
あるにはあるのだ。
時々、両断された獣の死体が転がっている。
「アミューさん、なんでモンスターの死体が残ったり残らなかったりするんだ?」
「魔王が作ったモンスターは消えるヨ! それと、魔王が改造したモンスターも!」
「じゃあ残ってるのは?」
「もともと野生の動物だったんだネ。魔王軍が飼い慣らしたのカモ」
てことは、モンスターは自然に生まれた生き物じゃないのか。
あくまで魔王の創造物というカテゴリなんだな。
だが野生の動物でも参考になる。
先ほどから異臭を放っている動物の死体だが、なんと脚が八本ある。確か北欧神話の主神オーディンの愛馬スレイプニルが六本脚だったか。
それに隣の動物――というか、これは魚か。エラ呼吸する牛とでも言おうか、魚なのに歩けるようだ。両生類と言っていいのかこれは。
どういう生態系で暮らしているんだ。
どの動物も興味深い。こんなヘンテコな生き物がいる一方、馬や人など、こちらの世界と変わらない生き物もいる。
このあたりの理由を分析できれば、世界設定を作るのに役立ちそうだ。
さらにデキる作家なら、この奇妙な生物を利用してもっと楽しい事をしそうだ。変な生き物の楽園を作ったり、体組織を利用して道具や薬を作ったり。
「せんせー、これ持って帰らないの?」
「検疫がなー……未知のウィルス持ってるかもしれないだろ」
「それあたしたちもヤバくない?」
「不正な手段で入ってきたお前と違って、俺はちゃんと予防接種とか呪い除けとか受けてきてるんだよ」
「そんなのあるの!? あ、あたし大丈夫だよ……ね?」
自分の身体をベタベタと触るJK。
ない胸をいくら触っても、もう手遅れだ。
「何かオカシくなったら言ってネ?」
「ああ、アミューさん、ありがとう。薬とかくれるの?」
「疫病にかかったら、苦しまないようにしてアゲルから!」
「おおおぉ……そういう世界なのね」
肩を落とすJKだが、今のところ平気そうだ。
死んで間もないモンスターからはウィルスも繁殖しないようだ。
できる限り情報を得たいので、とりあえずスマホで写真を撮る。誰かにスマホを見られたらドン引きどころか縁を切られても仕方のないグロ写真が増えていく。
さて、次のモンスターは――
お、いたいた。
今度は鎧を着た二足歩行のカニみたいなモンスターだ。
なぜ二足歩行なのか分かったかと言うと、実際に歩いているからだ。
甲殻に包まれた足を動かして、こちらに歩いてくる。あの鎧っぽい甲殻の中身はどうなってるんだろう。カニミソ詰まってるのかなぁ。
ん?
歩いて――
「ちょっ、せんせー! 近づいてる! 生きてるヤツ!」
「おおおおおおっ!?」
なんでこんな所に生きてるモンスターがいるんだよ!
お前、ほれ、勇者はあっちで戦ってるだろ! そっち行けよ!
カニっぽいモンスターは、その風貌に相応しい巨大なハサミを持っている。
あれで人間をチョキチョキと切り刻むのだろう。
「せんせ! 早くなんとかして!」
「分かったよ! しがみつくな!」
悪いが、戦場に来ている以上、覚悟はしている。
ラノベ作家が面白そうなものに出会った時、逃げるという選択肢は存在しない。
あのカニをブッ倒して、バトル描写の糧にしてやる。
俺はホルスターから拳銃を取り出すと、躊躇せずに発砲する。
弾丸はカニの胸部装甲に当たり――
カン、と音を立ててどこかへ飛んで行った。
「……あれ?」
「効いてないじゃんピストル!」
「やっべぇっ、逃げるぞ!」
俺はJKの手を引き、アミューさんに逃げるよう促す。
ダッシュで逃げようと走り出した瞬間、カニの身体が光った。
カニの背後から、誰かが光を照射している。
レーザーのような光の棒がカニの背中に吸い込まれ、そして溜め込まれた光がチカチカと点滅している。まるで何かを警告しているように。
次の瞬間、カニの身体が爆発した。
爆発といっても、その身体の全てが光になって消滅していくので、破片はない。
「大丈夫ですか!?」
ミュータスだった。
この勇者、さっきまで二キロほど離れた場所でモンスター斬りまくってただろ。
なんで俺たちの出現に気づけるんだ?
「ていうか、何やってんですかあなた方は!? 今どういう時だか分かってるんですか!? 僕はモンスターと戦ってるんです! 邪魔をしないでください!」
「は、はい、すいません……」
「ごめんなさい……」
俺もJKも深々と頭を下げた。
拳銃が効かない敵をところてんのように斬りまくれる勇者が相手なら、俺たちが何をやっても邪魔だろう。本当に申し訳ない事をした。
「センセー、帰るよ! これ以上は危ないヨ!」
アミューさんはさっさと帰ろうとしている。
彼女にも迷惑をかけてしまった。
「そうだな。仕方ない、行こうぜJK」
「行くって、どこへ?」
「ミュータスの邪魔しちゃ悪いだろう」
「うん」
「だから邪魔にならずに取材できる場所を探そう」
ラノベ作家に逃げるという選択肢は存在しないんだよ。
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