第12話 君はいつだって隣に

 私の名はベルゲル。

 ダーケスティア国、東方侵攻部隊第二師団の長である。

 今日こそは我が軍に仇なす勇者を単独で倒すべく、海を渡ってダイアラン大陸までやってきた。

 たったひとりの人間に、我が軍の一割が滅ぼされている。

 あの兵器をどうにかしないかぎり、我が国に平穏は訪れない。


 とはいえ、今回の遠征の目的は調査だ。

 ダイアラン大陸の地形と、城の配置、そして何より勇者の戦闘能力をこの目に焼き付けるためだ。

 魔王様に生み出していただいたモンスターは、ほとんどが偵察用の機能を有している。あらゆる方向から勇者を観察し、あの忌々しい剣の威力や鎧の防御力のデータを本国に送るように作られているのだ。

 たかが千匹のモンスター、魔王様なら造作もなく生み出せる。

 あの方がいれば、少なくとも我がダーケスティア国だけは守りきれる。


 しかしこの場所、なかなか良い。

 カンティオ城塞の隣に位置する、このメッツィ城塞。

 五年前の侵攻作戦で破壊した後は、ダイアランの人間も放置しているようだ。ここからだと、勇者の行動を遠巻きに眺める事ができる。しかもこちらに気づかれず。


「すいません、もうちょい向こうズレてもらっていいですか?」

「ああ、はいはい、すまないね」


 隣の人の邪魔をしてしまった。

 廃墟だから狭いのだ。

 この空間に四人もいると、さすがに――


「ん?」


 なんで私以外の人間がここにいるんだ?


                     *


 やはり勇者の活躍は凄い、というかおかしい。

 剣を振るだけでモンスターが消えていく現象には目を瞑るとして、全方位から迫るモンスターを息切れせずに倒し続ける技量と体力。

 それなのに少しも泥臭くない。

 主人公ってのは、こうでなくちゃな。


「アミューさん、本物の“無双”を見た感想はどうだ? ただ強いだけじゃできないだろう」

「そだネー。剣と魔法だけじゃできないネー。これは確かに小説に書いたらカッコいいかもしれないネ!」


 話している俺の隣では、JKが無言で撮影している。そろそろスマホの容量も足りなくなるんじゃないか。

 言葉は発しないが、JKの興奮している表情はすぐに見て取れる。

 勇者のイケメンっぷり、それにあの強さを見れば誰でも惚れるだろう。

 と思いきや、


「せんせ! あの戦い、言語化できる!?」

「いや、そりゃしないとダメだろ」

「どうしよう、あたし自信ないや……あんな凄い戦い見ちゃったら、あたしなんかの文章力で表現できるのかな」

「大丈夫だ」


 俺はJKの頭に手を置く。


「言葉ってのは自然に出てくるもんだ。今の興奮を思い出しながら書けば、気がつけば原稿が埋まってるさ」

「そっか。そういうもんか」

「ラノベってのは、正しい文章よりも心を打つ文章が大事だからな。がんばれよ」

「うん」


 頷くJK。

 ことラノベに関しては素直でいい子だ。

 「俺の事を利用しろ」と言ったが、この調子でどんどん使って欲しい。

 俺も先輩から様々なものを盗んだ。技術、知恵、アイデア――何を盗んでも先輩は笑って許すものだ。ただし、とある先輩の本棚からエロマンガを盗んだ後輩は全治四ヶ月の重症を負ったが。


「早く帰ってラノベ書きたくなっちゃった」

「俺もだ」


 少なくとも、これで目的のひとつである“無双”は勉強できた。

 結論としては、魔法などの超常的なパワーに助けられれば理屈が通るし、演出も派手になるし、何よりカッコイイ。

 あと“声”も重要なんだと感じた。

 誰かに聞かせる声ってのは、無視してはいけない要素だ。

 それから――


「おっと」


 また隣の人にぶつかってしまった。申し訳ない。


「……あの、キミらは何者なのだ?」


 先客に睨まれてしまった。


「あ、すいません、うるさかったですか?」

「いや、うるさいとかそういう問題じゃなくてな。キミらは勇者の仲間か?」

「仲間じゃないです。ただ取材に来ただけで。あ、俺こういう者です」


 名刺を差し出すと、先客は渋々それを受け取った。


「ライトノベル作家……ああ、異世界の作家か」

「ご存じなんですか?」

「うむ。そちらが身分を明かすなら、こちらも礼を尽くそう。私はダーケスティア国、東方侵攻部隊第二師団長ベルゲルと申す者」


 ベルゲル。どっかで聞いた名前だな。


「この人、魔王軍だ!」


 俺より先にJKが気づいた。

 しかし、魔王軍のボスって割には――


 普通の人間に見えるぞ。


 三〇代くらいの紳士だ。

 口ひげと貴族っぽい服のダンディな男である。


「あの、モンスター……とかじゃないんですか?」

「モンスターは我が国の魔王様が生み出した兵器。人は人である」


 あ、そうか。アミューさんが言うには、モンスターは魔王軍が作り出したものだから、死体が残らないんだよな。

 冷静に考えれば、作り出した生物だけで暮らしている国なんてないよな。ロボットの王国じゃないんだから、そこに住む住民がいるわけだ。


 なんだか一気に疑問が湧いてきたぞ。

 ディルアラン大陸っつったっけ。魔王軍の領地。

 てことは、そこにも人が住んでるわけだ。

 勇者やダイアラン大陸と敵対しながら。


「ベルゲルさん、でしたね?」

「いかにも」

「少しお話、聞かせてもらっていいですか?」


 俺はリュックから必殺のアイテムを取り出す。


「また“東京ばな奈”?」

「いや、今度は“東京カンパネラ”だ」

「なにそれ知らない。でも美味しそう……!」


 青い箱に入ったチョコレートクッキーだ。

 東京ばな奈と同じく、東京駅構内で売っている。


「うむ、キミの目的と熱意は伝わった。何も知らない異世界人に、この世界の事を教えてやっても良い」


 青い菓子折を受け取ったベルゲル。


「しかしね、今どういう状況か分かってるかね?」


 ベルゲルが指さしているのは、カンティオ城塞の方角。

 先ほどからずっと勇者が戦っている。

 しかし先ほどよりも興奮しないのは、何故だ。


「……まぁいい。データは取れた。試験用のモンスターもそろそろ全滅だ。潮時だな」


 ベルゲルは手から魔力の光を出し、勇者と戦っているモンスターに指示を出す。するとまだ二割ほど残っているモンスターが全て海の中に飛び込んでいった。


「逃げるのか!? ベルゲル、姿も見せずに! 卑怯だぞ!」


 ここまで聞こえる勇者の声。

 ほんと、どういう声量してんだアイツ。


「さて異世界の作家よ。知りたい事を教えてやろう」

「その前に、ひとつだけいいですか?」

「何かね」

「あなたのボス――魔王様って、“ハーレム”築いてたりします?」

「ハーレム? ああ、後宮ならあるぞ」


 イエス!

 つい初対面の相手の前でガッツポーズを取ってしまった。

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