第7話 人気者はつらいよ

 山賊は騎士団に引き渡した。

 可哀想だが、老夫婦も自首する事になった。

 いや、可哀想と思うのは偏見だ。実際、あの老夫婦も山賊に荷担して、いくつもの旅人を襲っていたのだから。

 ただ、俺たちを助けようとしてくれた事は理解している。その事を騎士団に伝えるだけ伝えた。この国に叙情酌量の制度があるかどうかは分からないが、やるだけの事はやった。

 別れる時、JKは泣きそうになっていたが、俺は何も言えなかった。


 しかし騎士を伴って目的地へと辿り着くと、厭世観も消え去った。

 アシェラードの町はとんでもない騒ぎになっていたからだ。

 もう、町の中に入っただけで分かる。あちこちに旅行者っぽい人間がいる。帯剣している冒険者っぽい人は少なく、軽装の女性ばかりだ。

 世界中から勇者に会いに来たんだなぁ……。


「あそこが会場だネ!」


 アミューさんが指さすのは、小高い丘の上にある豪邸。

 山の上にあるデカイ家は、TVとかで見た事があるぞ。大物演歌歌手の家とか、ああいう感じだった。だけどこっちの家は規模が違う。ちょっとしたホテルくらいの大きさだ。


「アミューさん、あれ誰の家なの?」

「メルブロッシ伯爵の家だネ! このアシェラードの町の領主だヨ!」

「領主かー。伯爵って事は貴族だろうし、やっぱり金持ってそうだねぇ」


 月並みな発言をするJKだが、俺も似たような感想しかない。

 今は伯爵様には興味がない。そこを訪れる勇者と仲間達に会いたいのだ。


「さて、どうするかな」


 勇者を招いたパーティは、明日行われる。

 それまでこの町に待機して、パーティに潜り込むか――


「宿屋は……もう一杯だろうな」

「だね。ファンだらけだよ」


 後でアミューさんに調べてもらったところ、馬小屋まで満杯だったらしい。

 かといって町の外に野宿してまで時間を延ばすのも、面白くない。


「よし、それなら今日中に勇者に会うか」

「センセー、会えるの?」

「さぁな。でも、とりあえず伯爵の家に行ってみようぜ。もしかしたら勇者がそのへんうろついてるかも知れない」


 楽観的な未来を思い浮かべつつ、俺たちは丘の上の豪邸まで歩く。

 坂と階段を上り、伯爵の家まで近づくにつれ、ちょっと見通しが甘すぎた事を痛感した。

 そうだよ、伯爵のパーティって言うからホームパーティみたいなのを想像してたけど、そんなもんじゃない。もはやこれはイベントみたいなものだ。


「お願いします! 中に入れてください!」

「勇者様に!」

「伯爵様! どうか、一目だけでも!」


 高級ホテルの周囲を、ぐるりと人が取り囲んでいた。

 若い女性から腰の曲がった老婆まで、あらゆる女性が屋敷に向かって叫んでいる。会えない事が強いストレスなのか、物を投げる下品な女性までいる。

 何人くらいだろう。少なくとも百人はいるぞ。


「うわ……」


 もはや無法地帯だ。

 あの伯爵が悪い事をしたわけではないだろうが、ここまで野放しにする事もないだろう。

 整理券のないイベントのようなものだ。

 異世界にはそんなノウハウないもんなぁ。

かといって、別にこれ一般参加のイベントでもないよな。勇者と、おそらく有名な貴族だけを集めた、身内だけのパーティだよな。

 それなのに「勇者が来る」ってだけで、これほどの人間が集まっているのか。


「どうすんのコレ。取材どころじゃないよ」

「なら裏に回ろう。裏口なら、少しは人気もないはずだ」


 広い敷地&大量の人間のせいで、裏手に回るだけでもたっぷり一時間ほどかかった。

 人垣は途切れる事もなく、裏口まで続いている。

 ところが一部だけ、人が寄りつかない場所があった。


 まさに裏口と呼ぶに相応しい、小さな扉。

 その周囲に、鎧を着たゴツい男が二名。

 帯剣どころか抜刀している。


「ちなみにアミューさん、領主による殺しってアリなの?」

「この町、伯爵のモノだからネ。領地に侵入するどころか、家にまで入ろうとする人は斬り殺されても文句言えないヨ」

「むしろ屋敷の周りに集まれるのは、寛大な方なんだな」


 短気な貴族だったら、軍隊を投入して鎮圧する事もできるってわけか。

 さっきモノとか投げてる人いたけど、殺されないだろうか。


「てことは、あの門番を通せば中に入れるかもしれないわけだ」

「どうやって通るの? まさか殺すの?」

「なわけないだろ、正攻法だよ」


 俺はリュックから手土産を取り出し、門番に近づく。


「あ? なんだ貴様?」

「すみません、ここに勇者様が滞在していると伺ったのですが」

「部外者は入れられない。帰れ」


 テンプレ通りの応対。

 向こうも仕事だから仕方ない。


「これ、勇者様へ差し入れなんですけど」

「差し入れの類も受け付けていない。毒物や危険物を考慮している」

「まぁ、そう言わず。気に入らなかったら、箱を見るだけでもいいんです」

「箱……?」


 俺は手土産を門番に渡した。


「毒や呪いの類かあるかどうか、勇者様に確認してもらってください。それでも箱を開けるのが怖いなら、突き返してもいいですし、その場で燃やしてもいいです。勇者様なら、この意味が分かるはずです」

「……?」


 門番二名が、俺が渡した箱を凝視する。

 お互いに顔を見合わせて、何か相談している。


「ちょっと上と相談してくる」


 箱を持ったまま、門番が屋敷の中に入っていく。

 そのまま、待つ事一〇分ほど。


「待たせたな。勇者様がお会いになるそうだ」

「おっ、本当に!?」


 開いた扉の奥で、門番が手招きしている。

 俺たちは礼を言って、屋敷の中に入った。

 背中に女性たちの罵倒が飛んでくるが、大事にならないうちに避難する。


「せんせー、すごいね。どうやったの?」


 中庭を歩きながら、JKが質問する。


「単純に手土産がウケたんだろ」

「何渡したの?」

「銘菓“東京ばな奈”」

「なんだよそのセンス……」

「東京土産っつったら、コレしかないだろ!」


 異世界ラノベの定番として、主人公が現代の料理を振る舞って大活躍という展開がある。

 だけど俺は料理なんてできないし、人に披露する知識もない。

 だったら既製品をプレゼントした方が確実じゃないか。

 それに包装だって凝ってるし、なにより手軽に買える。


「なにそれ、美味しいノ?」

「まだ残りはあるから、後でアミューさんにもあげるよ。JKはいらないんだな」

「誰もいらないなんて言ってないじゃん。食べるよ、ちょうだい」


 そんな会話をしながら、俺たちは伯爵邸に入る。

 掃除が行き届いている洋館の中を歩く俺たち。。

 屋敷そのものは特筆すべき点はない。こっちの世界の洋館と同じだ。

 警備の魔法人形やら珍妙な格好のエロメイドやらを期待していたのだが、そういうものはなかった。ただ、廊下の壁に飾られている剥製の中に、見覚えのない生き物を数体見つけた。

 あとで何の動物か尋ねようと心にメモっている間に、目的の部屋に辿り着いた。


「どうぞ、ごゆっくり」


 年老いた執事に通されると、俺たちはその部屋の中を見回した。

 何の事はない、ここも普通の客間だ。テーブルとイス、それからサイドボードと観葉植物。壁には絵や剥製が飾られている。何の変哲もない部屋。

 イスに二人腰掛けていた。どちらも若い男だ。


「どうも勇者さん、と、伯爵さんですね」


 俺はそれぞれに挨拶する。


「おお、あなたが異世界人! 初めまして!」


 勇者が立ち上がり、俺に握手を求めてきた。


「どうも、僕はミュータス・ランダーと申します。“勇者”なんて恥ずかしい呼び方はやめて、どうぞミュータスと呼んでください」

「それはどうも。お土産は喜んでいただけたでしょうか?」

「ええ、そりゃもう! 異世界のお菓子があんなに美味しいなんて! 作り方を訊きたいところですが、その前に教えてくださいよ」

「何ですか?」

「初対面なのに、どうして僕の方が勇者だって分かったんですか?」

「いや、だってそりゃ……」


 ミュータスと名乗った青年は、とても爽やかな笑顔のイケメンだ。

 長めのサラサラな金髪と、鍛えられた肉体――は、まだいいとして。

 頭に宝石のついたサークレットをつけてゴテゴテした装飾の剣と鎧を身につけていれば、誰だって分かるだろう。

 勇者って室内でもそんな格好をしなければならない契約でも結んでいるのだろうか。

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