第6話 銃と魔法の世界

「日本国内では銃はなかなか使えませんからね。FPSなどのゲームはもちろん、サバゲーとも違いますよ」


 初めて銃を撃った日の事を思い出す。

 俺に銃の撃ち方を教えてくれた先輩は、そう言って笑っていた。

 普段は優しい笑顔の先輩だけど、拳銃を持つ彼は鬼のように恐ろしい。なにしろ仏のような笑顔のままバンバン発砲するのだから。

 現代で化け物が活躍するラノベをたくさん執筆している彼は、俺にレクチャーしながら妖怪を撃ち殺していく。そこに一切の躊躇はない。


「最近じゃ高田馬場あたりにも妖怪の類が出るようになりましたからね。いい練習になります」

「は、はぁ……」

「問題は引き金を引いた時の感触、そして相手が死ぬ様を克明に文章にできるかどうかです。こればかりは経験によるものが大きいですね」

「あの、先輩は化け物に親でも殺されたんですか?」

「とんでもない! 私は化け物が大好きなんです! 愛していると言ってもいい! この愛情をラノベにぶつけるために、より多くの化け物を殺すんです!」


 魔物の青黒い返り血を浴びながら、先輩は熱く語ってくれる。

 化け物を愛する優しい先輩からは、化け物の種類や退治の仕方など、様々な知識をもらった。

 だけど人間の撃ち方までは教えてくれなかった。


 正直、けっこう重いぜ。


                   *


「う、うわああああ! こいつ、魔法使えるじゃねぇか!」

「気をつけろ! 見えない矢だ!」


 血を流して倒れ伏す男を見下ろす俺。

 老夫婦やJKを傷つけずに相手の戦意を喪失させるには、これしかなかった。

 弾丸は肩の骨を貫通している。

 狙った所に当たってくれて良かった。死にゃしないはずだ。骨や神経の損傷については、知ったこっちゃないけどな。


「て、てめぇ!」


 あとはいつも通りだ。刃物を持って向かって来る男を叩きのめし、ついでに盾にする。魔法を使いそうなローブの男まで走り、何かアクションを起こされる前に素手で昏倒させる。

 ローブの男はあっけないほど簡単に倒れてしまった。


「ちょっとせんせー! 魔法使う所見せてよ!」

「無茶言うなよお前! 即死技だったらどうすんだ!」


 幌の中からヤジを飛ばすJKに怒鳴り返す。

 敵の出方が分からない以上、ビビッてる間に全滅させるのが一番効率がいいんだよ。


「さーて、と。残りは何人だ?」


 ローブの男が持っていた杖を奪う。お、これ樫の杖だ。ファンタジーものだと魔法の杖に使われてるけど、殴ってもめちゃくちゃ痛いんだこれ。

 これなら銃を使わずとも、安全に叩きのめせる。


「う、うわあああああっ! なんだコイツ!」

「勇者みてーに強いぞ! 逃げろっ!」


 そう思ってにこやかな表情をした瞬間、俺を取り囲んでいた連中が全員逃げた。

 なんだよ、これからだってのに。

 結局、倒したのは三人か。

 で、ひとりは肩を撃たれて重傷。

 血溜まりができてるけど、出血多量で死ぬんじゃないかコイツ。


「あ、あの……」


 幌から出てくる老夫婦。


「あ、ちょうど良かった。さっき魔法使ってたの、ばあちゃん? もしかして、治癒魔法とかそういうの、使えたりしない?」

「す、少しなら……薬草があればより効果的なんですけど」

「薬草ならアミューさんが何種類か持ってたな。ちょっと待っててくれ」


 魔法が使える人がいて助かった。

 まぁ、実際に助かったのは俺じゃなくてこの男なんだけど。


 それから銃声でも起きなかったアミューさんを叩き起こして、薬草をもらう。老婆にそれを渡すと、ひどく驚いていた。なんでも非常に貴重な薬草なのだという。

 それをポンと出してくれるアミューさんは、ニコニコしながら「いいヨいいヨ」と気前よく譲ってくれた。本当にこのガイドさん、何者なんだ。


「せんせー、あたしアミューさんとおばあちゃん手伝ってくるね」

「おう、邪魔はするなよ」


 JK達がケガ人の治療をしている間、俺は残った連中を縛り上げる。

 特にローブの男は念入りに縛りあげ、気付け薬で目覚めさせた。


「お、おい、俺をどうするつもりだ?」

「ちょっと取材に協力してもらう」


 拳銃を頭に突きつけながら、俺は優しく問いかける。


「まずお前ら何者だ? あのじいちゃん達とはどういう関係だ?」

「お、俺たちは、この近くに住んでる山賊だ。あのジジイ達は最近やってきた仲間だ」

「仲間?」

「本当だ、嘘じゃねぇ。食うに困って山賊になる奴に年は関係ねぇよ」

「どんだけ治安悪いんだよ、このへん」


 こっちの世界でも、老人が山賊になるほど食うに困る国はそうそうないぞ。

 ただ、日本ほど裕福ではないのは確かだ。貧困問題はどこの国でもあるだろうが……。


「あいつらは大陸の西側に住んでたんだけど、魔王に村を滅ぼされたんだ」

「魔王……」


 勇者がいるなら、魔王もいる。

 “無双”を取材するために勇者を捜しているが、正直、魔王の方も気になる。どんな理由でどうやって人間と敵対しているのか、詳しい事が知りたい。


「それで流浪の生活をしてたところで、俺たちが雇った。魔法が使えるからな」

「魔法ならお前も使えるんじゃないのか?」

「えっ」

「えっ」

「いや俺、魔導士じゃないけど」

「……じゃあ何だよその格好」

「ダメなのか?」

「ダメじゃないけど……普通、そういうのって魔法使いが着るんじゃないのか。あと杖だって」

「刃物はあまり使わないんだ。金と服が汚れる」

「ああ、鈍器扱いなのか」


 紛らわしいマネしやがって。

 早とちりした俺も悪いけどさ。


「それに魔法なんてそう簡単に使えるわけないだろ」

「やっぱり習得には時間がかかるのか? どれくらいかかる? 学校で学んだり、免許とかが必要になるのか?」

「時間もかかるけど、才能だよ。ダメな奴は一生かかっても覚えられねぇ」

「才能がある奴はどれくらいで覚えられる?」

「知らねぇよ、俺魔導士じゃねぇって言ってんだろ!」


 俺は拳銃を強く額に押しつける。


「あ、ハイ、思い出しました。聞いた話だと魔法学園の天才たちは、生まれた時から魔法の勉強してるそうで、それでも十年くらいかかると」

「十年か……ちょっと勉強して覚えるには、厳しい時間だな」


 自分で使えれば、参考になると思ったんだがな。

 中国拳法の使い手の先輩が、浸透勁という“気”を利用した技を見せてくれたけど、あれも習熟に数年かかったって言ってたな。

 こりゃJKも覚えられるか――


「おおおお! JKすごいね! 一発だヨ!」

「えっえっ、これでいいの? あたし、これ、魔法使ってるの?」

「な、なんという事じゃ……見ただけで魔法を覚えるとは……!」


 老婆と同じように、山賊の銃創に手を当てているJKが光っていた。

 彼女の手から流れるオーラのようなものが、みるみるうちに傷を塞いでいるではないか。


「……おい」

「いや待ってくださいよ! 俺だってあんなの初めて見ますよ! なんなんですかあのガキ!? あんた達、何者なんです!?」

「ただのラノベ作家と、ラノベ作家志望だよ」


 作家には、何かひとつでも武器があるといい。

 もちろん複数あるに越したことはないんだが――

 これからJKもその魔法を武器に、新しい小説が書ける事だろう。未知の体験は、未知の物語の扉を開いてくれるはずだ。

 先輩として、喜ばしい事である。


 後でやり方教えてもらおう。

 絶対にあいつより早く使いこなしてやる!

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