第2話 目の前で起きた事の取材を

 とりあえず、だ。

 異世界に来たんだから、“無双”と“ハーレム”の二つは抑えておきたい。

 とはいえ、それだけじゃダメだ。

 何かそれ以外にも楽しい要素はゴロゴロ落ちているはずだ。それらを片っ端から拾っていきたい。


 そんな事を街中を歩きながら考える。

 アミューさんの案内によると、“ハラン城下町”の中心には市場があり、珍しい食べ物があるという。

 グルメ漫画と同様、グルメラノベも増えている昨今、異世界の食生活というのもきちんと調べておく必要があるな。

 それに腹も減ったし。


「アミューさんは料理できるの?」

「できるヨ! ガイドだからネ! 旅先でゴハン作る事もあるし!」

「お、それは頼もしい。いずれお願いすると思うから、よろしくな」

「まっかせて!」


 ニコニコ笑って市場を歩くアミューさん。

 見たところ、並んでいる品はそこまで珍しくない。知らない品種だらけだが、肉と魚と野菜と果実はどこの世界も同じだ。


「食べるとパワーアップする食材とかあるかな」

「栄養満点の食材ならあるけど……食べたら強くなるって、それドーピングだヨ」

「やっぱそうか」


 不正はいかんな、不正は。

 それに食べるだけで簡単に強くなるのは、ストーリー展開的に盛り上がらないだろう。もしも敵側がそれを食べたら、主人公もピンチになるだろうし、味方やモブが食べたらどうするんだ。


「無双するのにも、理由付けが必要だよなぁ、やっぱ」

「ムソーって何?」


 これは基本的な質問だ。

 そうだよな、異世界にはそういう概念なさそうだもんな。


「“無双”っていうのは、ゲームのタイトルからつけられた要素なんだよ。たったひとりで数百、数千の敵を叩きのめす強さを意味するんだ」

「そんな事できるノ!? 異世界の人って、すごいネー」


 あ、そうか。アミューさんから見たら、俺たちが“異世界”の住人なのか。

 宇宙人から見たら、俺たちが宇宙人みたいなものだ。


「センセーは“無双”できるの?」

「うーん、先輩作家ほどじゃないなぁ」


 そんな話をしながら、俺たちは路地を曲がり、人気のない場所まで行く。

 食堂の裏口、ちょうど盛況な市場から死角になっている。

 わざわざそんな場所まで歩いていったのには、理由がある。


 先ほどから、ずっと俺たちをつけ回してる奴らがいたのだ。


「なんだお前ら? わざわざやりやすくしてくれたのか?」

「へへっ、諦めたのかなぁ?」


 ドスの効いた声で笑う、見るからに怪しい男が三人。


「おい、見ろよあの格好。あの女と似たような素材だ。同じ国の人間か?」

「金目のモン持ってるぜきっと」


 全員ツナギのような作業服を着ている。麻でできているせいか、ゴワゴワして硬そうだ。そのくらいの服しか着られないチンピラといったところか。


 一番右から黒眼鏡、ロン毛、童顔。

 凶悪そうな面構えだが、特徴だけ並べていくとALFEEみたいな連中だ。

 そんなALFEEが人気のない路地で話しかけてくる理由は、想像するまでもない。少なくとも、演奏を聴かせてくれるためではないだろう。

 カツアゲ程度なら、まだ可愛げがあるだろうが――


「っとぉ!」


 俺は素早く手を横に振り、空中でそれを掴む。

 投げナイフだ。

 チンピラのものではない。

 俺の背後からアミューさんが投げたものだ。


「おいアミューさん! いきなり殺すつもりか!?」

「で、でも、コイツらセンセーを狙ってたんだヨ! ていうかなんで今の取れたノ!? 後ろから投げたんだヨ!?」

「とにかく簡単に殺しちゃダメだ。せっかくアミューさん可愛いんだから」


 俺はアミューさんの髪を撫でる。

 すると彼女は驚いた後、少し顔を赤らめて困惑した。


「か、可愛い……? なんで可愛いと殺しちゃダメなノ?」

「可愛い女の子に血生臭いマネさせると、読者が嫌がるんだ。だから、そういうのは男に任せとけ。な?」

「ンー? なんだかよく分からないヨ……?」


 腕を組んで首をかしげているアミューさんを横に、俺はチンピラたちに向き直る。


「な、なんだよお前……今のナイフ」

「う、打ち合わせてたんだろ? だよな?」


 あ、さっきのやり取り、ちゃんと見えてたのか。

 そのくらいにはケンカ慣れしてるって考えていいのかな?

 けど、その程度か。


「悪いな。そのまま帰ってくれれば見逃すつもりだったんだけど――状況が変わった」


 俺は素早く距離を詰めると、一番近くにいた童顔のゴロツキの顔面を掴む。

 その童顔を隣の黒眼鏡の顔面に叩きつけた。

 鼻血を出して昏倒する黒眼鏡を見て、最後のロン毛がナイフを取り出す。だが、その時点で俺は童顔を手放している。


「死ねやぁっ!」


 素早くナイフを突き出すロン毛。やっぱりケンカ慣れしてるな。刃物で人を刺す事にまったく躊躇していない。

 だが、この程度なら拳銃を出すまでもない。

 俺は手刀でナイフを叩き落とすと、その手を鳩尾に突き刺した。


「が……はっ!」


 肺の空気を失って、その場に膝をつくロン毛のナイフ男。

 最後に残ったのは、最初に掴んだ童顔だ。

 たった一瞬で仲間を二人失い、立ち上がれずにいる。


「おおー! センセー強いネ! これが無双って言うんだネ!」

「無双ってほどでもないよ。本当はもっと大人数を相手にするモンだ」


 後ろで拍手するアミューさんに微笑みかける。

 この程度のチンピラなら、殺すまでもない。

 それほど凶悪でもない悪役をバンバン殺す展開もアリだが、あまり主人公を血生臭い世界に置くと、日常シーンを書きにくくなるんだよな。

 そういうのを好む読者もいるだろうが、俺は好きじゃないなぁ。


「ひ……ひいっ! なんだコイツ!? なんでこんなに強いんだ!?」

「当然だろう。作家は生き残るのに必死なんだよ。これが先輩なら、お前ら今ごろズタズタになって死んでたぞ」


 俺は童顔のそばにしゃがみ込み、ポケットを漁る。

 サイフの中にはクェスティア王国の紙幣、それと名刺らしき紙がいくつか。

 それからナイフに櫛、家の鍵しかない。


「チッ、しけてやがる」

「す、すいません! 金持ってなくて!」

「俺が欲しいのは金じゃねぇ、ネタだ。もっといいネタ持ってねーのか」


 反対側のポケットに、薬の包みが。


「おい、この薬はなんだ?」

「それは花粉症の薬で……あっ、麻薬が欲しければアジトにありますぜ!」

「麻薬なんかにゃ興味はねーんだよ! もっと竜の骨を砕いた奴とか、錬金術で作った不老不死の薬とかねーのかよ!」

「そ、そんな高級薬品持ってたら、今ごろこんな事してないです!」


 そうだ。

 アジトと聞いて、ひとつ思い出した事がある。


「お前、さっき『あの女と似た格好』って言ってたな。どういう事だ」

「そ、それは……今朝捕まえた女が」

「そいつはどうした」

「ア、アジトに捕まえて――」


 俺はとびきりの笑顔でこう言った。


「頼みがある。ちょっと道に迷っちまってな。ぜひお前のアジトに案内してもらいたい」

「は、はいっ、喜んで!」

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