《児童絵本》森の学校③ もっとともだち!
* * * *
ともだちえほん
* * * *
~これまでのあらすじ~
ひとりぼっちだった
『はぐれオオカミ』ちょびたくんは
森の学校で
たくさんの友だちができました。
中でも
『ちっちゃな青虫』カプリくんとは
大の仲良しになりました。
でもカプリくんは
サナギになってしまったので
しばらくの間
お別れです。
すこしさみしい
ちょびたくんなのでした。
***
あつい夏です。
森の学校も
夏休みになりました。
でも今日は
皆が楽しみにしていた
『こどもキャンプ』の日です。
久しぶりに
森の学校の
友だちが集まりました。
大人はくま先生だけです。
「やぁ皆、元気にしていたかな」
力強いくま先生の声に
皆は声をそろえて
元気に返事をしました。
くま先生は
満足そうに笑うと
今日の予定について
お話をしてくれました。
たくさん遊んだり
一緒にご飯を作ったり
一日中
楽しいことがいっぱいです。
あのイタズラ大好き
チルルくんやウーノくんも
おしゃべり大好き
リノンちゃんも
皆真剣に
くま先生の話を聞いて
わくわく笑顔で
うなずきました。
午前中は
二つのチームに分かれて
それぞれに
遊ぶことになりました。
一つは
『虫とりチーム』です。
リノンちゃんと
ウーノくんと
チルルくん、
それにドンタくんと
ポリィちゃんが集まりました。
「おや、虫とりは大人気だね。あとのメンバーは『魚とりチーム』かな?」
くま先生が
ちょびたくんたちを
振り返りました。
ヤンヤンちゃんは
はしゃぎながら
「私お魚大好きなの」と
笑いました。
サンクくんは
体を
ニョロニョロと動かして
ちょびたくんの足元で
大きくうねり
「ちょびたくんは? ぼくらと一緒に魚をとろうよ。水の中は気持ちいいよ~」
そう
楽しそうにさそいます。
くま先生も
魚とりチームに
参加するというので
ちょびたくんも
サンクくんたちと
魚とりをすることにしました。
ちょびたくんたちは
森の中を流れる
川の岸辺に
やって来ました。
少しはなれた場所から
森の木々の間をぬって
虫とりチームの
楽しそうな声が
聞こえてきます。
あんまり
遠くまで行かなければ
何かあっても
すぐかけつけられて
くま先生は安心です。
さっそく
ヤンヤンちゃんと
サンクくんは
いきおいよく
川へ飛び込みました。
ぱしゃんぱしゃんと
水がはねて
太陽の光に
キラキラきれいです。
くま先生が
大きく腕を回して
準備体操をしています。
ちょびたくんも
見よう見まねで
くま先生のとなりで
体操をしました。
ヤンヤンちゃんたちは
楽しそうに声をあげて
泳いでいます。
二人とも
水の中の方が
いつもよりも
動きが早いので
ちょびたくんは
びっくり驚きでした。
ちょびたくんは
泳ぎをしたことがありません。
川は浅く
穏やかな流れでしたが
初めて水に入る
ちょびたくんは
ドキドキしていました。
こんな
あつい夏日和なのに
川の水は
ひんやり冷たくて
とても
気持ちがいいものでした。
サンクくんの
いったとおりです。
透明な水の底に
丸い石がたくさん
敷き積もっていました。
その上を
はだしで歩く感触に
ちょびたくんは
顔がにやにやしてしまいます。
「魚がいたよ!」
サンクくんの声に
ちょびたくんは
ハッとしました。
川があんまり楽しくて
魚のことを
忘れていたのです。
「そっちへ行ったわ!
捕まえて、ちょびたくん」
ヤンヤンちゃんが言いました。
ちょびたくんには
魚は見えませんでした。
川の水はきらきらと光って
どこに魚がいるのが
まるでわかりません。
でもサンクくんと
ヤンヤンちゃんが
大きな声で
辺りを動き回ります。
「ホラホラ!」
「そこよ!」
ちょびたくんは
二人の早さに
目を回して
川の中に
バシャンとしりもちを
ついてしまいました。
その間に
魚はどこかへ
逃げていきます。
さんざん頑張って
ヤンヤンちゃんが
どじょうを一匹
つかまえました。
くま先生は
ほめてくれましたが
サンクくんは
ふてくされています。
「このままじゃ
虫とりチームに負けちゃうよ。
頑張って
たくさん魚をとろうよ」
でもちょびたくんには
川の魚たちは
早すぎて
とても
捕まえることはできません。
ちょびたくんが
しょんぼりしていると
くま先生が皆に
こんなことを言いました。
「ようし、
それじゃあこうしよう。
魚をたくさんとれるように、
皆の得意なことを考えて
『役割分担』を決めよう」
ちょびたくんが
キョトンとしていると
くま先生は
虫とりにも使えそうな
棒のついた網を
ちょびたくんに渡しました。
「私とサンクくんで
魚を追いかけて
ちょびたくんの方へ
向かわせるわ」
「挟みうちしながら
逃がさないようにね!
任せてよ」
ちょびたくんは
魚が来るまで
じっと静かに
川の中に立っている役です。
くま先生が
岸から魚の様子を見て
サンクくんたちに
知らせました。
「今だ!」
くま先生のかけ声で
ちょびたくんが
網を振るうと
一回で三匹の魚がとれました。
皆は声をあげて
大喜びです。
「やったぁ! すごいよ
ちょびたくん」
サンクくんは
そう言いましたが
これは皆で協力したからです。
ちょびたくんは
言われたとおりに
しただけなのです。
でもうれしくて
皆ニコニコでした。
魚が
バケツいっぱいにとれる頃
くま先生が言いました。
「そろそろ
虫とりチームの皆と合流しよう」
皆は川から上がり
ヤンヤンちゃんは
体をブルルと振るって
水を飛ばしました。
それを見て
サンクくんが大はしゃぎです。
「すごいヤンヤンちゃん!
もう一回やって!」
サンクくんは
ヘビなので
毛皮がありません。
水を飛ばしたりする
必要がないので
ヤンヤンちゃんのソレが
珍しかったのです。
そこでちょびたくんが
ヤンヤンちゃんのように
ブルブルっと
水を飛ばしてあげると
サンクくんは
更に大喜びです。
くま先生は
ニヤリと笑って
大きな体をブルブルル!と
振るいました。
勢いよく
辺りに水が飛び散り
ヤンヤンちゃんも
ちょびたくんも
また
水浸しになってしまいました。
くま先生は
すまなそうに笑い
「やりすぎちゃったかな」と
肩をすくめました。
それを見て
サンクくんは大笑い、
ヤンヤンちゃんも
ちょびたくんも
おかしくなって笑いました。
と、そこへ
虫とりチームにいたはずの
ポリィちゃんが
泣きながらやって来ました。
ポリィちゃんは
くま先生に
虫とりチームの皆が
ケンカをしていると
言いました。
たくさんとったはずの
虫たちを
逃してしまったのが
ケンカの原因でした。
ちょびたくんたちは
くま先生と
急いで
虫とりチームのところへ
向かいました。
「ウーノくんが
キチンとフタを
閉めなかったからでしょ!」
キィキィと
金切り声でリノンちゃんが
ウーノくんを責めています。
ウーノくんも
ほっぺたを真っ赤にして
リノンちゃんに負けない声で
いっぱいに叫び返します。
「ちゃんと閉めたよ!」
チルルくんは
そんなウーノくんを
かばうように
「ドンタくんが
しっかり
見張ってないからだよ」
そう言って
空っぽの虫カゴを
首から下げた
ドンタくんをにらみました。
ドンタくんが
いつもよりもさらに
ムッと恐い顔をしています。
「だいたい
リノンちゃんはうるさいよ。
ほとんどの虫は
ウーノと捕まえたんだからな!」
「なんですって!?
みつけてあげたのは私たちよ!」
駆けつけた
ちょびたくんは
仲間のケンカを見て
とても悲しくなりました。
ポリィちゃんが
泣いてしまったのも
しかたありません。
「虫たちが
いなくなってしまったのは
残念だったけれど、
予定していた観察日記は
お花にしよう。
さぁケンカはおしまいだよ。
先生はお腹がペコペコだ」
そう言って
にこやかに
くま先生が
バケツいっぱいの魚を見せると
今までケンカしていた
チルルくんたちは
パッと顔を輝かせました。
「すごい! 魚がたくさんだ!」
「さぁ皆でご飯を作ろう」
くま先生に
教えてもらいながら
木の枝を集めたり
川辺の石を並べて
火をおこしたり
はじめてのことに
皆わくわく、
ケンカのことは
すぐに
忘れてしまったみたいです。
お腹いっぱい
ご飯を食べたあとは
皆でテント造りをしました。
大きな葉っぱや
木を集めて
ヒモでつなぎとめて造る
手作りのテントです。
皆で寝泊まりするので
大きな大きな
テントになりました。
完成する頃には
陽が傾き
空は一面
見事な夕焼けです。
見慣れた景色も
皆と一緒だと
いつもより何倍も
すてきに見えました。
いつもはひとり
さびしい気持ちで
太陽が沈むのを
見ていたちょびたくんは
夕日の色に染まる
皆の顔を
幸せそうに
目を細めて見てました。
夕食を終えると
辺りは真っ暗、
夜になりました。
たき火の周りに
皆で座り
歌を歌ったりして
楽しくすごしていましたが
ある時
リノンちゃんが
こんな話を始めたのです。
それは
怖~い話。
ちょびたくんは
小さくプルプル震えながら
黙って
リノンちゃんの話を
聞いていました。
「昔のことよ?
森の仲間たちが
大ゲンカをしていたの。
二つのチームに分かれて
言い争いが続いたんですって」
それは
オバケの話より
ちょびたくんにとっては
ずっと怖い話でした。
昼間のリノンちゃんたちを
思い出したからです。
「ひとりだけ、
どちらのチームにも
入らない子がいたの。
その子は
片方のチームが怒って
相手を責めてる時に
『でもそれはね』って、
相手を説明してあげるの。
逆のチームが
相手を責めても
やっぱり同じように、
かばうのよ」
ちょびたくんは
少しホッとしました。
ちょびたくんには
きっと
そんなに上手く
出来ないだろうけれど
仲直りをさせてあげたい
気持ちは
同じだったからです。
「そんなことを続けていると、
そのうちその子はどちらからも
『お前はどっちの味方だよ!』って、
責められてしまうの」
話を聞いて
ちょびたくんの耳が
しょんぼり
たれ下がりました。
「そうして
誰にも相手にされなくなったその子は
皆の前から姿を消したわ。
……今でもひとりで
森のどこかに隠れていてね。
ケンカばかりしてると、
夜にその子が
やって来るんですって」
「ナニソレ、怖っ!」
力いっぱい反応したのは
チルルくんです。
ウーノくんも
震えています。
今日
ケンカをしてしまったのです。
リノンちゃんも
怖がっていました。
「さぁ皆、そろそろテントでおやすみの時間だよ」
くま先生に言われて
皆テントに入りました。
テントの中は
明かりはありません。
外のたき火の明かりが
ユラユラと
葉っぱのすき間から
ほんのり見えるだけです。
皆が
早くに
寝てしまおうとしていると
突然
テントに
ぱさ!
ぱさ!
と、
何かが
ぶつかってきました。
「何の音かしら」
ヤンヤンちゃんが
小さな声で言いました。
皆は耳を澄まし
音の方を見ます。
小さな何かの影が
テントに入ろうと
ぱさ! ぱさ! と
ぶつかり続けていました。
「やだ! 怖い」
リノンちゃんが
つぶやくと
ポリィちゃんが
ブルヒヒン、と
小さくいななきます。
サンクくんは
言いました。
「誰か見てきてよ」
でも誰も
自分が行くとは言えません。
「くま先生を呼ぼうよ」
ドンタくんが
低い声で言いました。
くま先生は
たき火の番を
テントの外で
しているのです。
そのうち
葉っぱのすき間から
誰かさんが
テントの中へやって来ました。
ぱたぱたぱたぱた!
そんな音が
テントの中にひびき
リノンちゃんが
思わずキャアと
悲鳴を上げました。
ウーノくんも
つられてウワァと
悲鳴を上げました。
テントの中は
大パニックです。
びっくりした
くま先生が
ランプ片手に
飛び込んで来ました。
皆は半べそで
くま先生に抱きつきます。
「おやおや、これは大変だ」
くま先生は
のんびりと笑いながら
そう言いました。
くま先生が
ランプでかざす先に
見たこともない子が
ブランと
逆さまになっていました。
リノンちゃんみたいに
羽根があります。
でもリノンちゃんとは
ぜんぜん違う羽根です。
それに顔は
チルルみたいに
小さくて
毛におおわれています。
「あなただぁれ?」
ヤンヤンちゃんが
おっかなびっくり
聞きました。
「私はアクビ、よろしくね」
逆さまの女の子が
そう言いました。
くま先生は
皆にアクビちゃんを
紹介します。
「アクビちゃんも
森の学校の仲間だよ。
コウモリは
昼間は眠っているから
夜にしか会えないんだ」
皆はびっくり
ちょびたくんは
きんちょうが解けると
腰が抜けて座り込みました。
「リノンちゃんが
あんな怖い話するからだよ!」
サンクくんは
困った顔で叫び
ポリィちゃんが
小さな声で
「ケンカはダメよ」と
言いました。
皆は何だかおかしくなって
互いにクスクス
笑いだしました。
だって
あんなに怖がってたんだもの、
新しい友達が
キョトンとした目で
見てました。
森には
まだまだ
たくさんの知らない動物が
隠れているかもしれないな。
ちょびたくんは
うれしくなって笑いました。
~おしまい~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます