第5話 十神剣がすぐに集合すると思ったら大間違い

「遅れてごめんなさいっ! 赤将軍ユングヴィ、ただいま到着しましたっ!」

 旧蒼宮殿の正堂の一角、現時点で持ち主のいない神剣が安置されている大広間の近くに、軍神たちのために用意された小さな会議室がある。

 その会議室に駆け込んで第一声、ユングヴィはそう叫んだ。

 一度かたく閉ざしたまぶたを、おそるおそる持ち上げる。

 会議室の中、絨毯の上に座って待っていたのは、同僚三名だった。

「……あれ? もう、解散した?」

 一番奥に座って泣きそうな顔をしている青年――近衛隊兼憲兵隊白軍の長にして十神剣の代表者でもあるテイムルが、「ううん」と唸りながら首を横に振った。

「そもそも、来て、くれないんだ、けど……、これ……は……」

「ああああ!? テイムルごめんっ! 悪気はなかったんだ悪気はーっ」

 部屋の中央へ走った。すぐさまテイムルの目の前に両膝をついた。テイムルが「いやいいんだ知っていたよ」と両手で顔を覆う。

「ユングヴィとサヴァシュは僕をナメているんだよね?」

「違う違う私とサヴァシュを一緒にしないでお願い」

「そうだよね、ユングヴィとサヴァシュは、ではなくて、十神剣は基本的に僕をナメているんだよね」

「ああああーっごめんなさいごめんなさいごめんなさいーっ! 謝るからそんなこと言わないでっ!」

 テイムルから見て右側、ユングヴィから見て左側で眉間に皺を寄せている青年――エスファーナを中心とした中部守護隊そう軍の長であるナーヒドが、大きな溜息をつく。

「騒々しい! 貴様はいつになったら将軍らしい落ち着いた立ち振る舞いを身につけるんだみっともないっ」

「今日はそういう角度!?」

「どういう意味だ貴様」

「ごめんなさいごめんなさい本当にごめんなさい」

 テイムルが微笑みつつ、「今度から十神剣で用事がある時は僕ではなくてナーヒドの名前で招集をかけようね」と言う。ナーヒドの「俺は構わんが」と答える声とユングヴィの「より足が遠退くと思うんだけど」と答える声が重なった。

「何だと!?」

「やっちゃった失言だ撤回します撤回しますーっ」

「やめたげなさいな」

 涼しげだがどこか鋭い声が割り入ってきた。

 声の主は、テイムルから見て左側、ユングヴィから見て右側に座る、豪快に巻かれた長い髪と踊り子の衣装の上に上着を羽織った姿が印象的な女――女人のみで構成された諜報部隊であるさくら軍の長ベルカナだ。

「あんまりユングヴィをいじめないであげてちょうだい。このコには本当に悪意はないわよ」

「俺はいじめてなど――」

「悪意があるのはどちらかと言えばサヴァシュの方でしょ。とっちめるのならあのコの方にしたら? 捕まえられたらだけどね」

 テイムルが「ですよねえ~」と頷き、ナーヒドが「あの野郎」と唸った。ユングヴィは、サヴァシュの不在を喜ぶべきか悲しむべきか分からず、ただただ苦笑するしかなかった。

 十神剣はその名の示すとおり全部で十人いる。ただし、東西南北の守護隊の将軍はふだん各地方に散っているため、首都に常駐していていつでも集まれるのはそのうち六人だ。しかも、参謀および情報統括部隊である軍だけは今神剣の主がいないので、今集まるのなら五人、のはずである。

「これ以上サヴァシュを待つのはやめよう。ユングヴィは待っていればそのうち来てくれるはずだと信じられるけれど、サヴァシュは、その――無理……」

 ベルカナが一人腕組みをして「賢明な判断ね」と肯定した。

「で、今日は何の話?」

 早く自分の話題から離れてほしいユングヴィは、多少強引にでも話を進めようと思い、笑顔を作って問い掛けた。

 テイムルが「ちょっとややこしい話だから間違って伝わる前にちゃんとみんなに説明しておきたいことが」と、奥歯に何か詰まっているかのような物言いをした。

 テイムルの配慮を裏切り、隣からナーヒドが「ちゃんと説明しておかないと後からどういうことだと文句をつけにくる奴らが出るような話だ」と言った。

「そういうことを言い出すのはだいたい頭に何が詰まっているのか分からないユングヴィと人の話を聞いていないサヴァシュなのだが、そういう奴らに限って呼んでも来ない!」

 「うっまだ言ってるよ」と肩をすくめた。

 その時だ。

 廊下からまだあどけない少年の声が聞こえてきた。

「すみません、まだ盛り上がっているところですか? まだまだかかりそうです?」

 全員が出入り口の方を見た。

 ナーヒドがすぐに立ち上がった。大股で出入り口に向かった。

 設置されていたついたてをつかむ。ついたてを部屋の中に移動させ、出入り口を大きく開ける。

 「失礼致します」と言って顔を見せた蒼軍兵士に、ナーヒドが「構わん、お通ししろ」と告げた。

 ひとりの少年が蒼軍兵士の後ろから顔を出した。日輪を思わせるまばゆい金の髪と太陽を思わせる尊い蒼の瞳をもったこどもだった。

 ユングヴィは胸が跳ね上がるのを感じた。

 金の髪と蒼い瞳の子――先王の第二子フェイフューだ。

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