冬の終わり、春の目覚め
唐突に私の意識がぱっと明るくなった。
冬の肌を通り抜けて肉に突き刺さり、骨身にじわりと染みついていくような寒さが徐々に解けてきて、故に苛む苦しみから解放されてきたのだと身体が先に気づいたのだ。
身体の調子が良くなれば当然、精神にも影響が出る。
肉体と精神は相互に干渉しあっている。
それが当たり前だと気づくのは何時だって春が訪れてからだ。
気づかないうちにふさぎこみ、憂鬱になっている。
それが冬だ。
いくら部屋を暖かくしても、いくら布団の中に入り込んで毛布を積み重ねても、重ね着をした挙げ句に汗をかいてしまっても寒さは文字通り隙間から忍び寄ってくる。
年を重ねたせいか寒さに極めて弱くなってしまっているようで、年々冬が訪れるのが嫌になってくる。
とはいえ、夏だって今日この頃の暑さが毎年やってくるようでは御免こうむりたい所なのだが。冷房が無ければとても動けず、日中は水風呂に入ってやり過ごすか、あるいは冷房の利いている場所に籠るしかないのだ。
花粉までもがやってくるのは余計な事だが、それでも春の足音が聞こえてくるのは日々待ち遠しい。
三寒四温とよく言われるし、時折ぴゅうっと冬の趣を残した風が吹き抜けるがそれは草木の芽吹きに比べれば大したことではない。
スーパーにそろそろ山菜を使った総菜が並ぶのもこのころだ。
お彼岸の辺りには牡丹餅も出る事だろう。
私の親は甘党だった。持っていくのも悪くはない。
「なんで山に墓なんか作ったんだろうねー」
のんきな声で我が子が言いながら、山の小道をひょいひょいと登っていく。
子供は身軽だから坂道だろうが砂利道だろうがおかまいなしに、大人の我々の事を気遣いもせずにどんどん先へと行ってしまう。
見晴らしが良くて死者も満足するだろうからと山の天辺あたりに墓を作ったのは先祖の一人だと聞いた。
私の母も、その上の祖父も誰もがなんでこんなところに墓なんぞ作ったんだアホ先祖めと文句を吐きながら墓参りをしていたものだ。
流石に私もそろそろ膝に来るので墓を移そうかなどと考えていたりもする。
他の親戚が賛同してくれればの話だけど。
それでも山の上まで登れば、やはり先祖が墓をここに作った理由もわかろうというものだ。
小山とはいえ見晴らしはよく、下の町並みを一望できるのだ。
「遅いよ。もう線香あげちゃうよ」
と言いながらいつの間にかちょろまかしたライターで線香の束に火をつけているものだから、勢いよく燃え出している。
「ああ! 線香はそう言う風に燃やしたらダメ!」
私の叫びもどこ吹く風で、子どもは笑いながら線香の束を空高く掲げていた。
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