のびすぎるつらら

 つららは屋根から大きく垂れ下がって、軒下にまで届かん勢いで伸びていた。

 

 いくら何でも今週は寒すぎる。

 部屋の中は氷点下まで下がり、ストーブでも焚かないことには布団にくるまっているしかやることが無いくらいに厳しい。

 飼っている猫も耐えかね、ストーブや電気カーペットの電源が入っていないと真っ先に私の所へやってきては抗議するくらいには寒い。

 最近地球温暖化が進んでいるというのは嘘なのではないかというくらいに寒さに震えている私にとっては、今年の冬はまさに大寒波到来間違いなしだ。


 もう雪も見飽きていた。

 最初はわぁ雪だ、なんて無邪気に思えていたけれど、これだけ降ったり白い景色を拝んでいればもう三日目で飽きる。雪かきの手間も考えれば飽きるどころか憎さ百倍と言ったところだろうか。慣れない雪かきで腰を痛め、しもやけで手足が真っ赤になって、かじかんでこたつに直行してはしばらくはひっこめた亀の首のように私はそこに陣取る。外には出ないぞという強い意志を持って私は冬をやり過ごそうと考えていた。

 でもそれが許されない事情がある。

 冷蔵庫の中身が空なのだ。

 ついでに言えば猫のエサも空っぽで、今日こそ買い物に行かない事には猫からの抗議で私の顔がズタズタにされてしまう事だろう。

 雪だ。今日も雪が降っている。

 しかも気温が低いから降った雪が解けずに積もり、風が吹きすさぶことで地吹雪になって空を舞い上がる。降ってくる雪と風で舞い上がる雪で視界は最悪そのもの。

 車なんか運転した日にはその場で立ち往生間違いなし。

 と言っても歩いて出た時にはホワイトアウトで方向感覚を失って、家の近くで彷徨って凍死する事もまた間違いなし。

 最後のカップ麺も今食べきってしまった。

 最後の猫缶も開けてしまい、猫は満足気にそれを食べてまたこたつに潜っていった。


 じっと私は天気予報と外の様子をにらみながら伺っていた。

 そしてチャンスは訪れる。

 一瞬だけ、雪が止んだ。風は相変わらずだがこれなら外に出れる。

 家から徒歩5分の距離にあるコンビニは、当たり前だけどこんな天気でも24時間やっていてくれている。有難い事に。

 急いで支度をし外に出た私は早歩きでコンビニに向かい、一週間分の猫缶と、当座の食料を買い込んだのであった。

 これでやっと安心、しばらくは大丈夫。

 そう思っていたのだ。


 そしてまた今週が訪れた。

 今週も身が切り裂かれるような寒さが私たちを襲う。もちろん寒波も遥かなる空の上に居座っている。私たちあざ笑うかのように。

 猫は寒さのせいで機嫌がひどく悪く、こたつの中から出てこようとしない。

 また尽きかける食料。灯油の残りもほとんどない。ストーブすら点けられない。

 雪は飽きずに降っている。私はとうに飽きているというのに。

 雪かきで痛めた腰をなだめるように寝転ぶことしかできない。

 雪よ。冬よ。

 これほど私は君たちを憎んでいるのは今年が初めてだ。

 だが憎んだところでお天道さまには敵わないってのもまた事実。

 

 ため息を吐いて、また私は外に出る準備をする。

 玄関のドアを開いた目の前の光景には、屋根から垂れ下がる大きく長いつらら。

 ひとつのつららがひび割れて地面に落ちた。

 思わず私は声を上げる。


 つららは垂直に地面に刺さり、その姿を屹立させていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る