第73話 山を越えて

南吠を奪還するべく月狼国皇帝が諸侯に向けて号令を掛けたのは、南吠占領後二週間が経ってからだった。

月狼国の各都市の維持、管理を任される諸侯は皇帝の大号令を受けて各地から南吠に向けて出発を開始した。

東の大陸の北の端に位置する雪花国も皇帝の命を受けて、特別編成を組んだ雪花国魔術教導院の生徒たちで結成された特別義勇兵を送り出すことになっていた。

「今回はこの婆が陣頭指揮を務めます。良いですね?」

雪乃は義勇兵20名を前にして静かに告げた。

「お前たちは一人一人が雪花国の貴重な人材であり、私が見込んだ力の持ち主です。よいですか?他国の兵士に目にモノを見せてやりなさい。障害となる有象無象はすべて潰すこと。分かりましたね」

「はい」

20名の兵士達はその全てが志願兵であった。

顔ぶれは雪花国魔術教導院の学院生でもある、イリス。アリアナ、リリアナ、ミサ、凍子、ヘイルダムの仲間の傭兵の顔も見える。それに加え、今回は雪虎のレイレイまでもが頭数に入っていた。

雪花国自体に常備兵はおらず、戦に出るのは多くても50人も集まれば上々だろう。

今回は、雪乃の選定を経た実力者のみが残る形になったためにさらに、それよりも少なくなった。

「何か質問のある者は?」

「はい」

すっと2,3人挙手するものがいる。

その中で賢狼族の女戦士を雪乃は指した。

「ありがとうございます。半賢狼族の由利ユーリです。一つ質問が」

「言って見なさい」

「はい。随分と兵力が少ないようですが平気でしょうか?相手は五海賊の一角です。もう少し兵力を募るべきでは?」

「ふむ。まぁ、由利。お前の言うことも分かります――――が、相手が強大なればこそ、少数で十分なのですよ。今回の戦は諸侯が兵を出すことが決まっています。自ずと街道には兵士があふれ、動きがとりずらくなります。少数の我らは途中からは、街道を使わず山越えをし、いち早く南吠ナンフェイへと到達しなければなりません」

「山越えというのはどの山ですか?」

「それはもちろん、月狼国の霊峰「ヒラルクー」ですよ」

「それは―――――!」

幾らなんでも無茶だろうと由利は言いかけた。

なにせ霊峰「ヒラルクー」は東の大陸の中央部分に北から南へと縦に連なっている

3000メートル級の山々なのだ。

南吠は雪花国から見れば山の向こう側。山越えが出来れば確かに近道にはなるだろうが――――いままで霊峰を超えて行ったものなど聞いたこともない。

「そんなの聞いたことがありません」

「ふふ。前例がないからやるのではないですか。私たちが行えば、諸侯もだと気づくやもしれませんよ?―――――それに、人数が少ないほうが山越えには便利ですし、もし、超えることが出来れば―――南吠の裏辺りにでる。奇襲に打って付けではないですか」

結局――――雪乃は最後までぶれることはなかった。


大陸の中場を超えた当たりで諸侯が通るたびに街道を行きかう旅人や商人は道のわきにそれて、道を明け渡した。

下手に道をふさげば、難癖をつけられ手打ちにされてしまう可能性もありうる。

それよりは、速やかに道を明け渡した方が頭の良いやり方だと皆知っていた。

諸侯も多い所は五百人ほどの手勢を引き連れているところもある。

鎮圧には、諸侯の子飼いの武官たちが参加をしていた。

が、無論すべての諸侯が参加しているわけではない。

中には財政難のため、軍備を整えられないところ、その他の理由で参加できないところもあるのだが――――

「それにしても結構な数よねぇ」

凍子が街道を馬車で移動しながら後ろに続く他国の兵隊を見やる。

街道に続く人の群れ。

(何人いるのかしらね?)

凍子はそんなことを、幌馬車に揺られながらぼんやりとそんなことを考えていた。

雪花国の人数は21人。大型の幌馬車で6人づつが乗り込んでも、3台という小編成であったが、他の国は馬と馬車と兵隊を引き連れ歩くのが一般的だ。

「こんなに街道が埋まってると、攻められたら一溜りもないわね」

ミサが眼鏡をくいっと直しながらつぶやいた。

「まぁなぁ。戦線が伸びきってるところを横合いからつついて分断するのは常道だしな」

ヘイルダムもニヤニヤ笑っていた。

「まぁ、昼間に襲ってくることはありません。あるとしたら――――休息をとる夜です。移動中は気も張って警戒していますが――――野営をするとなると気も緩むもの。婆ならそこを狙いますね」

雪乃はレイレイの上に胡坐をかいたまま酒を喇叭のみし、意見を言った。


「さて、着きましたね」

夕方になるころには雪乃たち一行の馬車は霊峰「ヒラルクー」の麓町まで到達をしていた。

馬車で移動するのはここまで。

明日は朝から霊峰の横断をせねば成らないので、この街で一泊することになっていた。

「本日はここまで。各人宿をとりしっかりと休みなさい。では―――解散」

雪乃は20人に手短に支持を下して自らも宿を探し始めた。

「さすが宿場町です。宿が多いですねぇ」

この街はヒラルクーへの参拝の観光客の為に作られた街で主産業は行ってしまえば観光。宿とそれに付随する業務で成り立っている。

「でも、なんか物々しくないですか?」

イリスとアリアナがあたりを見回すと鎧姿の兵士がちらほら見えた。

「仕方ないわよ。きっと諸侯の兵士だわ。見た目だけよ」

アリアナは別段気にした様子もなかった。

「おねーちゃんはいつもそうなんだから。私は心配だよ」

「リリアナは心配し過ぎなのよ。もーっとアタシを頼りなさい」

アリアナがムンと胸を張った。

「ここなんか手頃そうだがな」

ヘイルダムが通りかかった宿を親指で指し示す。

指し示した宿を覗き、カウンターへと向かうと、内装はかなり古いが、梁などはしっかりとしているところを見ると、それなりに歴史があるのだろうと思われた。

「いらっしゃいませ」

人族の番頭が出迎える。

30過ぎだろうか。人のよさそうな男である。

「6人ほどで一泊したいのですが、空き部屋はありますか?」

雪乃が、問いかけると

「ええ。1室ほどですが大部屋で良ければ」

番頭はすぐに答えを出してきた。

「構いません。宿代は?」

「1泊。2万でいかがでしょうか? もちろん夕飯混みで」

「ふむ――――」

番頭のいう値段は少し高いが、どうしたものかと思案していると、

「良いんじゃねぇか? どうせ金は有り余ってるんだろ?この間、賭場で儲けたんだろう?」

ヘイルダムが早く決めちまえと言わんばかりにいうのが聞こえた。

(確かに2万は大したことはないですがねぇ)

雪乃は思案した。

確かに2万程度なら大した額ではない。自分の財布から出せばなんということはないが。

「もー。迷うことないじゃない。決めっちゃいましょうよ」

凍子が口をとがらせる。

「いかがしますか?」

「あー。分かりました。その値段で結構。準備をお願いします」

雪乃は考えるのがめんどくさそうに、頭を掻いてから、番頭に値段に頷いた。


案内された部屋は大広間で10人以上が寝られる広さが十分にある部屋だった。

「すっごい。宴会場じゃないの?これ」

凍子がきゃっきゃとはしゃぎまわる。

「ええ。宴会場として使う場所ですが、今の時期は空いておりまして」

番頭がいう通り、こんな大部屋を使用するのは宴会時しかありえない。

「使っていただけるんでしたら、当店も願ったりかなったり何でございまして」

「まぁ、そうでしょうねぇ。一晩で悪いですがこの部屋を使わせてもらいますよ」

雪乃は温和な感じで大部屋の中に入っていく。残りも後に続いた。

「では、ごゆっくり」

番頭が頭を下げて階下へ降りていくのを見届けてから――――ミサが大広間の両開きドアを閉めた。

「さて――――イリス、アリアナ、リリアナ。夕飯ついでに他の宿に止まっている者に声をかけておきなさい。朝日の昇る前に街の正門へ集合の事。武装、携帯品は各自に任せる。とね」

「はい」

3人は頷くと、揃って階下へと降りて行った。



「各自、覚悟は出来ていますか?」

早朝まだ日も登りきらない、暗闇の中、雪乃は20人と一匹を前に静かに聞いた。

誰もが頷くだけで、声は発しない。が、雪乃はその行動を見て満足げに続けた。

「これから、霊峰「ヒラルクー」の山越えを開始します。各人、足元に注意するように」

こうして21人は霊峰「ヒラルクー」を横断し南吠の裏へ出る行軍ルートを取り始めたのであった。

しかし、霊峰「ヒラルクー」横断は全面が岩で構成され、足場もあるにはあるが、非常に上り難いルートを登って行かねばならない。それを子供を交えた21人ほどの人数が登るのは無謀な策のようにも思えた。

先頭を進むのは雪乃で次点には雪虎のレイレイ。続けて、ヘイルダム。それに賢狼族の由利がつづいていた。

(この婆さん、なんて脚力だ)

雪乃を追うヘイルダムは足場を蹴る様にして軽々と昇っていく雪乃をいまさらにして恐ろしく感じた。

傭兵の自分でも軽くはいかない足場をひょいひょいと、まるで山ヤギか何かが上る様に登っていく。そして少しでも、間が開くと――――

「ほれほれ。頑張んなさいな! ババアに負けていますよ!」

とヤジを飛ばしてくる始末だった。


「止まりなさい」

やがて、登り始めて1時間ほどもたった時だろうか。ヒラルクーの崖っぷちに立つ人影が呼び止めるのが聞こえた。

「ちっ、見つかりましたか」

憎々しげに、雪乃が呟き、崖っぷちに立つ人影を睨み付けた。

「ここは私の管理場所。見つからないとでも?」

人影はふふんと笑い声を上げた。

霧がかかり、崖っぷちの人物はよくは見えない。が、雪乃は声だけを聴いて人物をと特定して見せた。

「シンリン。今は貴方にかかわっているひまはないのですよ。大人しく見逃しなさいな」

「かかか。大人しく見逃せ?相も変わらず生意気な物言いです。見逃すなど、できるはずがないでしょう?」

わかっているはずだとでも言いたげに霧の向こうから声がする。

「この私がこのヒラルクーに入っている者を素通りさせるわけがない。それはお前が一番わかっているでしょうに。ネェ――――雪乃?」

声はさらに

「問答はここまで。あとは拳で語りなさいな」

そう続けてふわりと、崖の上から下まで飛び降りた。



「お前たちは下がっていなさい」

雪乃は仙人から目をはなさずに、命令を下した。

「やはり、お前が出てきますか」

「当たり前でしょうに。貴女に太刀打ちできるのは、この私位ですよ」

「別に、纏めて掛かってきても構いませんよ?何人来ようが同じです」

「その手には載りません。ここで大事な兵士に怪我をさせられては、いままでの苦労が水の泡です。ここは私の力で貴女を倒します」

「かかか。言うもんだ。良いだろう。どれだけ出来るようになったのか、見せてみなさい」

仙人は笑い声を上げて――――雪乃を、剣呑に見据えた。


霧が辺りを覆い尽くすなかで、雪乃と仙人はどちらからと、言うわけでもなくほぼ同時に動く。

「覇っ」

仙人が、蹴り出した大岩を雪乃は鉄扇で切り伏せ――――岩が真っ二つに割れ雪乃の両側に落ちる。

今度は雪乃が鉄扇を左下から右上へと振り上げると、突風が巻き起こり、仙人を押し戻した。

「なかなかやるではないですか。お前も術を使える様になっていたのですね」

仙人は地面に今度は手を付くと―――――とん。と地面を押すように腕を動かした。

一瞬後に――――ドンとしたから突き上げるような衝撃が雪乃を巻き込む形で岩場を震えさせる。

「甘い」

雪乃は中空に一足飛びで浮き上がると、近くの樹木にスタリと着地して見せた。

揺れは樹木を揺らしたが、大地ほど揺れているわけではない。雪乃の立っている枝はぎしぎしと音を立てて揺れはするが――――どうしてだか折れはしなかった。

(内功――――軽気功か。なら―――)

仙人は今度は、足元にあった石ころを膝下のスナップで蹴りだして見せた。

蹴りだされた石は弾丸となって、樹木の上に居る雪乃を襲う―――が。

雪乃はそれを鉄扇で軌道をずらして見せた。

石は軌道をずらされて――――樹木から真横の辺りに居た大きな岩にまるで弾丸のような速さでぶつかり、砕けた。


「みんな伏せて!」

岩場に弾かれた石が砕け散るのを見て凍子は周りにいた20人に叫ぶ。

(あんなのが当たったらタダじゃすまないじゃない!何、考えてんのよ。あのババア)

仙人は凍子の予測通り次々と、膝下のスナップだけで雪乃に対して石ころを蹴りだし始めていた。雪乃は鉄扇で軌道をずらし、石ころを弾き飛ばすが――――その弾かれた石ころは時折、凍子の周囲に当たって砕け散った。

町長まちおさ―――――!おい!クッソババア!もうちょっと考えて戦いなさいよ!あぶ――――危ないでしょうがぁ!―――――ヒャア!」

目に負えない速度で岩礫が飛んで来れば、弾で頭を打ち抜かれるのと大差ない。

凍子にできるのは頭を低くして叫ぶことだけだった。

(やれやれ。仕方ない)

叫ぶ声を聴いて、雪乃は仕方ないといった感じで今度は飛来する石を素手ですべてつかみ取って――――そのまま足の甲へと落とすと――――仙人へと蹴り返した。

(おや、悲鳴を聞いて戦い方を変えますか。随分と変わったもんですねぇ)

雪乃が蹴りだした石を2,3発避けると、次に飛来してきた石をパシィと掴み取って見せた。

(時間はかかりましたが、やっと周りを見た戦いが出来る様になりましたねぇ。雪乃)

シンリンは雪乃が昔よりも確実に周りが見えた戦いをする様になっているをみて嬉しくなった。

「――――ずいぶんとまぁお前も周りが見える様になったモノですね。雪乃」

やがてニコリと笑い、とすん―――一方的にとその場へ腰を下ろしてしまった。

「――――何のつもりです?」

雪乃は樹木の上に立ったまま、警戒を解かないままで、疑問符を浮かべる。

しかし、仙人はわらったままで

「――――気が変わった―――――こんな感情になってしまっては、戦いは出来はしないよ」

「何を―――言って」

「昔私の所で修業に励んでいた時は、何度言っても、周りを顧みなかったお前が、その歳になってやっと『周りの意見に耳を傾ける戦い方』が出来る様になったのだと思うと――――私は嬉しいのさ」

シンリンは至極うれしそうな、懐かしそうな顔をしてみせる。


一方で―――――

「――――え?何ですって?」

そう呟いたのは、岩場の後ろに伏せていた凍子だった。



「校長が、仙人の弟子だったなんて知らなかった」

ミサが以外だという風につぶやく。

「――――ちっ。あのババア余計なことを」

憎々し気に山道を下りながら雪乃はすでに夕方になろうとしていた空を睨みつけた。


あの後、仙人と雪乃が師弟関係だった事がわかり、そこからは――――変わって雪乃の恥ずかしい弟子時代の話が、仙人の口から洗いざらい話されたおかげで――――雪乃は顔を真っ赤にする羽目になった。

仙人曰く、当時の雪乃は、個の強さは完成していたが、周りを巻き込む戦いしか出来ていなかった事を仙人から何度も注意されたが、結局喧嘩別れする最後の時までは治らずにいたらしい。

「あの時は、一刻も早く自分の力を試したかったのですよ」

仙人を前にした雪乃は口を尖らせたまま始終顔を背けて口を尖らせたままだったが、

「そういう仕草は昔のままだ」

懐かしそうにしながら、仙人はくしゃりと雪乃の白髪を撫でて見せた。

「―――――馬鹿――――やめなさい!恥ずかしい!」

雪乃は仙人の手を払おうとしたが――――それは適わなかった。

「今回だけだ。特別に見逃してやる。さっさと行ってさっさと終わらせてきなさい」

仙人は雪乃を撫でながら――――彼女らを見逃すことに決めたのだった。



結局、今回は『特別』に見逃して貰えることとなり、今はこうして全員が無事にヒラルクーの中腹を過ぎるまでになっていた。

辺りはすでに薄暗くなり、あと数時間もすれば夜がやってくるだろう。

今日はこの辺りで野営をし、朝早くに出立する予定をたてざるを得なくなった。

「予定がずれずれですよ・・・・たく」

雪乃は木の根にもたれかかりながら、昔を思い返した。

5歳のころには既に、仙人シンリンの下に居た記憶がある。

なんでも、頂上付近にある霊廟の前に捨てられていたのが最初らしい。

最初はシンリンは無視を決め込んだが――――あまりに激しく泣き続けるためにしかたなく、雪乃を拾ったんだと聞かされたことがあったのを暗闇の中で思い出した。

ちなみに雪乃という名前もシンリンがつけたモノである。

「たく・・・・いつになったら師匠越えは出来るんでしょうねぇ・・・・」

もうこの歳では無理かもしれないと思いながら―――――雪乃はゆっくりと目を閉じるのだった。



南吠の街の横手の森に出たのは次の日の夜になってからだった。

(紗枝の報告では街中には黒騎士団がおり、その中でも大剣を持った者が頭を務めているようだとありましたが・・・・)

森の木々に潜みながら眼下に広がる南吠の街を双眼鏡で見渡す。

紗枝に探らせた情報では亜人の集団および、海賊の数はすでに600前後になっているという報告を受けてはいたが。

今のところ街は雑多な雰囲気にあふれているだけで、そんなに人数がいるようには見えなかった。

「まだ、戦いははじまっちゃいねぇ」

ヘイルダムが身を潜めたまま、呟くのが聞こえた。

「でしょうねぇ。街中は落ち着いているように見えます。おそらく今頃街道は人の山ですよ」

雪乃はそれ見た事か。と嘆息した。

「で?どうすんの?」

凍子が後ろから小声で問いかけて来る

「まずは諸侯の兵を待ちます。攻め始めたらここから呼応するように、魔術を内側の門前におとし、合間を縫って突撃しますよ」

雪乃はのんきに言っているが、イリスやリリアナ、アリアナ等のまだ子供と言って差し支えないような者たちには、

「卑怯だなぁ」と門横の森からの魔術一斉射撃は、不評の様だった。

「仕方ないのですよ」

不意に後ろから声がして振り向くと―――――いつ現れたのか紗枝と二人の暗殺者の姿が見えた。

「ご苦労でしたね」

「いえ」

紗枝は雪乃の言葉に軽くうなずいただけで後は何もしゃべろうとはしない。

いつもの優しい教師の顔は消え失せていた。



それから2日が経った朝の事だった

何やら街の方から何かがぶつかる音と、地鳴りのような音が聞こえて雪乃達は朝もやの中で目を覚ました。

森の中に身を潜めながら、物音に耳を澄まし、双眼鏡をのぞき込むと――――

「ふむ。どうやら始まりましたか」

街の山側の街道で戦端が開かれているのが確認できた。

「どうする?突っ込むかい?」

ヘイルダムが雪乃の指示を待っている。

「そうですねぇ――――まだ西の鉄城門は閉じられています。もう少ししてから一発デカいのをお見舞いしてやりましょうか」

「気がなげぇこった」

ヘイルダムはやれやれと口では言っていたが――――それ以上は何も言わなくなった。

「まず諸侯に花を持たせてやらねば。寡兵には寡兵なりの戦い方があるのですよ」

雪乃はくくくと笑って見せる。

ヘイルダムにはその笑い方が悪魔が笑っているようにも見えて――――背筋が寒くなった。

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