特務編

第44話 ハンナといっしょ

西の大陸には、辺境府と呼ばれる地域がある。

 ローデリアが10年前の再征服戦争を仕掛けた時に負けた属国の集まる地域のことで、大陸の中央より左側のことだ。

 平坦な農地もあれば、いまだに戦争の傷跡から抜け切れていない、そんな都市も存在するのが現状だったが――――ここ数年は、ローデリアの統治下に置かれて戦乱とは無縁だった。

 とはいえ、どの都市や村も食糧事情は十分ではなく、自分たちの糧を日に3度食べることがやっと、という程度なので油断はできない。

 事実、傭兵崩れの野党などに襲われ、食糧庫を根こそぎ空にされた挙句、つぶれてしまった村もある。

「今向かってるリヴェリの街もね。元はローデリアに負けた側の国家の首都だったとこなのよ」

 ローデリアの西の玄関口である、ポニムスの港に立ち寄ったハンナと凍太は旅行者用の宿に荷物を置いて、1階にあるテーブル席について昼食を取り始めていた。

 昼食をとりながら、ハンナは特務員のあれこれをまるで、教師のように事細かく凍太に説明をしていく。

「リヴェリに着く前に怪我人とかが居たらどうすればいいの?」

「そうねぇ――――瀕死に近かったら助けてあげればいいわ。それ以外は頼まれたら治してあげるくらいね」

「でも、僕、治療魔術はできないよ」

「大丈夫よ。三か月でみっちり教えてあげるわ。もともと、魔術課に取らせるつもりはなかったのよ?」

 ハンナはそう言って手元にあった麦酒を飲み込んだ。

「ホントは医療課に入学させて、新薬の研究だとか、新魔術の発見をしてもらおうって考えてたのよ――――でも、結果的にはよかったのかもね」

 フフフと笑うハンナ。

「何がおかしいの?」

「だって、私が直接教えることが出来るのよ?まだ教師じゃないのに」

 嬉しいじゃない――――そう言って、また麦酒を煽った。

「まず、なんといっても、治療魔術は『構成力』が大事なの。人体を知らないとだめだから、そこはお勉強よ?」

「はい」

「うん。いいお返事――――あ、すいませ―――ん。麦酒追加おねがぁーい」

 ハンナの酒臭い吐息が鼻に着いたが――――凍太はこれから先の事も考えて何も言わないことを選んだのだった。



「えーっと・・・ローデリア行きの馬車が――――在ったわ」

 次の日の朝早く、ハンナと凍太はポニムスから陸路で、首都ローデリアを目指すべく行動を開始し――――ローデリア直通の馬車に乗りこんでいた。

 4頭立ての大型の馬車で日割り貸切ることが出来るが――――御者は専属の者が務める。言ってみればタクシーの貸し切りが近いのだと凍太は考えていた。

「どうも―――この度はポムニス商会をご利用いただきありがとうございます」

 御者は白髪で老人だった。前で4頭立ての馬を操縦しながら――――凍太とハンナににこやかに話を切り出していた。

「いやぁ――――最近は物騒ですからねぇ。お二人はご家族様ですか?」

「いいえ。「蛇の王国」所属の魔術師です」

「へぇ――――そいつは凄いですねぇ。てっきりご家族か、ご姉弟なのかと。そっちの坊ちゃんも魔術師様なんですかい?」

「うん。そうだよ」

 馬車に揺られながら――――凍太は頷いて見せた。

「おじさん。今日はローデリアまで行くの?」

「ああ――――ローデリアは2日ほど架かります。4頭いるのは距離も長くて消耗を避けるためなんですよ」

 長い街道を結構な速さで駆け抜けていく馬車。馬の疲労もやはりたまるらしい。

「ふーん。そうなんだね」

 凍太は呟きながら――――構成を考えて――――馬車を風が後押しするイメージを展開し、続けて、馬車の車輪にも風でなるべくがたつきが出ないようにサスペンションを作るイメージで魔術を展開して見せた。

「随分、難しい構成考えてるのね」

 ハンナは構成を読み取って――――言ってくる。

「ならアタシも――――」

 今度は隣でハンナが構成をくみ上げだすのを凍太は感じた。

「構成読み取りをして見てね」

 ハンナは自分の構成をあえて隠さずに展開し、凍太に読み取らせる。

 構成内容は―――――「馬の永続回復と御者の疲労軽減」だった。

「理解できた?」

「うん」

「じゃあ、実行しましょっか」

 パチンと指を鳴らす。

 すると馬がいななき、馬車がグンと加速を始めた。続いては凍太が風の魔術を実行し――――今まで揺れていた馬車が音を立てずに走行を始め、加速も強まった。

「え?――――あれれ?」

 御者も気が付いたのだろう。速度が上がっていくのを手綱を曳いて止めようとするが――――馬たちの速度はなかなか収まらない。

「魔術で後押ししてますので――――気にせず運転してください」

 ハンナはにっこりと後ろから御者に声を掛けた。

「凄いもんですねぇ――――体験したことのない速さですよ」

 御者は馬の疲労度を心配したが、しばらく走ったにもかかわらず、いっこうに速度は落ちる気配がない。それどころか馬たちは我先にと争うように走り続けていた。

 正直、御者にとっては――――恐ろしい速さだったが――――ローデリアの首都には結果的に6時間ほどで到着してしまっていた。

 御者は馬を休ませるべく一度、馬車を止めたが――――あまりに馬が消耗していないので目を丸くして驚くしかなかった。

「――――お代は「蛇の王国」へ請求しといてください」

 渡された代金票にサインを書きながら、ハンナはそう言ってチップを100ローデリア紙幣で2枚御者に握らせた。

「くれぐれも、魔術の事はご内密に」

 口止め料としては多すぎる額をもらって御者は顔を青くした。

「ご利用ありがとうございました」

 そう告げる御者の声は、微かにだったが――――震えているように聞こえた。



「次の者」

 ローデリアの門衛に呼ばれ、凍太とハンナは特務員の指輪を見せた。

「「蛇の王国」特務員2名。ハンナ・キルペライネンと凍太です。」

「はっ!お通りください!」

 それと共に――――ファンファーレが門の上から吹き鳴らされた。

「喇叭吹くんだ」

「そう。使者が着ましたよーって伝えるためにね」

「これから偉い人に会うんだっけ?」

「そう。これからローデリアの依頼者に会って、挨拶。そしたら用意された宿に行って今日はおしまい。実際にはローデリアからまた馬車で移動があるわね」

 歩きながら、夜の街を足早に移動する。

 時刻は夜で――――今日のうちにローデリアの支配者に会う必要があった。

 ローデリアは寄り合い所帯でいくつもの都市が集まって国家を形成している。

 民衆が王族を廃した――――革命戦争から今年で7年目を数えていて、今のローデリアの統治者はその時に民衆を束ねた、栄誉市民代表5名。

 今日会うのは、そのうちの一人。アンドレア・ユーゴだった。


「お初にお目にかかる。アンドレアだ」

 アンドレアの執務室に通された二人は目の前のデスクに座る40過ぎの男をみた。

 シャツに上質なベストを着込み、口には葉巻。鋭い目つきであごひげを撫でながら――――やがてニコリと笑って見せた。

「要請に従ってよく来てくれた。感謝するよ」

 アンドレアは立ち上がり、握手を求める――――ハンナはそれに従い、凍太もハンナに倣った。

「まずは、「都市間交流戦」優勝おめでとう。ハンナ君」

「ありがとうございます」

「そして・・・・君が・・・・噂の「氷帝」だね?」

「あ・・・はい」

 凍太は小さく返事をしてアンドレアを見た。

「今回も、ローデリアは負けてしまったが――――まぁそれは仕方ない。さて――――依頼の話だ」

 アンドレアは何かを言おうとして――――止め、すぐに依頼の話を切り出した。

「ローデリア辺境府のリヴェリに向かってもらいたい。期間は3か月だ」

「拝命いたします」

「あのあたりは未だに衛生状態が悪い。怪我人も最近は増えているらしくてな・・・ローデリアとしては支援を出来る状態にない。申し訳ないが――――

 今回も「王国」の治療魔術士に頼らざるをえない」

「分かっております――――我ら「王国」治療魔術士はそのために居るのです。ご安心を」

「ああ―――頼んだよ」

 アンドレアは事務的に会話を済ませて、二人を退出させた。


「――――あー。めんどくさいわ」

 用意された宿のベッドの上でハンナは麦酒を煽りながら、ぼやいた。

「アンドレアさん、かったいのよ!もーちょっとこう!なんていうか――――」

 凍太は隣のベッドで寝転がりながら、ハンナのボヤキを聞いている。

(何だっけな――――こういうの。飲んだくれ?だっけ)

 現代にもいた酒に飲まれてぼやき続けるOLたちの姿がフラッシュバックし、凍太は苦笑いを浮かべた。

「凍太ちゃんは、あんなかたっ苦しい大人になっちゃだめだからね!?」

「うん」

 麦酒をやりながら――――凍太を半眼で見つめるハンナ。ややあってから、

「こっちおいで」

 指をクイクイと自分の方に来いとやりながら、凍太を呼んだ。

 ベッドから降りてハンナの前に行くと――――ぎゅ---と抱きしめた後口にキスをされた。

 れろれろ――――くちゅん

 一通り口内を下で攻撃されてから、「―――――ぷは」とハンナが口を離す。と酒臭い息が凍太を襲った。

「なにするんだよぅ」

「なにって――――ナニでしょ?もうかわいいなぁ!食べちゃうわよ?」

 抱きつかれながら、めんどくさくなって、凍太はハンナを眠らせる事にした。

 構成を編んで相手の脳へ信号を送ることをイメージしながら――――

「お休み」の挨拶を実行キーにして魔術式を展開、実行させると――――

 抱き着いていたハンナの目がトロンと蕩けて、間もなく眠り始めた。

(お?成功したのかな?)

 ハンナの重みに耐えながら、術の成否が頭をよぎった。

(相手の脳に直接魔術でバイパスして脳に流れる信号を魔術に置き換えてみたんだけど――――)

 むにむに。

 ハンナは頬っぺたを触られても

 もみもみ。

 胸をもんでみても、起きることはなかった。

(ウン。成功してる)

 確信して――――ハンナをベッドに移し替えると、自分もベットに戻り横になる。

 この時、現代の知識が治療魔術にとって相性がものすごくいいことを凍太はまだ知らない。ごく自然に発想した構成もこの異世界にとっては何百年先に発見される水準であるということを。

 当の本人はそんなことはとうに忘れてはいて――――「脳の信号を書きかえればいいんじゃないか」と考えただけだったが、異世界では「脳」が信号を送っているとは解明されていない。

 後に――――ハンナは凍太の構成を見てこう語っている。

「天才ってホントにいるのよね。嫌になっちゃうわ」

 と。


 ▽▼▽▼


 リヴェリの街はローデリアの1/3程の規模だった。

 村と言うほどではないが、街と呼べるギリギリのライン上に在ると言っていい。

 ローデリアの整然と並んだ街並みとは程遠く、通りに並ぶ家は皆どことなく老朽化をしていた。

 街を歩く人たちもほとんどが人間で他種族の姿はごく少数。

 そんな街並みをゆっくりと歩きながらハンナと凍太はリヴェリの街の統治者の所へと向かう。統治者と言っても、実際は没落貴族だったが。

 ゴンゴン。

 扉をノックしながら、家の者を呼ぶと――――出てきたのはおっとりした感じのする女性だった。

「マデリーネ ・ベルクシュトレーム様にお目通りを願いたいのですけれど」

 ハンナは事前に持っていたメモを読み上げ要件を伝えた。

「はぁ。わたくしがマデリーネですけれど」

 なんともほんわりとした感じで目前の女性がマデリーネだと名乗ったのを聞いてハンナはすぐに先を続けた。

「ローデリアからの要請で、リヴェリの街で3か月の治療をすることになりました

『蛇の王国』所属のハンナ・キルペライネンと凍太です」

「あらあら。そうなの。連絡は貰っていたからもう少し先になると思っていたのだけど――――」

 マデリーネは扉を開けて、二人を中に入れ、客間へと案内した。

 少し大きめの邸宅だが、豪勢と言う感じではなく、一般の家がそのまま間取りを大きくした――――そんな感じを凍太は受けた。

「お一人でここにお住みなのですか?」

「ええ――――主人は7年前の革命戦争で亡くなりました」

「すいません」

「いいのよ。それにもうふっきれているもの――――」

 マデリーネはそういったがどことなく寂しそうな感じは出てしまっていた。

「それで、要請を受けてきたということだったのけれど――――その要請はローデリアから出たのかしら?」

「はい。ローデリア辺境府の治療行為を行う。ついてはリヴェリの街に向かうようにと」

「まぁ。ようやく申請が受理されたのね。良かったわ」

 マデリーネはうふふと喜んで見せた。

「ようやくと言うことは結構前から申請されていたんですね?」

「ええ。半年くらい前からよ?ここリヴェリの街を中心に病人と怪我人が多くって――――でも、ありがとう。やっと治療してあげられるのね」

 マデリーネはいいながらハンナに事の仔細を説明し始めた。

「まず、多いのが怪我人。これは盗賊に襲われたりしたのが原因。次に多いのが病人。軽い毒素を撒く獣がいてそれに中てられて――――体調を崩している人がいるわ。それに――――」

「魔物が出るのよ」

「はい?――――今なんと?」

「魔物よ。それも不死の」

「不死ですか?本当に?」

「ええ。街でお金を出して傭兵を雇って――――討伐隊を出したけれど――――」

「けれど―――討伐隊は呆気なくつぶされて、生き残った物が言うには、魔物には頭がなかったそうなの」

「頭がない。ですか?」

「おそらくデュラハンでしょうね。こんな街の近郊で見かけるなんてありえないことなんだけど――――」

 マデリーネはため息をついて見せた。

「デュラハンって怖いの?」

 凍太は興味本位で聞いてみると、

「怖いというか――――まぁ一種の幽霊みたいなもんだから。怖いとかそれ以前の問題かしらね」

 ハンナは困ったように頬を掻いた。

(まぁ、知らないわけじゃないさ。でも――――どんなもんだか見てみたいじゃないか)

 凍太は心の中でワクワクが止まらなかった。

 やっとメジャーなモンスターが出てきてくれたのだ。このさいしっかり見ておきたかった。

「普段は人里離れた廃墟や森の奥地にひっそりと住んでいるんだけれど、だいぶ近くまで出てきているみたいで・・・・そのせいか、近隣には腐乱した獣の死骸などが増えているそうよ」

「デュラハンが生気を吸った跡はあったのですか?」

「確認は出来ていないけど――――間違いないんじゃないかしら」

「まいったわね。治療は出来るけど――――デュラハンが相手じゃ少し面倒だわ」

 ハンナが困り顔になるのをみて凍太が手を上げた。

「どうしたの?おしっこなら、右手に在る扉の奥よ?」

 完全に子ども扱いしたマデリーネを無視して、続ける。

「どうして面倒なの?」

「うーんと――――理由はいくつかあるのだけれど、まずは相手が不死だという事。

 これは、切ったり、殴ったり、っていう物理の攻撃はあんまり聞かないの。相手には「痛覚」がないから」

「魔術は?」

「魔術で外傷を与えると中から、濃い毒素が噴き出て、周りを汚染してしまうの。そうすると毒素に侵された土地は人間の住めるところではなくなってしまうわ」

(どうしろってんだ?)

 凍太は胸中で毒づいて――――

(いや、まてよ)

 はたと、気が付く。

(傷つけるのが駄目ならその場にとどめておけばいいんじゃないか?)

 そして、それが――――人里から離れていればどうだろう?

「なにも、倒さなくていいんじゃないかな」

「?」

「つまりさ――――クマとおんなじでここから先は危ないんだって教えてやれば線引きが出来るじゃないのかな?」

「どうやって?」

「えっと――――まずは、デュラハンの住処近くで待機する。それから、なるべく人里から離れる様に囮となって誘導するんだ」

 凍太の頭の中にあるのは――――釣り野伏と足止めだった。

「それから?」

「誘導して、十分人里から離れたところで――――デュラハンの動きを止めてやればいいと思うんだ。氷でね」

「凍らせるつもり?」

「うん。湿気が多い状態なら――――十分凍らせて置ける筈だよ」

「期間は?」

「持って――――時計が二回りするくらいかなぁ」

「二回りかぁ。それじゃ短すぎるでしょう?」

「ううん。僕に何人かつけてくれれば、森の中で監視しておくよ。硬度が弱まったらもう一回上書きして凍らせる」

「1日12回くらい魔術をかけなおせばいいんだよ。その間、ハンナさんは治療に専念すればいいんだ」

「ご飯とかはどおするつもりなの?」

「あの――――ご飯くらいは私達で手配をしますが」

 ここでマデリーネが小さく手を上げた。

「ええ?でも――――依頼者にそこまでしてもらうわけには」

「やってもらおうよ?僕はテント住まいでいいからさ」

「そうです。わたくし共にも手伝わせていただけると、気負いもなくなります」

「人員はどうするんです?」

「街から候補者を募ります。何人くらい必要なのかしら?」

「伝令役で一人。日に往復する役で2人一組で朝、昼、晩、3組だから、6人。もしもの時を考えて10人もいればいいんじゃないかな」

「伝令役の人は交代制で半日ごとに町に戻ってもらえればいいし」

「そんな程度で良いの?」

「うん。こういうのは少ないほうがいいからね。基本的に足止めが最優先だから戦闘要員は僕一人でいい。足止めしたら持久戦になって、後は補給線を絶たせないことが重要だとおもうよ」

 補給が望める状態であれば――――怪物の一人くらいその場に凍りつかせておくくらい今の凍太には簡単なことだった。

 本当はハンナの近くで治療もしたかったが、敵に襲われるような状態では安心して治療は出来ない。いまのところ、デュラハンが一番の難題なのだ。これさえなんとかしてしまえば、解決できるという気持ちが凍太にはあった。

「そんなにうまく行くかしら」

 ハンナはまだ不安げだったが――――

「とりあえず、それでやってみましょう?駄目だったら他の手を考えればいいわ」

 マデリーネの一言でこの場は凍太の案が採用された。



 凍太の案が採用されて人員募集がリヴェリの街で開始された。

 公募内容は森の地理に詳しい者。そして簡単な料理が出来ることだった。

 食材はすぐにリヴェリの街からとりあえず一か月分の食材が確保され、残り2か月は「蛇の王国」へ食材の買い付けと人員の追加を行うという強化案が追加されることになった。

 凍太の持ちこたえるべき期間は1ヵ月。あとは食材と応援を待って治療行為を進めていくことになった。

 追加で要請する特務員は一組で治療行為をできる者と足止めを出来る魔術課の者。

 それに食堂から1名を派遣することが、蛇の王国から伝えられて早3日が立っていた。増援はまだ来ない。

「まぁネックは、氷雪系の得意な人があんまりいないってことよね」

「そうなの?」

「あら?知らないの?氷雪系は制御が難しくて、得意なのはあなたと、「凍土」サーシャ ・マルキノフと「吹雪」タチアナ ・ソコロフくらいね。

 ちなみに「凍土」とか「吹雪」なんて呼ばれてるけど、実力的には凍太くんより下だけどね」

 ハンナは笑って見せた。

「つまりさ。あんまりバックアップには期待できないってこと?」

「そういうこと。飽くまで補佐なのよ」

「ふーん」

「やっぱり、『氷帝』には頑張ってもらわないとね」

 そう言ってほほ笑むハンナの顔は凍太から見ても――――心底楽しそうに見えたのだった。

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