第39話 ワンサイド・ゲーム
「さぁ!2回戦はお待ちかね!我が王国の人外たちの登場だ!対するは――――去年の準優勝校!「西の大国」ローデリア魔導学院から!人外『ウォーレン教室』の生徒達!今年もおっかないのが揃っています!!」
会場の一角に設けられた解説席から、風の魔術に乗って解説役の声が鳴り響く。
さながら、古館〇郎のリングアナウンスのような暑苦しさだったが――――
会場もそれにあおられて、いっそうのヒートアップを見せた。
「「蛇の王国」のメンバー紹介だ! まずは『騎士課』の残虐王子!!今年も圧倒的な剣技が見れるのかぁ!! カレェール――――ノヴァーーク!」
―――――おおおおお!―――――
会場のあちこちから歓声とどよめきが沸き起こった。
「お次は!どんな傷でもたちまち回復!!「王国」の「治療役」と言ったらまず、この人を上げるでしょう! ハンナァーーーー・キルペラーーイネーーーン!!」
解説役が盛り上げると、ハンナのコールのあとに会場のあちらこちらから歓声が沸き上がる。
「お次は!『科機工課』よりの選抜です!!今回も新たな武器を引っ提げての登場!!今年はどんな戦いを見せてくれるのでしょうか?! 正直ワクワクが止まりません! エンリケ・グローーッソー!!」
エンリケはアナウンスを聞いて、愛銃を高々と掲げて見せる――――と会場は割れんばかりに拍手が鳴り響いた。
「そして!ここからはルーキー二人の登場です!まずは!『魔術課』のホープ!
『契約魔術』と『一般魔術』のハイブリッドを使いこなす秀才!
アナトリー・ヘイグラァーーム!」
歓声と割れんばかりの拍手と、時たま、罵声なども混じりながら――――そんな空気の中でアナトリーはまるで映画スターがするかのようにお辞儀をして見せた。
「さて!最後の一人を紹介しましょう!今回の超穴馬!若干七歳にして代表に選ばれた最終兵器!なんと、あのシシリー・マウセン導師のお弟子さんでもあります!
はたしてどんな戦いを見せてくれるのでしょうか!! ちっちゃな規格外!
凍太選手でっす!!」
会場の歓声が小さくなって、代わりにざわりざわりと――――動揺が走る。
が、一角からは、大きな歓声が上っているのが確認できて――――凍太は嬉しくなった。きっと、シシリーや皐月、ヴェロニカ達だろうと思ったから。
「よくやりました。偉いですよ。皐月」
「ははぁ!ありがたき幸せ!」
シシリーが、皐月を撫でる。と撫でられたまま皐月は満面の笑みを浮かべて見せた。
「やはり、凍太様の歓声が一番小さかったですね」
「まぁ、それも今だけの事。この試合が終わるころには喝采が沸き上がるでしょう」
ヴェロニカの少しだけ残念そうな声に、反するようにしてシシリーは笑う。
まるで、これからのことが分かっているかのように。
「さぁ・・・・とっくと凍太ちゃんの力に驚くといいわ。ふふふふ!」
「事実上の決勝戦よ。いいわね?」
選手の紹介が終わったのち、凍太達はグラウンドの端と端に整列を行っていた。
相手は去年の準優勝校である「ローデリア魔導学院」の規格外を集めて育てているエリート集団「ウォーレン教室」の面々である。
(ウォーレン教室・・・・確か、凍子さんの所属していたトコだ。ってことは、実力も凍子さん並にあるとみるべきだな)
凍太は黙考する。
母親が一時期通っていた教室の名が「ウォーレン教室」だったことを思い出して気を引き締める。同時に、最初からフルパワーで攻撃することに決めていた。
「ハンナはいつも通り、フラッグの守り。エンリケはフラッグに近づくヤツの排除だ。俺と凍太、アナトリーの三人で攻撃だ。いいな?」
「はい」
カレルの指示に凍太とアナトリーは頷いた。
「攻撃方法や攻め方は、お前らに任せる。きつくなったら無理せず下がってエンリケの「殺し間」まで引き込め。もちろん、倒せるならそれが一番いいがな」
整列が終わり、各自が戦闘態勢を整える中カレルは仲間全員に風の防御魔術を付与する。軽い攻撃なら風の力で狙いをそらしてくれる効果のあるものだった。
「危なくなったら塹壕の中に逃げろ。邪魔なやつは俺がコイツで打ち抜く」
エンリケは1メートルはありそうな大きな銃をポンポンと撫でて見せた。
「でぇは―――第二回戦!はじめ!!」
アナウンスの景気いい声が会場全体に響き渡った。
「飛べ」
開始の合図を同時に、ローデリアの選手が岩つぶてを成形し遠距離から飛ばした。
1つ1つが頭程の大きさで砲弾のような軌跡を描きながらグラウンドのあちこちに落下した。
「当たるなよ!お前ら!」
カレルが叫びながら前進する。凍太は氷壁でアナトリーも「契約魔術」で土壁を作りながら身を隠して前進した。が、ただ一人カレルは剣から作り出す風撃で前にせまる岩を粉々に砕いていった。
「ローデリアのアイザック選手が出した攻撃を、カレル選手がものともせず砕いて進んでおります!どうでしょうか?カルロッテ教師。」
「さすがローデリアの生徒ですね。これだけの岩つぶてを振らせるには絶えず魔力を生成する必要があり、結構な負担の筈ですよ。にしてもカレル君は流石の安定感ですね」
実況が御互いに意見を言い合う。一人は生徒で、もう一人は教師のカルロッテだった。
岩が降り続く中、凍太とアナトリーも壁に身を隠しながら、じわりじわりと前進をすると不意に岩つぶてが降りやんだ。
と――――今度は3人の生徒のうち二人の姿が見えなくなって、グラウンドの上から忽然と姿を消していた。
「おおっと・・・・ローデリアの選手が消えましたぁ!どこに行ったんでしょうか!」
「おそらく、隠形です。魔術で姿と気配を決して近づくつもりでしょう。さすが暗殺のウォーレンの愛弟子たちです」
グラウンドが実況を聞いて静まり返る。観客たちもことの成り行きをみまもっていた。
―――――ダァン
――――不意に一発の銃声が鳴り響く。と、アナトリーの後ろに一人の生徒の姿が現れた。肩を打ち抜かれているのかローブの一角は赤く染まっているのが見える。
「後ろよ!アナトリー!」
ハンナが叫ぶ。アナトリーは後ろを見下ろすとナイフを持った生徒が肩口を抑えてしゃがみ込んでいるのが目に入った。
「拘束せよ!」
ハンナがすかさず魔術で植物の蔦を地面から生やして相手を拘束し、
ダァン!
同じタイミングでエンリケが魔術弾で相手の肩口を貫き、相手を無効化する。
「ありがとう!ハンナさん!エンリケさん!」
アナトリーは叫ぶと、自分は持っていた杖に「飛翔」の魔術を掛けてその上に飛び乗って上空へと上がった。
アナトリーが上空に舞い上がると同時に観客席から歓声が、
「おおっと、アナトリー選手。上空に舞い上がりましたぁ!」
アナウンス席もヒートアップする。
「それにしても流石名門ローデリア!危ない攻撃でした!!さてぇ、他はどうなっているでしょうかぁ!」
再び、アナウンスの目がグラウンドの他の選手に戻される。
すると、やはりというべきか。カレル・ノヴァクの攻勢が始まるところだった。
凍太も動き出した。
「あ、動き出したでござる!」
「あらあら・・・・ものすごい速さねぇ。凍太ちゃん本気だわ」
皐月が指さす方向を見やると、凍太がものすごい速さでグラウンドを進んでいくのが見えた。同時にアナウンサーも気づいたのだろう再びの解説が飛んだ。
「おおお?何でしょうか?凍太選手!何やらものすごい速さで進んでおります!」
「――――おそらく空系の魔術です。足の裏につむじ風を起こして速力を倍速・・・
いや・・・3倍くらいに跳ね上げているはずですよ」
解説のカルロッテ教師が付け加えた。
同時に――――相手側も動き出す。
さきほどまで止んでいた岩つぶてを再び、振らせ始めたのだ。が、これにはアナトリーが対応した。
上空から雷を無数に振らせて岩つぶてを迎撃し始めたのである。
結果、岩つぶては雷に焼き尽くされて地面には落ちて来ることはなくなった。
が、相手も馬鹿ではない。岩つぶてが無効化されたとなれば別の手で来るのはどおりだった。
ローデリアのポールフラッグを守っていた生徒が魔石を地中に埋め込み短く詠唱を行う。と2体の人型ゴーレムが凍太の前に立ちふさがった。全長は3メートル程の大きさがある。
ゴーレムは凍太の前に立ちふさがると、腕を叩きつけるようにして攻撃を繰り出した。
ブォン――――
風切り音が鳴ってものすごい速度で向かってくるゴーレムの腕を避けながら、凍太は立ち止まり、バックステップをしながら魔力を練り上げて―――――高密度で生成した酸素をつくりだし、その中へ火種を出現させて
「吹っ飛べ」
――――爆砕した。
ドォォォン!
爆破音が響きゴーレムの腕が粉々に飛び散った。続けて爆破音が4回、5回と鳴り響いてゴーレムの出現したあたりが、土煙に覆われた。
土煙が晴れると――――ゴーレムのうち1体は魔石共々粉々に砕かれてただの土塊に代わっている。
――――おおおおお
ゴーレムが爆砕されているのが確認できると観客席から割れんばかりの歓声が沸き起こった。まるで会場全体が叫んでいるかのような――――おおおお―――――という声のなか、解説も負けまいと声を張り上げた。
「ローデリアのゴーレムにも驚きましたが―――それを凍太選手、爆破によって粉々にしてしまいました!ゴーレムは魔石ごと砕かれたのでしょうか!跡形もありませぇぇん!!」
「ものすごい威力です。あんなものを至近距離で何発も打たれれば、さすがにゴーレムと言えど一たまりもありません」
「おお。やるものですね!」
雪乃は試合を観客席で見ながら喜んでいた。
「凍太ぁぁ――――いけぇーーーー!やっちゃえーーー」
隣では凍子が酒ビンを持ったまま、相当に出来上がって気分が良さそうに叫んでいた。
「王国にいれたのは間違いだったのでしょうか・・・・しばらく見ないうちに凶悪な威力になっていますが」
紗枝は頭痛がするのかこめかみを抑えてつぶやきを漏らした。
「なんの。あんなもんウェルデンベルグの『ジジイ』に比べたらまだまだですよ。ほっほ」
雪乃は焼かれた鶏肉のモモをがぶりと食べながら、嬉しそうに笑った。
(まぁ・・・・シシリーの教育があっての事なんでしょうがね・・・)
またいらぬ知恵を自分の孫に教えたのだろうと考えたがここでは言わないことにした。
「なんですかありゃあ・・・・攻城兵器並じゃないっすか・・・」
1回戦を終えたヘイルダムたちが後ろの空席に座りながら凍太の爆破を見て、渋面を作る。
「まぁ、そうね。投石器で城壁をぶち抜かれるのと、爆発でぶち抜かれるのと大差ないわね」
隣ではミサが「いやんなっちゃう」とぼやきながら試合を見つめていた。
実力の差があり過ぎて策を弄するどころではない。弄したところで全力の魔術の前には押しつぶされて終わりだからだ。
「アタシはさっきの雷がすごかったなー!ねー。アリアナ?」
「うん!全部岩つぶてが無くなったもんね?」
「そうそう!」
ヘイルダムの後ろではリリアナ、アリアナ姉妹がきゃいきゃいと騒いでいる。そして
イリスは凍太の雄姿に声もなく感動していた。
「2回戦は月狼国魔導学院でしたね?」
「はい」
「あそこも昔から出てきている名門です。いい戦いを期待していますよ」
雪乃が振り返らずにエールを送る。そのエールに答える様に生徒たちは大きく返事をした。
凍太の目標はすぐ横のゴーレムへと移った。
攻勢を掛けるべく、魔力を練り上げて、氷雪系の魔術で「檻」を作ってゴーレムを閉じ込めるイメージを一瞬で想像して――――
「アイアン・メイデン!」
発生すると同時に、魔術を発動させた。
まずはゴーレムの足元が一面凍り付く。そのあとは格子が真っすぐ上へと伸びてゴーレムの頭上ですべての格子が結合し、鳥かごに似た縦長の氷檻を作り上げた。
まだ変化は終わらなかった。
氷檻が作られた後でゴーレムに向かって氷柱が無数に突き刺さる。
上下、左右はもちろんのこと、あらゆる方向から中心に向かって氷柱がゴーレムへと突き刺さり――――ゴーレムの体を壊していった。
「おおっと――――これは凄い!凍太選手2体目のゴーレムを氷で閉じ込め、さらにさらに、ゴーレムを氷の針が何度も突き刺しております!これは恐ろしい針地獄であります!」
「あんな技を隠し持ってたのか」
エンリケはポールフラッグの前に銃を構えてスコープをのぞき込みながら、冷や汗を流した。後では、ハンナが周囲の警戒を行いながらエンリケと同様に戦慄している。
「あんなの人間相手に使われてみなさい。一瞬で串刺しだわ。本人に悪意はないんでしょうけど・・・・」
困ったようにつぶやく。あとでそれとなく言ってみようかとも思うが、本人の気勢を削ぐのもよくない。
一方のカレルはローデリアの生徒の2人と剣を交えていたし、アナトリーも岩つぶてを飛ばした生徒に攻撃を仕掛けている。
どちらもエンリケの報告によれば心配はいらないとの事だった。そこに後から凍太が追い付きポールフラッグを守る生徒と対峙すれば良い。ハンナとエンリケの考えは同じだった。
剣と剣が交差して何度も火花が散っていた。
ローデリアの生徒二人を相手取りながら彼――――カレル・ノヴァクはほぼ魔術を使わずに凌ぎきっていた。
ギィン。ガン。ギィン。と甲高い音と相手の動きをけん制するために時折、火球を作り出し相手の足元を狙って打ち込む。すると避ける相手は距離を取り、またカレルが攻めを繰り出すという動きを何度も繰り返していて――――さながらダンスでも踊っているかのような感じさえする。
「くそがぁ!」
相手の一人が長剣を突きに来たところを交わし、もう一人の斬撃を剣で止めて――――代わりに当て身を食らわせ、後退させた。
「ふふん。去年よりも長続きするようになったじゃないか?ピート」
二人のうち男の方にカレルはにたりと笑って言った。
「今年は勝つ。ウォーレン先生にそのために扱かれたんだからな!」
「そうよ!今年勝つのは私たちローデリアなんだから・・・・!」
ピートの隣では一人の女が長剣を正眼に構えながら続けた。
「ふぅん?この僕に二人掛りでやっとなのにかい?」
カレルは胡散臭そうに馬鹿にした。
「なんだったら――――あのおちびちゃんを狙ったっていいんだぜ?」
ピートは凍太を狙うぞ――――と脅しをかけた。が
「ご自由に。ただ、僕の相手をしていた方が「万倍」ましだとは思うよ。それに――――そろそろ時間だ」
そう言った時だった。
ガァァン――――
ピートの隣で金属音が――――鳴った。次の習慣には「かっふ・・・!」と口から血を吐くクラスメイトの姿が映る。
「な――――!」
なんだと と言おうとして言えない。あまりの状況にピートの頭の中は混乱していた。
(どこから攻撃された・・・?魔術か?)
分からない。が一先ずカレルをどうにかせねばならない状況に変わりはなかった。
「エミリア!動けるか!?動けるようならいったん後退しろ!」
指示だけを倒れた仲間に投げると――――腹を抑えたまま地面に伏したままのエミリアは頷いて、いったん後ろへ下がるべく、身を翻したその時に
――――タァン!
と一発の銃声が再度なりびくのが聞こえて――――今度はエミリアが腿を打ち抜かれて悲鳴を上げた。
「銃か!エンリケだな!」
「ご名答さ。今年の新兵器はグラウンドの端まで届く新兵器らしい。動きも丸見えだから今みたいに後ろ向きで逃げたりすると――――危険だよ?どうする?降参するかな?」
カレルは笑って見せる。エンリケが次の弾を装填するまではまだ時間がかかるが狙っていることには変わりない。ピートの動きはエンリケにもスコープ越しにしっかりと見えているに違いない。自分がピートを倒しても、エンリケが倒しても変わりはない。一人の騎士としては――――戦って倒したいという欲もあったが――――
今は試合に勝つことが重要なのだから、と気持ちを切り替えた。
ルール上相手を殺してしまうのはいけない事になっている。が、殺しさせしなければ重傷であっても違反ではない。
エンリケが相手の頭を狙わずに腹や足、腕などを狙うのは殺さずに無効化をするそのためで決して狙えないわけではない。むしろエンリケは頭を狙う方がやりやすいとも言っている。
「さぁどうする?このまま突っ立っていると、エンリケにやられるぞ?」
「雷よ!剣に宿れ!」
ピートが我慢の限界を超えたのだろう――――剣に雷を纏わせる魔術を使用した。
剣に紫電が走り帯電する。これなら剣を振ることで距離を取って攻撃することが出来た。
「いいじゃないか。決闘と行こう」
カレルも剣を構えなおして、剣に風を纏わせ、一度振って見せるとピートの横の地面がざっくりと裂けた。
「カレル選手とピート選手がにらみ合っております!去年もあったこの対決!果たして今年はどうなるのでしょうかぁぁ?」
解説が声を張り上げる。と同時にピートとカレルは攻撃を開始し始めた。
御互いに距離を取って電撃と風撃を連続で叩き込む様は毎年行われることの一つで
大会の目玉にもなっていた。
一方そのころ、アナトリーは岩つぶてを飛ばしたアイザックと対峙していた。
「凄い魔力量だ。さすがローデリアだな」
「ふん。だったら早く降参したらどうだ?」
アナトリーが魔力量をほめると、アイザックはそれを魔術の光弾を打って返答した。
「それは出来ないね!僕だって選抜で選ばれた身だし、そう簡単に負けないさ!」
アナトリーも杖を振って、先から魔術の雷電を相手に向けて飛ばした。
光弾と雷電が途中で弾けて飛び、爆風が舞う。
暫く、そんな攻撃を続けた後で、息切れを始めたのはアイザックの方だった。
(やっぱりだ・・・始まってから魔力を相当消費して・・・生成している体の方にも疲れが出始めている。このまま、休まずに撃てば――――勝てる)
アナトリーは確信した。
相手の姿を魔力の生成による疲労と見て取ったアナトリーはこのまま、雷撃を打ち込むことにした。
心を極めて大気中の魔素から魔力への変換を始める。すでにアナトリーも備蓄していた魔力量の多くを使っているために変換しながら魔術を行使する必要があった。
自分の体力も相当に消耗するが――――
(相手を消耗させる。それしか道はない)
「雷電よ!ほとばしれ!」
アナトリーは命令を発声し、魔術を行使し続けた。
「アナトリー選手!アイザック選手!両者ともに打ち合っています!魔術の乱打戦です!どう見ますか?!カルロッテ教師?」
「魔力を変換できる量と速度が重要になります。これはお互いに辛い筈です。さきに息切れを起こした方が負けると言っていいでしょうね」
カルロッテ教師が冷静に解説を行う。それを聞いた実況役はまた声を張り上げた。
「解説ありがとうございます!さて――――おやどうやらハンナ選手が動き始める模様です!」
実況役のいうとおり、「王国」側の守備を任されていたハンナがグラウンドの半ばにある塹壕前まで歩みを進めていた。
魔術ローブの上に白衣を着てさらにその上から代表者を現す青いケープを肩掛けにして、手には大きな鋼鉄製の錫杖を持って。
「さぁ。回復の時間よ」
グラウンドの選手に道をつなぐようにして認識を開始。意識をリンクさせる。同時に
構築していた広範囲用の魔術術式を一気に展開し、起動させた。
シャリンっ
錫杖を一度鳴らす。そして――――
「
大きな魔力を「王国」の各選手に流し込む。それが
たちまちのうちに、「王国」側の選手を柔らかい光が包み込んで、発光するのが見える。
「ハンナ選手の広範囲治療術式――――
実況ががなり上げるのを聞きながら――――カレル・ノヴァクは魔力の回復を感じていた。
前に対峙しているピートは疲弊が激しいようすで、既に雷撃も尽き始め、防戦一方に回っている有様だった。そこに来て今度は、ハンナの魔力が各人に供給されるという駄目押しの一手が打たれて、ローデリアの旗色は一気に悪くなった。
「く・・・・!」
カレルの剣技を何とかしのいでいるピートも、アナトリーと乱打戦を繰り広げるアイザックもすでに息が上がっている。あと動けそうなのは、ポールフラッグを守る選手だけだった。が、これも凍太が正面から攻撃を仕掛けようとしていた。
(さぁ、一番おいしいとこをくれてやろうじゃないか。しっかり決めて見せろよ?ルーキー)
カレルは攻撃を加えながら、遠目に映る凍太を見やった。
大方、凍太の実力なら、すぐに勝ちは決まる。その確信がカレルにはあった。
ハンナもそれが分かっていたのだろう。だから、回復だけを行って「戦術的な指示」は一切行わなかったのだ。例年であれば、ハンナの指示のもとで相手の守りを突き崩す戦術を「王国」は見せる筈だった。が――――今年はアナトリーと凍太の加入で
もっと「王道」などっしりとしたワンサイド・ゲームが展開でき、より安定感を増す結果になった。
凍太はポールフラッグを守る選手の前で立礼から――――
(後はこのひとを倒すだけだ。なら――――)
構えを取る。いつもの半身のL字スタンスだった。
(確実に決めるために、一番信頼できる方法で取る!)
一番信頼できる方法とは、やはり
「何のつもりだ?魔術は撃ってこないつもりか?」
ローデリアの生徒は凍太の立礼と構えにいぶかしんで質問を投げる。
「一番確実なやり方で勝負させて貰う。だから「礼」と「構え」を取った」
「ふん。随分と舐められたもんだ。お前のような子供に、俺たち「ウォーレン教室」が「技」で挑まれるとはな」
ローデリアの生徒は着ていたマントを脱ぎ棄てると――――下からナイフを逆手にして構えて見せた。年のころは15、6歳の少年だった。髪の毛は赤毛がかった茶色。
背丈は凍太よりも高く、150センチくらいはあるだろう。マントを脱ぎ棄てた印象はかなり鍛えられた体をしているという事が凍太の警戒感を強くした。
「炎よ!」
ローデリアの選手は一撃目に火球を放ってきた。が――――避けるまでもない。
扇で迎撃をすればいいだけことだ。扇にはここに来るまでの間にあらかじめ風撃の魔術を施してあり、大方の魔術はそれで弾き、そらすことが出来る為だった。
ストレートを出すようにして扇で火球を迎撃すると――――風撃の魔術の効果で火球が自分の横へそれて流れていき――――やがて地面にぶつかって炎上した。
相手もそれくらいは見越していたのだろう。体を横に移動させて側面から貫き手でひっかくように目打ちを仕掛けてくるが――――凍太はこれをスウェ―バックで躱し、返す攻撃で相手の伸びきった腕を下から蹴り足で触れると同時に凍らせた。
「!」
流石に驚いたのか相手は凍らされた肘をおろして、逆手で頭上からナイフを振らせた。が
「風よ!」
凍太はこれも頭上に風で壁を作って受け止めた。
今度は相手が膝で凍太の頭を狙って攻撃するが、これは横から半月蹴りを使って軌道をずらして迎撃した後に半回転して横蹴りを相手の腹へ入れてやった。
「くふっ」
相手の口から息が漏れるのを聞きながら―――上げた足を着地させて軸足にして反対の足でハイキックをジャンプしながら叩き付ける。
ガードはされるが腕に何かで割かれたような傷跡が走り肩口から血が噴き出すのが見えた。
「風の魔術で切れ味を増して在るから。たぶん大きく避けないと切れると思うよ?」
着地して再び構えを取りながら――――凍太は種明かしをした。
みれば、腹も防具があったから切れずに済んでいたのだろうが、切り傷のような跡があるのが確認できた。
攻撃を叩き落とされた膝からも、痛みが伝わって来ている。
(くそ。油断した。狙いは接近戦。それも俺の攻撃に対してのカウンターで傷を負わせることだったのか・・・・)
膝は傷を負って、いう事を聞きそうにない。片肘は凍り付いたままだし、ガードに使った腕も裂けて血が出ている。が――――
「まだだ。爆ぜろ!」
今度は相手の魔力が膨れ上がり、構成が頭をよぎった。瞬間。
小規模な爆発が凍太の目の前で起こった。
爆風と熱と炎が膨れ上がり、両者を吹き飛ばす。が――――凍太は冷気を放出して威力を弱めることに成功した。が、相手はそのまま吹き飛び地面に倒れたままで動かなくなっていた。
急いで迎撃の為に駆け寄り――――状態を確認するとまだ息はあるようで咳き込みながら倒れたままの格好で動けない様だった。
凍太は、もう守る相手がいない、地面に立てられたポールフラッグを手に取って掲げて見せる――――と、会場から割れんばかりの拍手と喝采が巻き起こった。同時に
「凍太選手!ポールフラッグを奪取しました!これにより「蛇の王国」の3回戦進出が決定いたしましたぁぁぁ!!」
実況が叫び声をあげているのを凍太はポールフラッグを振りながら聞いていた。
「3回戦進出を祝って――――」
「かんぱーい!!」
夜になって凍太達5人は蛇の王国主催の歓迎パーティーに招待されていた。
場所は「魔女の帽子亭」で店の中は学園の関係者と試合を見た観客で溢れかえっていた。
「すごかったなー。凍太つーのか?あの子?あの「ウォーレン教室」に「体技」で勝つとは・・・おどれぇたね」
「あのアナトリーって子もよく耐えたな。あの子が居なかったら厳しかったかもしれんぜ?」
皆口々に試合の感想を語ってはうまそうに酒を飲み、騒いでいる。
特に喧騒がひどいのは店カウンター席で、そこにはハンナを含めたメンバー5人が店主から歓待を受けていた。
「いやぁ!よくやったよ!あんたたち!!あのローデリアの「ウォーレン教室」によく勝った!きょうは学園からのお金が出ているからね。たんと食べておくれよ!」
店の主人である*****は気前のよい女主人だった。これでも若いころは名の知れた魔女だったようでそのころの写真が残ってはいるが、今とはだいぶ違った感じになっていた。
「特にアナトリーと凍太ちゃん!あんたらは凄かったよ?よく頑張ったね」
「ありがとうございます」
二人とも食べ物を受け取りながら、賛辞を浴びて照れ笑いを浮かべて見せる。
「カレルもハンナもエンリケも、実にどっしりしたいい試合運びだったよ?とくにエンリケ。あんたの新兵器は凄いじゃないのさ」
「そうか?こいつは「科機工」みんなで作り上げたモンだ。俺だけの手柄じゃないさ」
エンリケはそういうと酒を煽った。
店の奥からはその光景を見ていた「科機工課」のメンバーが歓声をあげている。
「おばちゃん。もう一杯。お酒くれるかしら?」
「はいよ。ハンナもあんなに良い魔術が使える様になったんだね。ちっちゃいころから見てて、だいぶ成長したねぇ」
「ふふ。あの技結構疲れるのよ?前衛が食い止めてくれたからできたようなもんね」
「ああ、そうさ。僕が時間を稼いだのが良かったんだ」
カレルが芋を食べながら、悪びれもせずに言うと、今度はカレルの後ろあたりで酒を飲んでいた「騎士課」のメンバーが「そうだそうだ」とはやし立てる。
「でも――――凍太ちゃんのあの魔術「アイアン・メイデン」はすごかったねぇ!
どこで覚えたんだい?」
女主人が聞いてくるのを凍太は、お母さんから習ったんだとだけ言って奥にとどめておいた。本当は全くのオリジナルだがいろいろ詮索されるのは避けたいところではある。が――――とたんにハンナが口を挟んできた。
「あの技は危険だわ。なのでわたしハンナ・キルぺライネンがぁ禁止しまーす!」
酒に酔っているのか、あははは と笑いながら凍太に抱き着いた。
「くるしいよ。離してよ。」
「だーめ。離してあげませぇん。これはお仕置きです。あんな危険な術式なんか使ったら人間は一発で死んじゃうわよ?死んじゃったらいくら私でも直せないんだからぁ!」
抱き着きながらぷーと頬っぺたを膨らませる姿に「医療課」のメンバーと広報のメンバーが「かわいい」と声を上げた。
「ははは!ハンナがそうなっちまったらお手上げさ。諦めるんだね」
女主人が自分でも酒を飲みながら、笑って行ってくるのを、凍太はハンナに抱き着かれたままでおとなしく聞いているほかはなさそうだった。
明日は準決勝戦、及び決勝戦が行われる予定だった。
現状で残っているのは、「蛇の王国」「雪花国魔術教導院」「月狼国魔導学院」「ヒュプテル魔術学校」の4校だった。
このうち「雪花国魔術教導院」と「ヒュプテル魔術学校」が、「蛇の王国」と「月狼国魔導学院」が準決勝で対決する。
月狼国魔導学院は1回戦、2回戦を大差で勝ち進んでいたらしい。と先ほどから店の中で評判になっている程だった。
(負けるわけにはいかない・・・)
相手がどれだけ強かろうと、負けてしまうわけにはいかない。
凍太は決意を新たにしながら――――再びハンナを引きはがそうと必死になるのだった。
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