第40話 狐娘再び
次の朝――――昨日のだるさが抜けきらない凍太は一足先に寝床を抜け出し、一人で学園の中にある大浴場へと向かおうとして、出来ずにいた。
昨日の都市間交流戦の活躍を見た街の住人がシシリーの邸宅前へと押し寄せ、生で凍太の顔を見ようと出待ちをしていたからである。
―――――ぱたん。
凍太はドアをいったん開けて、あまりの人の多さにびっくりして、再び何事もなかったかのようにドアをそっと閉じた。
(見間違いだろう)
再びドアを開ける――――と、今度は歓声が沸き起こって凍太は迎えられた。
(なんだこれは)
ドアの間近まで詰め寄る人々に圧倒されながら、口をポカンとあけていた凍太だったが、人ごみの中に皐月とミライザを見つけて少しほっとした気分になった。
「皐月。何の騒ぎなのこれ?」
「何って・・・・凍太殿の出待ちでござるが・・・・」
「さっすが師匠ですにゃあ。すごい人気です!」
皐月は大変でござるな、と凍太に苦笑いをし、ミライザは師匠の人気ぶりが大変気に入ったようにはしゃいでいた。
周りから視線が降り注ぐのを感じながら皐月とミライザを伴って前へ進みだすと――――まるでモーゼのように人ごみが割れて行った。
(おお・・・・!こりゃあ凄いな)
人混みが勝手に割れていくのを少し楽しみながら前に進む。と途端に人ごみの中に一人の人物が立ちふさがった。
狐の耳と三股に割れた狐の尻尾を持った少女。
今日の対戦予定になっている月狼国魔導学院の選手の一人でもある「鳳麗華」《ファン・リーファ》に間違いなかった。
「朝からずいぶんな人気ねぇ?凍太」
「―――――でたな。性悪狐女」
「だれが、性悪なのよ!ちゃんと鳳麗華様と呼んだら?」
「いやだね。お前なんか性悪狐女で十分だ」
「なぁんですってぇ!」
ぼわ―――と三俣の尻尾を逆立たせて怒りを表す麗華に対して、なぜか皐月が剣呑な雰囲気を醸し出していた。が――――
「おやめなさい」
ふいに後ろから掛けられたシシリーの言葉で麗華と皐月の雰囲気が鎮まっていくのが分かった。
「喧嘩はそこまで。お嬢さんも凍太ちゃんに言いたいことがあるでしょうけれど――――本戦で決着を付けたらいいわ?どうかしら」
シシリーはほんわかした雰囲気のまま、麗華を挑発して見せた。
「ふん!元からそのつもりよ!見てらっしゃい!今日はコテンパンにしてやるわ!」
指を差して麗華は――――まるでホームラン宣言のように高々と言って見せる。
「――――分かった。全力で戦うよ。手加減はしないからな」
自分で語気が強くなることを感じながら、凍太も応じる様に返答を返す。と―――
周りから歓声が上がる。
「会場であいましょう?ではごきげんよう」
麗華はそう言うと――――踵を返して、人ごみの中へと消えて行った。
「さぁ!本日の1試合目!!月狼国魔導学院 対 蛇の王国!!まずは――――選手の紹介からぁ――――」
会場は始終歓声が響き渡っていた。
「月狼国魔導学院、一人目は前年度に引き続いての出場です!司ーーー
観客席から歓声が大きくなる。
背は小柄で140cmくらいだろうが体つきは細く絞まっている。
「続いては、今大会初出場です!いったいどんな戦いを見せてくれるのでしょうか――――順
司の隣に並んでいた大柄な女子がこれまた大きな弓を持って礼をした。
背丈が170cmはある。持っている弓も大きく彼女の背丈と同じほども有るモノだった。
「3人目は――――月狼国魔導学院の秘蔵っ子!ハンナ選手と対を成すほどの治療魔術の使い手でもあります!!「天女」花
―――――おおおおお
会場が花の紹介がされると同時に大きく歓声があがる。
花は女性用の漢服に身を包み上からは月狼国魔導学院指定のローブを手には仙人が持つような曲がりくねった杖を持っていた。
「天女」と言われるだけあって、容姿は美しい。長い黒髪に上から髪飾りを付けていた。
「四人目の選手も侮れません!月狼国魔導学院の防御の要を務めます。
玉
玉は一歩前に進み出ると大きく礼をしてから元の位置へと戻る。
年の頃は15、6くらいの少女で頭には猫族であることを表す猫耳がピンと立っていた。
「そして――――月狼国魔導学院の最後の選手の紹介になります!今大会から初出場。前情報から蛇の王国の凍太選手と因縁があるとの噂を聞きつけております!
麗華も女性用漢服を身に着け、上からは学校指定のローブ姿だった。
手には長剣を下げている。
麗華が軽くお辞儀をすると、観客席からは歓声が上がった。
「へぇ・・・・月狼国魔導学院はやっぱり今年も女だけで構成してきたか」
「ああ、ここ数年女ばかりで組んでくるからな・・・・やり難いったらないな」
カレルが並びながら呟くと、隣にいたエンリケがボヤキを漏らす。
「そうかしら?アタシはそうでもないけど?」
ひょうひょうと真ん中に立つのはハンナ。隣にはアナトリーと凍太が続いていた。
「そろそろ、こっちの紹介がはじまるわね」
ハンナの予想通り、実況が選手紹介を始める。蛇の王国側の選手たちは前と同じように一人づつ一歩前にでてお辞儀をして見せる。
凍太の紹介がおわったところで―――――ポールフラッグに各都市の旗が掲げられて
各選手が指定の位置に散らばると実況が「始め」の号令を掛けた。
月狼国魔導学院の攻撃スタイルは回復というバックアップがあるからこそできる個人技主体の戦法といっていい。各個人が攻めあがるのを「天女」花
ポールフラッグの防御は手薄になるが全員で攻め込み、常に相手の陣地内で決着をつけるという試合運びの為か、防御面はあまり気にされてはいない様だった。
「各個人での力量がモノを言う試合になるわ。エンリケは弓の相手を。カレルは連剣使いをお願い。アナトリー君とアタシで「天女」の相手をするわ。凍太クンは因縁の相手をお願いね」
自陣を開けるような格好で各人が配置につく。
左サイド側が凍太。右サイド側にカレル。中央にエンリケ。ハンナ。アナトリー。
「誰か一人を倒せばそこを突けるわ。相手側も条件は同じ。後の試合はないわ。温存はいらない。全力をだしなさい。いいわね!!」
ハンナの激が飛ぶ。全員が大きく頷いた。
「月狼国魔導学院!動き始めましたぁ!例年と同じように――――全員で駆け上がっていきまぁす!」
実況流れる中、目の前から段々と月狼国魔導学院の選手が近づいてくるのが確認できる。両校ともに最初に動きを見せたのは長距離を得意とする者たちだった。
エンリケが銃を構えて、相手側は弓を大きく引き絞った。
ダァン!
銃声が鳴り響く。と同時にエンリケの弾は相手の「天女」を狙い、相手の矢はハンナに向かって飛んで行った。
「イル・カウンテ!」
アナトリーが魔術の矢を発生させて相手の矢を相殺する。相手側も魔術弾を相殺したのか「天女」は悠然と歩を進めていた。
「次弾装填。いそいで!」
「装填済みだ」
エンリケが静かに言うと、次の弾を発射した。
カレルと
「やっと会えたわ!あの時の恨みを晴らさしてもらうわよ!!覚悟なさい!!」
「恨みってなんだよ!?悪いのはそっちだろ!!」
グラウンドの左側で対峙しながら魔術を打ち合う凍太と麗華。若干七歳の子供が喧嘩している絵面に見えたが、実際は火力と火力のぶつかり合いだった。
麗華が放つ大きな火球の連弾を躱し、
爆風と熱気が御互いの体を打ち付けるが、ひるんだ様子は見られない。どころか。
「随分と火の扱いがうまいじゃない!!でも、まだまだ!!」
とさらに麗華は火球の連弾の発射サイクルを上げた。
「
(なんて火力だ・・・それにサイクルも速い!)
凌ぎきれなくなった一発が体に当たる直前で横へとそれる。カレルの掛けた「風の加護」の影響だった。
(助かった・・・!)
喜んだのもつかの間、凍太は足の裏につむじ風を展開し移動を速めるとグラウンドをすべる様に3倍速で動き出した。
『相手の攻撃を避けるためにはフットワーク。それもある程度の距離が必要なんやで』
不意にテコンドーを教えてくれていた師範の言葉が頭の中に蘇る。それを実行するための空系の魔術だった。
「凍太選手。いったん距離を置き始めましたぁ!さすがの鳳選手も速さに手間取っている様子です!!」
「これでは、あいてもしばらくは手を止めざる得ませんね。考えたものです」
カルロッテ教師がつぶやく。
実際に麗華は速さに手間取り火球の連弾を打てない状態になった。
打つ前の照準を合わすための目視さえも気を抜けば見失いそうな早さなのだから。
(なんでこんなに速いのよ!)
胸中で毒づく。牽制で火球を放ってみても凍太には軽々と避けられていることに歯ぎしりが止まらない。
その時だった――――
「麗華。落ち着きなさい。今から相手の魔力に干渉して奪うわ?その隙を狙いなさい」
静かに後ろから指示が飛ぶ。玉
「天女」が杖をグラウンドにトンっと軽く打ち付け、空間にに魔力に干渉する力場が形成される。狙いは凍太で一本のバイパスが通るようなイメージが周りの選手にも伝わった。
「噛みつきなさい」
「天女」が言うと同時に凍太の肩口に何かが噛みつくような痛みが走る。そして力が抜け始めるのを感じた。
(何だ?魔力が抜けてく?いや・・・・吸われてる!)
魔力がバイパスを通って「天女」に流れ込むのをイメージで視認する。
「凍太クン!魔力を生成し続けなさい!いま無効化するから!」
ハンナが後ろから叫ぶのが聞こえ――――直後に魔術の構成が見え、発動した。
バイパスが何かによって切れるのが分かる。凍太の魔力が戻ろうとした瞬間だった。
「捉えたわ!」
麗華が叫び――――火球が二発凍太へ飛来する。――――
ドォンと言う爆発音がとどろき。土埃が待って――――姿を現したのは大きな氷柱の集合体だった。
「やるじゃない!」
直前に地面から生えた何本もの棘上の氷柱が壁となって火球をさえぎったのを後ろから見ていたハンナが歓声を上げた。
同時に後ろからアナトリーの雷撃が直線状に飛んで麗華と「天女」を打った。
凍太は下がるどころか――――逆にアナトリーの雷撃に乗じる様にして前へと走り込む。雷撃を食らっていた麗華は反応が遅れて――――凍太の迎撃をすることが出来ない。
「吹き飛べ!」
気づいた時には凍太の爆裂の魔術が発動して――――麗華の体を空中に飛ばすことになった。飛ばされながら麗華は歯を食いしばって意識を保つと姿勢制御の為に空中に自分を受け止めるために――――「止まれ!」――――風で網を造り受け止めた。
「くぅ!!」
地面に着地したままふらつく身体を起き上がらせる麗華に「天女」が治療魔術を前方から掛け始めた。
「癒せ」
魔術発動が始まり、自分の体が癒えていくのが分かる。擦りむいていた傷や、爆風と熱風で出来た火傷も痛さが引いていくのが感じられた。
「ものすごい爆発でしたが、惜しくも戦闘不能にはなっていません!!やはり「天女」花
一進一退の攻防が左サイドで行われるさなか、右サイドではカレル・ノヴァクが二刀使いを相手に防戦に回っていた。
「カレル選手!
「ええ。非常にレアな光景ですね・・・・
カルロッテ教師の解説の通り、別々に襲ってくる二刀の攻撃はカレルを防戦に回らせていた。しかし、カレルは傷らしい傷は受けていないし、時折相手に切り込む回数が増えつつあった。
カレルの剣が喉元を通りすぎるのを
(凄い。ワクワクする)
胸中で楽しむ自分も感じ始めていた。
実際、月狼国魔導学院内部でも
幼いころからの鍛錬もあって学院内で
しかし、都市間交流戦の本戦。それも自分と互角の相手に
「ねぇ・・・まだ全力じゃないんでしょ?」
剣を合わせるたびに相手がどんな力量なのかが分かって――――
「だとしたら?」
カレルは剣を構えずにおろしたままで答える。
「見せてみてよ。あなたの全力」
剣先から剣風が巻き起こり、カレルに風刃として到達する。
魔力を連剣に込めて振るうことで、リーチの長い攻撃を可能にする
「イイじゃないか・・・・こちらも返すとしようか」
カレルも剣に魔力を込めて風刃を二発――――
「全く。困ったもんだ」
順
魔術で空気抵抗を減らし、風の魔術で貫通力を増した矢は最近出回り始めた銃よりもよほど性能が高いことを順
が――――今目の前にいる銃使いの持つ銃は
一般的に最近出回り始めた銃は高価で主にローデリアの近衛隊しか持っていないこと。そして、その近衛隊が持つ銃も銃の発射口から弾を入れる「先込め式」を採用していることで発射はそう早くないことも知っていた。
だが、今戦っている相手は慣れた手つきでとても先込め式とは思えない速さで選手を狙っている。
(新型か・・・?)
蛇の王国には科機工課と呼ばれる新技術を開発、製造していく学舎があると聞いていたが――――まさか新型銃まで製造しているとは思っていもいなかった。
世界のどの国家や都市もまだ「弓矢」「弩」などが全盛で、銃を使う者はごく少数の金持ちのモノなのだ。
「なんて練度と速さだい・・・!」
仲間に放たれる弾丸を阻止するために当初のプランを変更し、直接、相手に矢を飛ばし相手を邪魔することで仲間を攻撃させないようにとするのが精いっぱいになった。
相手は矢に当たらぬように位置を変えることに注力してはいるが合間をぬって構え―――また動く。銃口は仲間の「天女」を狙い続けていた。
まだ幼い麗華を援護してやりたかったが――――間断なく打たなくては「天女」がやられてしまう。
もし「天女」が攻撃をくらいでもしたら、一気に崩れる可能性があることを
相手側の要「ハンナ・キルペライネン」を守るエルフも厄介でハンナに飛んでいく矢は雷撃でことごとく撃墜される。
「
どちらも忙しそうのはとうの
治癒魔術には構成時間が長くかかる特徴がある。もともと治癒魔術を扱える術者が世界的に少ないことで養成する機関も少ない。各国、各都市が現在「蛇の王国」の治療魔術士たちを当てにしているのは絶対数の少なさからでもあるのだ。
数少ない治療魔術士の花
それに相手のポールフラッグは
「ああ――――っと、試合が動きました!麗華選手倒れました―――――」
突然、流れた実況は
「ああ――――っと、試合が動きました!麗華選手倒れました―――――」
実況が叫ぶのと同時に観衆の目がグラウンドの1点に集中した。
観衆の視線の先には、倒れて大の字になった麗華とそれを追撃しようとする凍太の姿があった。
麗華はよろよろと立ち上がりながら得意の火球から、防御魔術へと構成を組み替えて凍太の放つ魔術を必死にこらえる。
凍太は手を休めずに――――フリッカ-ジャブを放つようにしながら連発で風で
造った弾を当て続けていた。
魔術防壁に隠れる様に身体をガードしながら麗華はじりじりと後退し、グラウンドの半ばまで下がっていったところで――――後ろから矢が飛び相手を貫くのを見た。
矢がそのまま通り過ぎ――――凍太へと突き刺さるのを麗華は魔術防壁越しに見ていた。矢は体に刺さり、血が噴き出している。
膝をついて必死に耐えているその光景を見て――――麗華の血の気も引いていった。
が――――今度は
「エンリケ選手!機を逃しません!
エンリケが
エンリケの放った弾は
「が・・・・ふぅ・・・」
矢が刺さった所は右のわき腹だった。
凍太はその場に血を吹きながら、膝をついたが――――すぐさまに矢を風刃で切り矢じりだけを体に残して傷口からでる血を自ら傷口を凍らせることで止血して見せた。
(油断した!あの位置から正確に当てて来るなんてロビンフッドかよ!)
胸中で毒づいて意識を前に集中させると、前にはまだ魔術防壁を張った麗華が建ってはいたが――――動けずにいた。
実況がエンリケの行動を叫んでいるのをきいて事態を把握した時にはもうエンリケの手によって相手が倒れるのが予測できた。
エンリケが作った突破口に続くつもりでいたが――――矢に貫かれたダメージは大きく動けそうにない。
後ろではハンナとアナトリーが防戦に回っている。右側ではカレルが連剣使いとしのぎを削っていた。
(やっぱり、行けそうなのは自分だけか・・・・)
凍太はそう判断すると、とっておきに取っておいた魔石を取り出して地面にぽとりと落として足でそのまま踏みつける様に地中に埋め込んで魔力を流し込んだ。
(
ヴェロニカに教わり途中だったゴーレムの作成を試合の中でくみ上げていく。
すぐに一体のゴーレムが不格好だったが――――完成した。
(組めた!ここに・・・・制御を加える!)
パスを通すようにゴーレムと自分を魔力経路でつないでリンクさせ、シシリーから教わった制御を実行に移す。魔力を一定以上流し込むとゴーレムが動き出した。
「凍太選手!ここにきてゴーレムを作り上げましたぁ!得物は――――どうやら麗華選手の様です!」
「恐らく、凍太選手はもう動けないんでしょう。ですが、自分の代わりを作って攻撃させることで試合の穴を埋めるつもりなんだと思います」
―――――負けるわけにはいかない。
その決意だけが凍太を動かしていた。
「ここは任せますよ。
「天女」が麗華のに向かうゴーレムを見て、治療魔術をくみ上げながら杖を上げたその時――――ダァンと言う一発の銃声が鳴って「天女」を後ろから貫いた。
「―――――!」
アナトリーの雷撃が
「アナトリー。「天女」を縛って」
倒れたままの「天女」を拘束術式で縛り上げるようにアナトリーに指示すると自分はすぐさま治療術式をくみ上げ、凍太の傷を回復するために構成を編み始めた。
――――わぁぁぁぁぁ!
一瞬の逆転劇に会場がわきかえる。
形成がひっくり返り、月狼国魔導学院の形成は一気に不利となった。
今動けているのは
ポールフラッグを守るものはいない。
そして、相手は着実に残る仲間を倒しにかかることは誰の目からも明らかだった。
湧きかえる会場の熱気に浮かされながら――――凍太はゴーレムを進軍させる。
(麗華をここで倒す)
荒い息を付きながら、制御をしつづける凍太は不意に自分の体から痛みが無くなっていくことに気づいた。
「凍太クン!時間を稼ぐだけでいいわ!!あとはエンリケに任せなさい!」
後ろからハンナが呼びかけるのが聞こえる。
アナトリーはカレルの横を通り抜け、エンリケのバックアップに向かっていた。
「「天女」と「護衛」は片づけたから、後はその子をポールフラッグに行かせないようにするのよ!」
凍太は手を上げてハンナに合図を返す。と――――制御の度合いを強めて狐娘に対峙させてそのまま覆いかぶさるようにゴーレムに指示を下した。
「いやぁぁぁぁ!」
麗華が恐れをなして、逃げようとするのをゴーレムが覆いかぶさり壁を作った所で――――凍太はゴーレムごと凍らせるようにして氷壁を麗華の周りへと展開させた。
ゴーレムが覆いかぶさりドーム状となった所で、隙間を氷壁でゴーレムもろとも凍らせることで麗華の足止めを着実にする。
そうしている間にエンリケがポールフラッグを奪取すると―――――
実況が「蛇の王国」の勝ちを宣言し――――会場にファンファーレが鳴り響いた。
試合が終わるとすぐに治療の為に王国側の手配で選手全員に治療魔術が施されることになった。
肩を打ち抜かれた
「天女」は自分で試合が終わると同時に自らを癒し、その後で仲間の治療もし始めた。
一方、傷を受けた凍太は眠らされ、矢じりを摘出された後でハンナの治療魔術によって傷をふさがれて今はあてがわれた特設テントの中で休息をとっているところだった。
やがてテントの幕が開き――――「天女」と麗華が姿を現した。
「何の様さ?」
凍太がぶっきらぼうに問うと、麗華が礼をして――――
「負けたわ。貴方の勝ちよ・・・・」
酷く暗い声で告げた。
見ると、悔しいのだろう。目には涙があふれていて耳は垂れ下がっていた。
「そっちも強かったよ。正直あんなに追い詰められたのは初めてかもしれない」
「・・・・え?」
「来年はどっちが勝つかわからないな」
凍太は正直に気持ちを吐き出した。
そして―――――
「仲直りしよう?」
そう言って手を差し伸べる―――――と、一瞬戸惑った様子を見せた麗華だったが――――やがて凍太の手を握って一言「ごめんなさい」と呟いて見せたのだった。
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