パースと人間と 2
「さあ、ここに入ってください。ちゃんと食事は与えますよ」
そう言うことじゃないだろ、とルゥロは呆れた。
ルチルクルーツと共に連れてこられたのは扉に特殊(とくしゅ)な結界を施(ほどこ)してある部屋だ。
押されるように部屋に入った後、扉の方を振り返ったが扉はなかった。
(これは人間には解けないな)
壁を触ったり、叩いてみたりしたが乾いた音が空しく鳴るだけだった。
諦めて部屋の中を見渡して見ると他にも人質がいるようだった。
人質はじっとルゥロとルチルクルーツを見ていた。
明かりがないのでお互いが誰だか分からなかった。
するとルチルクルーツは持っていた蝋燭(ろうそく)を取り出すと火を灯した。
蝋燭の暖かい光がほんのり部屋を明るくする。
「……第一王子」
誰かがそんなことを言った。
すると部屋にいた人質たちは立ち上がり、ルゥロに寄って集(たか)った。
「助けに来てくれたんですね!」
「流石ルゥロ様だ! 早く俺達をここから出してください」
口々にそう言ってくる人質たちにルゥロは困り果てた。
今、自分たちがこの部屋に入れられたのを見ていなかったのだろうか。
「ほらみろ! 王子は助けに来てくれたぞ。これでお前たちは終わりだ」
人質の一人が賊であるパースに言うように言葉を発した。
ルゥロは眉間に皺を寄せ、ルチルクルーツを見ようとしたが人だかりの外側で小さく跳ねており見ることが出来なかった。
賊に言うように言葉を発した人質を探していると部屋の奥で男がこちらに背を向けているのを発見した。
目を凝らして見ていると男の向かい側に誰かいるようだった。
「人外のくせに俺達をこんなところに閉じ込めやがって!」
男が大きな声で言いつけると、蝋燭の光に反射して光ったものが男に向かった。
「が――っ」
悲鳴にならない声が聞こえた。
「そいつらも人質だ。黙っていろ」
どさりと倒れた男の横を通り抜け、ルゥロから離れていく人質の中を歩いてきたのは布を深く被った男だった。
これもパースなのかと観察しているとルチルクルーツが駆け寄って来た。
ルゥロの背中に隠れるようにパースをじっと見る。
「あなた……、ハーフエルフね。でも、おかしいわ。人間の匂いがするもの」
「人間?」
訝しげにルチルクルーツに尋ねると彼女は頷いた。
もう一度、パースを観察してみる。
明かりと布でよくは見えないがルゥロはあることに気が付いた。
「ニミルに似てるな……」
驚きを含んだ声で呟いた。
するとパースは過剰に反応した。
いきなりルゥロの服を掴み上げる。
「ニミルって、ニミルのことか!? あんた、ニミルのことを知っているのか‼」
感情的に声を荒(あら)げる男にルゥロは思わず顔を顰(ひそ)めた。
ルゥロはそのままの態勢(たいせい)でパースを睨むと、パースは落ち着いたのか眉尻を下げ「そんなわけないか」と言った。
「友人だ」
頭を下げるパースに短く振り落とした。
すると勢いよく頭を上げてきたので仰け反る態勢となってしまった。
「友人って……本当にか? 嘘、じゃないだろうな」
やけに注意深く聞いてくるパースにルゥロはあんたの知り合いかどうかは分からないがな、とルチルクルーツの頭に手を乗せた。
ルチルクルーツもルゥロの背中から「私も知ってるよ」とパースに告げる。
「あんたと同じく白髪(はくはつ)でメッシュが入っている。赤色だけどな。瞳の色は若干薄い紫色だ。顔立ちも何処となく似ている。名前は……」
「ニミル・ゼノン」
ルゥロが言いかけたところでパースははっきりと言った。
「そうだ、ニミル・ゼノン。そしてあんたと同じくハーフエルフだ」
それを(きっかけ)にパースは部屋を飛び出していった。
パースが部屋から出て行く時、何もない壁から突然扉が現れたのをルゥロは見逃さなかった。
「ニミルの知り合いかな」
ルチルクルーツが壁に近寄り、扉が現れた場所に触れながらルゥロを振り返った。
「あいつから知り合いの話なんて一度も聞いたことないけどな」
ルゥロは何故か悲しい顔をした。
死人の夢ー死人と愉快な友人たちー 霧島兎柚 @kirishima-no-uyu
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