パースと人間と
仁王立ちする五人組を囲むようにパースが次々と現れた。
全員がルゥロ達を鋭(するど)く睨み付けている。
ルゥロ達の後ろでは真っ青な顔をしたサラが小刻(こきざ)みに震えていた。
「……誰ですか、貴方たちは」
賊のリーダーと思われる男がパースの間を抜けて現れた。
裕に二メートルを超えているであろう男は腕を組んで見下ろしてくる。
「人魚……」
ぼそりとセイテが呟いた。
ルゥロは心の内で驚くとまじまじと目の前の男を見た。
男はセイテが言ったとおり、人魚……というよりはそれに近い外見をしていた。
耳がある位置には鰭(ひれ)のようなものがあり、砂漠だというのに晒してある手足には鱗が見えた。
初めて見る人魚にルゥロは心が躍る気持ちだった。だが今はそんな状況ではない。
「博識(はくしき)な方もいたものですね。それで誰なんです?」
五人の中央に立つルゥロを品定めするようにじっくりと眺めた。
「この国の第一王子って言ったら分かるか?」
「やはりそうですか。でしたら貴方の話を聞くわけにはいきませんね。…この人たちを捕まえなさい。そこの娘は殺して構いません」
ルゥロの正体に臆(おく)することなく淡々と男は言い放った。
男の合図で一斉にパースが攻撃を仕掛けてきた。
「おい、ルゥロ。ここじゃあ、お前の権力は無意味だぜ」
「最初から当てにしてない!」
一旦、その場を離れる。
ルゥロは呆然としていたサラを担(かつ)ぐと屋根の上に飛び乗った。
それでも呆けている彼女にルゥロはため息をついた。
「どうするんだ」
隣にやって来たレックが腰の刀に手を添えながら聞いてくる。それに背筋がぞっとした。
レックはルゥロの顔が青褪(あおざ)めて行くのを見たが無視した。
パースはルゥロ達が屋根の上に逃げても特に驚くことは無い。むしろ、自分たちも飛び乗ってくる始末だ。
「サラがいる状態じゃきついな。取り敢えず、このパースたちを片付けるぞ」
ルゥロが言い終わるや否や、ニミルは空間から複雑な形状をした杖を取り出すと、手を交差させた。
「それは俺の得意分野じゃないか!」
無数の炎がパースに向かって飛び出した。
パースは水の壁を作る。
だがニミルの炎はそれをただの水蒸気へと変えた。
「なっ」
驚くパースに炎がぶつかっていく。
青い炎が点火し、燃え広がった。
「俺の炎は普通の炎より温度が高い、青い炎なんだよね」
今度は手を上へ振り上げる。
すると、青い炎が雨のように降ってくる。
「おい! 住民の被害を出すな!」
ルゥロが慌てて竜巻をお越し、青い炎を吹き飛ばした。
いきなり出した強大な力に軽く息が上がる。
それを好機だと見た、一人のパースが背負っていた大剣をルゥロに向けた。
「あ」
まずいというニミルの表情が見えた。それを最後にルゥロは気を失った。
「先に抜いておけばよかったな」
レックが冷静に刀を抜いた。
倒れたルゥロにはっと我に返ったサラは隣で失神している彼に悲鳴を上げた。
それを被せるように屋根の下からルチルクルーツの悲鳴が響く。
「ルクルっ」
ニミルが慌てて助けに行こうと飛び降りると今度はセイテが悲痛な声を上げる。
「兄上!」
倒れたルゥロを助ける暇もなく、パースに捕まってしまったのである。
ルゥロに気を取られていたルチルクルーツも捕まった。
二人を盾にされては何もできない。
レックは小さく舌打ちをすると何もない空間に真っ黒い闇を出現させた。
そしてニミルにサラを抱えさせるとセイテを連れて、闇の中へと消えて行った。
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