閑話



 リキ・ゼノンはある時、人間の残酷(ざんこく)さを目の当たりにした。

 仕事で訪れたことのある町で『人魚の肉』が売られていたのである。

 もしかしたら偽物かもしれない、とは思ったが、もしそうだったとしてそれに何の意味があるのだろうか。

 ハーフだからもちろん人間の血は流れている。

 リキはそれでも目の前の不可解なものを許すことが出来なかった。

 彼は込み上げる吐き気を何とか抑え、その場を後にした。

 それから砂漠化が起こり、あっという間に国は砂漠となった。

 本当に一瞬の出来事で茫然(ぼうぜん)としていたのをリキは覚えていた。

 正に悲劇(ひげき)。

 そんな砂漠化が起こってから人間の醜さを何処(どこ)にいても目にするようになった。

 人間への憎悪(ぞうお)は積(つ)もるばかり。

 積りに積もった思いはやがて行き先を失った。

 パースから人間への憎悪が溢れだす中、人間よりの彼がエルフの里に帰れるわけもなく、里から出たパースが集った『』に身を寄せた。

 『 』でリキは不祥事(ふしょうじ)の目立つ人間や町を襲(おそ)ってきた。

 そう、これは彼等にとって『正しいこと』。

 やり方は間違っているかもしれない。けれど、正しいことなのだ。

 「あと少し……。これが終われば完成するんだ……」

 人質の眠る小屋でリキは暗闇と同化していた。

 紫色の瞳がその中で怪しく光る。

 そろそろ人質の食事が来る時間だと思った時だった。

 物凄い轟音(ごうおん)と共に地面を叩き割るような衝撃(しょうげき)が全身を駆け抜けた。

 人質も同様、リキは肩を震わせた。

 誰もが立ち上がり、外を見ようと窓に近寄っていく。

 町中に緊張感が走る中、ひょうきんな声が空気を支配する。

 「クラック! これが俺達『友人組』だぜ」

 聞いたことのある声に町に群がる人質を押し分け、窓から身を乗り出した。

 視界に映るのは地面の大きな穴。それを背にして仁王立ちをしている五人組。

 誰が言ったのか、把握は出来なかった。

 ただあの声は耳に残ってリキの心を締め付ける。

 (この声は……)

 男性らしく低くなった声色、でも笑みを含んだように聞こえる声は間違えない。

 リキは弟を亡くしてから初めて心からの笑顔を見せた。


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