砂漠渡り 3
「さあ、カーテルネットまでもうすぐだ! 頑張っていくよ」
眠気に目を擦(こす)る五人を他所(よそ)にニミルは実に愉快(ゆかい)そうに言った。
ニミルは朝に強いのである。
未(いま)だに顔を洗う面々にさっさと寝袋を仕舞(しま)うと朝食の準備にかかる。
一人暮らしで培(つちか)った自炊(じすい)の力を見せてやろうと薪(たきぎ)に火をつける。
「砂漠だから凝(こ)ったものは作れないけど、これくらいなら」
ニミルは昨夜作っていたガスパッチョをマグカップに注いでいく。
トマトの香りが鼻腔(びこう)をくすぐる。
人数分注ぎ終わると、今度はパンを取り出した。パンはガスパッチョに漬けて食べる分と、そのまま食べる分を並べる。
どんどん出来上がっていく朝食に一番に出発の準備を整えたルゥロがニミルの手元を覗(のぞ)き込む。
「お、おいしそうだな。ところで紅茶はないのか?」
「……こんな暑い中でも紅茶飲むの? てか、ちゃんと布を被らないと焼けるぜ」
ニミルはルゥロの布を頭に被せるように引っ張った。
「あー、すっかり忘れてた」
ルゥロは苦笑して、布を綺麗に整えた。
全員が出発の準備を終えると朝食の時間が始まった。
照りつける太陽を背に食べるご飯をおいしいとは言えない。急いで食べてカーテルネットに着いた方が絶対に良いだろうと、パンを口に詰め込む。
食事中、ルゥロはずっと紅茶を飲みたいと呟いていた。
「着いたらティータイムにしよっか。兄上はピーチとレモンどっちがいい?」
「ピーチだな」
町に着いたらどんな紅茶を飲むか、楽しそうに話す二人にサラは唖然としていた。
それを見たルチルクルーツがくすりと笑う。
「この二人はね、アテナ様が栽培(さいばい)しているお茶の葉が大好きなの。それを紅茶にするのがセイテの役目よ。セイテの紅茶はとってもおいしいの」
「へー、セイテ様は紅茶を淹れる趣味があるのですね」
「正しく言えば、母上の作った茶葉でだけど」
セイテは大したことないと小さく舌を出した。
「俺も紅茶を淹れたりするが、やっぱりセイテのには負けるな」
パンを頬張(ほおば)りながら言うルゥロにレックが、行儀(ぎょうぎ)が悪いと注意する。
それを気にする様子もなく、ルゥロはパンを飲み込むと勢いよく立ち上がった。
「それではカーテルネットまで一気に行きますか!」
颯爽(さっそう)と歩き出した。
それについて行くようにセイテ、レックと立ち上がって歩き出した。
ルチルクルーツが最後に水で火を消すと、六人の最後の砂漠渡りが始まった。
暫(しばら)く歩いたところに砂丘(さきゅう)があったので登ってみると視界の端に建物が見えた。
もう少しでカーテルネットに着くのだと知るとルゥロはため息をついた。
歩きでの砂漠渡りはもう懲(こ)り懲(こ)りだと肩を降ろす。
「あ! あれですね。あれがカーテルネットです」
サラが少し前に出て、町を指差した。
町と言ってもそれほど建物は無く、閑散(かんさん)としていた。
オアシスと呼べるほどの緑と青がまったく見えない。
ルゥロは砂漠化の現状をこの目で初めて見た。
しっかりと忘れないように目に焼き付けていると、どうやったら暮らしていけるのかと疑問が浮かんできた。
深く考えず口を開きかけたところをサラに遮られた。
「それでどうしますか? 町は賊の縄張(なわば)りです。ほら」
サラが指差した先には一際高い建物があった。
この建物は見張り台らしく、賊が町を縄張りにする前はなかったそうだ。
「砂漠化のせいで町に外部の人間が来ることは無くなったんですが、建てると言って聞かなくて。建てたのは彼らで見張りをしているのも彼らです」
ここからでは見張り台に誰かがいるというのは伺えないが、向こうはパースの特性(とくせい)も相まってかなりの広範囲(こうはんい)が見えるらしい。
サラにここも見えるのではないかと尋ねるとぎりぎり見えないのだと言われた。
「死角になるところはないのか?」
「そういう場所には別の見張りがいます」
(隙なしってことだな……。どうしたもんか)
ルゥロは顎に手を添え、考えた。そこであることを思いついた。
「俺に考えがある」
腰に手を当て言い始めると何故かサラが青褪(あおざ)めた顔をした。
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