第2話 学校生活は賑やかだ。

 毎日の日常生活には必要3技能が存在している。

 まず一番重要な食事。この技能はあってもなくても良いが、実際的あった方が金額的に安く財布が少しばかり軽くなる事や生活的には真夏の日や真冬の日に外食やコンビニへ食べ物を買いに行かなくてはならない。だが暑くて自宅から出たくないという人々が大半を占めるだろう。結論、食事技能は必要だと俺は思うわけだ。

 そして2つ目はもちろん掃除、洗濯技能。まぁ、洗濯を技能と呼ぶのはどうかと思うが、掃除や洗濯をしなければ洗濯物や埃、ゴミなどは溜まっていき自宅がゴミ屋敷と化してしまう。というのを先日とある番組でやっていたような気がする。

 最後は、人間関係。これは、俺が5年ほど前まで悩んでいたこと。人間関係の中で最も重要なことはコミュニケーション能力だ。このコミュニケーション能力がないと人間関係すら構成されることがないと思う。

 では、どうしたらコミュニケーション能力が付くのか?そりゃあ、簡単だ。まずは、人に共感してみること! まぁ、人間観察だね。そうしているうちに周りの人間関係が徐々にわかっていき自分には何が足りないのかがわかってくるはずっ! 以上の3技能が日常生活には必要になってくる。

 そして僕にはこの3技能があの事故から……いや、もっと前か? 妹を亡くしたという衝撃ですべてのやる気が出ず、すべてを幼馴染の廣田優衣ひろたゆいに任せっきりになっていた。

「そうくんっ!」

 リビングの扉を開けると廣田がムッとした顔で机に広げてある朝食の前に座っていた。

「お、おはよ。」

「おはよっ! ……じゃないよっ! どうして毎朝、幼馴染が横で寝ていて普通にいられるの‼ やっぱりそうくんには足りないものがあると思うのよっ。だからね……」

 と、食事中なぜ毎度毎度同じことを繰り返すのかはわからないがさっさと学校行かないと遅刻するので、リビングの扉を開けて俺は言う。

「おーい! 廣田っ! 早くしないと遅刻するぞ!」

というと、毎回のようにこういい返してくる。

「……でね、私には……って‼ 聞きなさいよぉ~。」

「んー。わかった。じゃあ先行ってるから、今日は俺たちが日直なんだから遅刻するなよっ!」

「あぁ~。行くっ行くから置いてかないでぇ~。」

 といい、廣田は机からバックを取り玄関で俺を睨んでくる。

「なんだ? お前はあれか? 俺の姉か?」

 というと廣田の顔はパァーと明るくなり……

「おぉ~! なんかそれいいねっ! やっぱり私って姉っぽい? 姉っぽいよね!」

「てか、お前は俺と結婚したいんだろ?」

 すると、廣田は顔が赤くなりそっぽを向きながらツンデレらしく言い張った。

「ふぁっ! そ、そうよっ! 私は絶対にそうくんと結婚してやるんだからっ‼」

「じゃあ、あれだな。姉だとすると俺との結婚も無理だな」

「なっ!なによ。だって私は……」

「っていうか……。俺は、結婚なんてもともと興味ねぇからな。」

「えぇ~。そんなぁ~。」

 廣田は、ガッカリした顔で俺の後をついてきていた。なんかこういうのっていいなぁ~と俺は思うのだ。


   ***


 そして俺たちは、いつものように会話をしながら高校に向かう。

自宅から十五分ほど歩くと高校の校門前に到着する。校門の横には木の板に筆記体ひっきたいで書かれた昔懐かしいような文字で学校名が書かれて貼り付けられていた。

美明みあけ学園』そう、この学園が僕たちの通っている高等学校。東京都の西部のちょっとした田舎に大きな敷地を持つ都立高校だ、この夏の季節は山の中に立地しているだけあって蝉や鳥、昆虫が授業中に騒がしいほど鳴く賑やかな学校生活となる。

 校門をくぐり本校舎の生徒玄関へと続く長い並木道を歩いていると後ろからもう聞きなれた声と駆け音が徐々に近づいてくる。

「お~い! 颯太そうた~。今日も、はえーじゃねぇか‼」

 いつも声が聞こえ振り返ると、学校指定の夏服の上にオレンジの上着を羽織って、風になびかせながら走ってくる、金髪イコール不良の男子こと藤澤駿介ふじさわしゅんすけ

「早いのは当たり前だ。学校をサボっていたぶん、あの体育教師に夏休みまで毎日、早朝登校そうちょうとうこうしろと、言われているんだぞ?」

「あ。いやさ~。それは、知ってるけど……。なんで今日は、ひろたちんと一緒なんだ? だって、いつもの颯太なら、ひろたちんを置いてきているじゃねえか(笑)」

 金髪は道でしゃがみ丸くなり大笑いをしていた。そしてそれを俺の隣で見ていた廣田が『うわぁ~。ひいちゃうよ~』と言いたそうな可哀想な人を見る目で見下ろしていた。

「まあな。だが今日は日直だからどっちか一人でもサボったらゆうちゃん先生に怒られちゃうからなぁ~」

「はぁ。はぁ……。ふぅー。そうだな、ゆうちゃん先生はいつもはあんなにかわいいのにサボったりするとマジで本気で怒るから、おこらせたくないよな」


 ゆうちゃん先生――俺たち三年六組の担任の先生こと桜咲夕夏さくらさきゆうか先生。身長が生徒たちと同じことから生徒たちからは同級生扱いされている為、いつも生徒たちは夕夏先生のことをあだ名をつけて、ゆうちゃん先生と呼んでいる。ゆうちゃん先生は校長先生から『生徒たちと馴れ馴れしく仲良くなるなっ‼ 君は、少しは先生としての自覚を持ってはくれないか?』と言われており、去年の夏ごろからゆうちゃん先生は生徒たちに怒るときは本気で行こうと決めているらしい。


「お前は、そう自分で言っているんだったら怒られないように少しは努力しろよっ! なんで毎日のようにゆうちゃん先生に怒られるようなことをするんだよ……俺はその精神を聞きたいよ……。」

 金髪は、なぜだか毎日のようにゆうちゃん先生に向かって失礼なことをするのだ。それにより少しゆうちゃん先生が最近、疲れてきているような気がする。

 俺の言葉に金髪は少し悩む仕草をしたと思いきや、てへぺろ☆と俺に向かってやってきた。少しイラッと来たので思いっきり金髪の足を踏んでやった。((てへぺろ☆

「痛っ‼ 痛いってば! なぜ毎度毎度、颯太は俺の足を踏んでくるんだよっ‼  ……これ、結構痛いんだよぉ~(泣)」

 いや、これはお前が俺をイラッとさせるのがいけないんだよ。

「お前が悪い。」

「なんか‼ 一言で済まされた?!」

 この会話を隣でクスクスと廣田が笑っていた。

 まぁ、こんなくだらない会話をしている内にもう、本校舎の生徒玄関に辿り着いていた。そこで皆が靴を履きかえるためにいったん解散する。

 そしていち早く履き終えた颯太は、生徒玄関に設置されている二台の自動販売機でいつものようにお茶を買う。ちなみにこの学校の自動販売機は、一般のコンビニよりも五十円ほど安く販売されている。

 少し飲んでいるとすぐに全員が集まった。

「さ。さっさと教室に行きますかぁ~。」

 生徒玄関を入ってすぐにある中央階段を五階まで上がっていく。エレベーターもあるが、実際エレベーターの使用率が高いためなかなか一階まで降りてこないのだ。

 五階の三年六組の自分のクラスの前に辿り着くと、いつものように扉を開ける。すると教室の中から、気持ちのいい涼風が体を擦っていく。

「あぁ~。今日も教室は涼しいなぁ~」

 俺は、この教室のこの涼しさが一番好きだ。空気がいいし気持ちがいいし眠るのには最適な室内環境だ。

 そして、教室の奥から退屈そうに頬杖ほおづえをついていた一人の女子が俺たちに近づいてきた。

「やっほ~‼ おはよ~颯太~。」

「おはようっ‼ 美咲は今日も一番だったんだな。」

 教室で退屈そうにしてたのは、犬塚美咲いぬずかみさきだ。左側にサイドテールを付けたなかなかテンションが高い女子だ。3学年に進級して同じクラスになった時にたまたま友達になった子だ。

「おうよっ‼ 一番は最高だよ~。誰もいない静かな教室で……」

「最高って……。お前、俺たちが教室に入ってくるまで退屈そうにしてたじゃないか。どこが最高なんだよ」

「いや、私さ。今、その事について話してたよね?! 少しは人の話を聞いてよ~」

「あっ! ごめん興味ないわ。」

「うわっ‼ ひどっ!」

 そして、時計を見ると七時半を回っていた。先生には七時四十五分に新校舎にある印刷室に来いと言われていた。

「んじゃあ、日直だからまた後でなぁっ!」

 美咲は、呆れ顔になり半笑いをしながら手を振った。


   ***


 教室を出て北側にある階段を2階まで降りると、新校舎へと続く渡り廊下が見えてくる。そして、渡り廊下を歩いていると前からもう、見慣れた教師の姿が見えた。

「ゆうちゃん先生っ! どうしたんですか? 印刷室にいるはずじゃなかったんですか?」

「ゆうちゃん先生って呼ばないでっ‼ ……あ。それはね。さっき職員室に呼ばれちゃってね。」

 先生は、少し顔を青くして、苦笑いをしていた。

「ま、まぁ。プリントとかは印刷室の右端の小さな机に置いてあるから、そこから持っていってね!」

「了解ですっ! ゆうちゃん先生!」

 しかし先生は、職員室へは向かわず、俺の周りをキョロキョロしていた。

「どうしたんですか?」

「いや、今日の日直って、優衣さんと君だよね? ……どうしてか、優衣さんがみえないんですけど……。」

 そう言われて、確認するように周りを見渡しても廣田の姿がまったく見えなかった。

「あれ? 本当だっ‼ いない!」

 今思えば、教室へ向かってから廣田のことをまったく気にしてなかったからどこで消えたのかもわからなかった。

「まぁ。今日は、二人が日直なんだからしっかりしなさいね。」

 先生は、そういうと小走りで職員室へ向かって行ってしまった。

とりあえず、俺は新校舎の三階にある印刷室へと向かった。


 印刷室の前に着き、扉を開くと室内から新刊が並んでる本屋さんと同じ、インクと新品の紙が混ざり合った心地よい匂いが漂ってきた。

 そして、入ってすぐの右の端にある小さな机を見つけた。

「お、あった。あった。……って。」

 見るとそこには、巨大な用紙のタワーが建っていた。

「な、なんだこれ。」

一番上の紙を一枚とってみると、白紙だった。次の紙を見てみても白紙……。この白紙の紙の束に圧倒されて、眺めていると真ん中あたりの所に大きな紙に文字が書かれていた。

『7月8日到着済み。(A4版 業務用白紙原稿用紙)×6』

「……。ただの新品の白紙の紙の束じゃねぇか」

 そして俺は、ゆうちゃん先生に言われた小さな机をもう一度探してみる。すると、その巨大な用紙のタワーのすぐ横に六十枚ほどのプリントの束があった。

「なんだよ……。普通にプリントが置いてあるし」

 颯太は、置いてあったプリントを持ち扉まで歩き扉を開ける。

「ん?? なぁっ!」

 扉を開けると、ちょうど向こうから入ってこようとしてる人が驚きの声をあげた。だが、扉を開けてすぐの事だったので回避行動をとることが出来ず、そのままぶつかってしまいお互いに転んでしまった。もちろんプリントはあちらこちらに散らばった。

「いでっ!」

 俺も、ぶつかった衝撃で声をあげてしまった。

 すぐに、ぶつかってしまった人が大丈夫か確認しようと目を開けると、目の前には高校生にしては背が小さいロングストレートの女の子がお尻を擦っていた。これを見た颯太は約一分ほど脳内の思考がスリープ状態になっていた。

 そうしている内に、女の子は立ち上がり俺の目の前まで近づいてきた。

「えっ、えっと~。お怪我はありませんか?」

 女の子の言葉で俺の思考が元に戻り、すぐに返答した。

「あ。俺は大丈夫だけど、君は大丈夫?」

 女の子はコクリと頷き、周りに散らばったプリントを素早く拾い集めて一分ほどで手渡してくれた。

「はい。平気です。すみませんでした。」

 そういうと、女の子はスタスタと印刷室の中へ入って行ってしまった。だが、追求するのも悪いので俺はそのまま扉を閉めて教室まで帰る道を歩き出した。

「あの子にちょっと悪いことをしちゃったなぁ……。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Regain-鈴の音- 水谷かおる @suyatami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ