Regain-鈴の音-

水谷かおる

第1話 プロローグ的な何か?

 いつもと変わらずに一日がゆっくりと過ぎていく週末の日曜日。


 日差しが徐々に強くなり始め気温も上昇し始めた六月上旬。近所にある大型スーパーへと冷え冷えのアイスを小学五年生の妹(絢香あいか)と共に買いに出かけていた。


 自宅を出てから五分程しか経っていないにもかかわらず、額から汗がたらりと一滴、二滴と垂れてくるのだ……。まぁ。実際、休日は自宅でオンラインゲームをほぼ休憩なしのオールでやっているし、平日は学校には行くものの、授業には一切参加せず屋上や空き教室でゲームの攻略術などを考えているのだ。案の定、運動なんてほとんどしないし外出は、学校に通う時と、こうして妹の買い物に付き合ってあげる時だけなのだ。


 自宅を出て約八分……。ようやく大型スーパーの建っている大通り(国道)に出た。俺は、この先にある物に大きくため息をついた。

「お兄ちゃん……。なんでまたこの信号機を見ただけで、ため息を吐くかな? そんなに長くないと思うんだけどなぁ~。」

 妹は、前を向いて歩きながら首を傾けて言っていた。

「いやさ、ここの信号はおかしいと思うんだよ。なんでスーパーのある大通りの反対側へ渡る歩行者信号が青になってから一分程で赤に変わってしまうのに、なんで真っ直ぐ行く歩行者信号は青になってから赤に変わるまで三分もかかるんだよ!」

 そう。大型スーパーのある向こうへ渡ろうとして信号が赤に変わると青になるまでこの場で三分も待たなきゃいけないのだ。

「あはは……。ここの交差点は大きな国道と小さな一般道が交差しているから片方の信号が長くなっちゃうのは仕方ないよ(苦笑)」

 それは、普通に正論だった。しかし俺には半分納得がいかなかったが、今はこんなことを考えても意味がないと思い俺も妹に苦笑いを返した。


 そして話しているうちにその横断歩道へ到着した。今回は、ちょうど信号機が青に変わってくれたためすぐに渡りはじめることができた。妹は先に歩いて渡って行き。俺は妹を追いかけようと、渡ろうとした。が、直後に歩行者用信号機が点滅を始めたので俺は、点字ブロックの所で信号が青になるまで待つことを決めた。


 妹はというと、大通りの真ん中の中央分離帯らへんの横断歩道で突っ立っていた。俺は、妹がきょろきょろしながら突っ立っているので、

「信号が赤になる前に渡っちゃいなっ!」

と俺は叫んだ。すると妹は、俺のほうに振り返り考え込みながら言った。

「え? 渡っていいの? 大丈夫?」

 そう言ったので、俺はまた叫んだ。

「うん! もちろん大丈夫だよ! ほらっ。急いで‼」

 すると妹は、俺に向かって首を傾げてから。自分でやっと納得がいったのか首を縦に振って道路の向こう側に向かって走って行った。俺は安堵のため息を吐いた。


 その時だった‼


 向こうから物凄いスピードで交差点へ侵入しようとする車が徐々に近づいてきていた。

 俺は、すぐにその車が何かを気づくことができた。それはもちろん、皆がよく見慣れている白い車に赤いラインの入ってサイレンを鳴らしながら走る車……救急車だ。


 混乱した俺は、妹に向かって戻れっ! と叫んでしまった。その言葉を聞いた妹は、へ? って顔をして立ち止まり俺のほうを振り返ったのだ……。


 そして…………。



 救急車は、俺の妹を引いた後、急ブレーキをかけて止まったのだ。


 俺は、急いで妹に向かって駆け寄った。

 駆け寄って見ると、額や身体中からだじゅうのあちこちから大量の血が流れ出ていた。パニックになりながらも俺は、自分は何が出来るかを考えた……が全く思いつかなかった。結局俺は、妹の名前を何度も何度も呼び続けた。しかし、反応することは一切なかった……。


 俺は、絶望のどん底に落とされたような気分になりその場で初めてだろう程の量の涙を流した。そして、周りが騒然となっていることを俺は、気にすることはなかった。



 どうして……どうして……これは、俺が悪いんだ。俺が止めなければ。俺が隣を一緒に歩いてあげていれば……きっと、きっと…………。


***


「うっ!」

身体中が重い……。なんだろう。

 今、夢の中で久しぶりに過去の自分を後悔していたような気がする……。

「……やく」

 でもほんのりとしたいい匂いとなんというか懐かしいような囁き声が俺の目を覚まさせた。


――うっ。まぶしい。

 目を開けるとそこにはいつもの風景があった。

 スマホには、七月九日(水)六時三二分と書いてあった。


 カーテンが全開にあいた窓から太陽の光が部屋全体に差し込んでいる。外からは、鳥がチュンチュンと鳴いているのが聞こえる。

 そして、今日も一日頑張ろう! そう思い、体を起き上がらせようとして……っと俺は、あのちょっとした重さとほんのりとしたいい匂いの正体がやっとわかったのだ。

 そう……幼馴染の廣田優衣ひろたゆいが俺にかぶさりながら寝ていた。たぶん俺を起こそうとしたけど結局起きなかったため、そのまま疲れて寝てしまったのだろう。

「……ん。あ。そうくん?……。」

 幼馴染の廣田は、俺が起きたことに気づいたのか、目が覚めた。

「おう。おはよう。」

「おは。……やっと起きてくれたの?」

 幼馴染は、目を擦りながらドアの方まで歩いて行き。こう言った。

「そうくんのエッチ!」

……えーと。どうしてこうなったか自分にも理解できないがまぁ。良くあることだからこういうことにする。

「うむ。今日もお前は、俺を起こせずに寝てしまったのか……。そのおかげで、今日も朝から身体中が痛いぜ。そろそろ諦めたらどうだ?」

 最近は、同じことばかり繰り返しているような気がするのだ。

「なっ!ばっ、ばっかじゃないの⁉ は、早く着替えてよねっ! リビングでいつもどおり待ってるからねっ!」

 そういって、部屋から出ていった。

「騒がしい奴だな……。」

 俺は、苦笑いしかできなかった。


 そして俺は、ベットから抜け出し、急いで着替えを始める。そうしないと、また廣田に怒られてしまう。

それから、顔を洗って髪を整えてさあっ!行きますかっ!

 そして俺は、リビングのドアを開けた。



 この日常がいつまでもずっと、ず~っと。続けばいいのに。そうすれば、俺、桜坂颯太さくらざかそうたは昔のことを思い出さずに済むのだから……………。

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