〈2〉「死のあり方が異なるから」

 死のあり方は星に依る。


 信じがたいことだが、それは正しい。

 ある星で当たり前のように行われているものが、別の星では違うなんてことはままある。たとえば文化や慣習、そして死。


「文化や慣習が異なるってのは、あくまでもひとつの帰結だよ。死のあり方が異なるから、文化や慣習が異なってしまうんだ」


 かつてテグリはそんなことを教えてくれた。たとえばね、と続ける。


「死ぬと体が腐り始める星があるとするだろう? すると、その星では死んだ者をただ放置するのではなく、きちんと『処理』する。なにしろ、腐る物体は衛生的によくないものだから。よくない病気なんかが、その死体を媒介して蔓延することだって考えられる。だから『処理』する。燃やすあたりが妥当かな」


 燃やす。

 それを聞いたとき、なんて残酷な話だろうと思った。でもそんな星も確かにあるのだ。きっと彼女は、実際に自分の目で見てきたのだろう。


 だから、今回の星の死は、氷なのだ。


「凍るんだろうね、体が」


 とテグリは言った。


「死ぬと体が凍って氷像になる。体が凍るだなんて不思議な話だね。きっと水が凍るのとは別の化学反応が生じてるはずさ。だから常温であっても溶けることなく、死んだときの姿のまま保たれてるんだ」


「でも……」


 そんな言葉だけが宙を舞った。

 ぼくはしばしば言い淀む。テグリほど自由に言葉を用いていない。のどの奥で言葉が不定形な状態で詰まり、吐き出そうとする頃には消えてしまう。


 ぼくは思うのだ。


 であればなんで、この氷像は、この女性は、こんなにも穏やかな表情をしているのだろう、と。




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